December 25
す、と眠気が去って行った。
僅かに、枕元に置いた目覚し時計が、チクタクと音を刻んでいた。
目を遣ると、時刻は15:37。
クリスマス・ディだ。

腕の中、サンジがまだ眠っている。
胸元に蹲った金色。
柔らかな髪に口付けた。

眠ったのは、結局午前2時近くだった。
サンジが意識を失うまで、抱いていた。
その後に、くったりとした身体を風呂に入れて。
髪を洗って、乾かしてから、抱き込んで眠った。
途中、何度か目を覚まし。
サンジが深い眠りにいるのを確かめてから、また眠った。
合計して、8時間ほど眠ったのだろうか。
少し、眠りすぎかもしれない。

する、と胸元の辺り。まだ目覚めないサンジが、額を擦りつけてきた。
笑って髪を梳く。
空気の冷え込み具合からいって、外は雪が更に積もっているのだろう。
温かい布団の中、温かい身体をそうっと抱きしめる。
サンジが、ふう、と息を長く吐いていた。
トラフィックの音は聴こえない。
教会の鐘も、しばらくは鳴っていない。
シンと静まった空気。
サンジの寝息だけが、耳に聞こえる総てだ。

サンジが少し、身じろいでいた。
もう少しで日が落ちる。
冬の一日は短い。

サンジの指先がぴく、と僅かに動いて。
腕の辺りを、そっと握られた。
「………ん、」
くう、と益々強く、額を押し付けられる。
笑う。
「Baby, it's Christmas」
囁く。
「…んン、」
「If you don't open your eyes, it'll be the Boxing Day」

ぺた、と一層くっ付いてくるサンジに。
目を覚まさないと、26日になっちまうぞ、と告げる。
まあ、それでも構わないんだが。
ふふ、とサンジが笑う声が聴こえた。
掠れた声、それでも目は覚めたらしい。
「Merry Christmas, darlin' angel」

サンジの頭に口付ける。
きゅう、と全身で抱きしめられる。
笑う。
「Happy Holidays, 」
「起きれるか?」
髪を撫でて訊く。

すい、と視線が上げられた、
見詰め返してくる目元、赤く染まって。
けれど、微笑んでいた。
身を起こして、サンジの唇に口付けを落とす。
「もう少し寝てるか?」
「起きる…、」
「Alright」
寒いぞ、と笑いかけると。
「くっついてるもん、」
サンジがふわん、と笑って起き上がった。
「服、出そうか」
布団から抜け出す。

「あのさ?」
足元から立ち上る寒さ。
下の住民は、留守らしい。
熱が上がってこないのが残念だ。
「ン?」
布団に包まったままのサンジを振り返る。
「ゾロ?」
「なんだ?」
「部屋にいるよね…?」

にこにことしてるサンジに笑いかける。
「昨日出かける前から、七面鳥、出しっぱなしだろう?イイカゲン解凍されてるからな、料理しちまわないと」
口付けを頭の天辺に落とす。
「だったら。ちょっとだけドレスアップしてよう?ディナー」
す、とサンジが目を細めていた。
「And why not?」
笑いかける。

「じゃあ、服を出すから。何を着るか言え」
「ウン?おまえが選んでよ」
「オーケイ」
見上げた目元、ふんわりと目元に微笑みを刻んでいた。
「電気つけるぞ」

部屋のライトを点けた。
暗闇が、瞬時に明るくなる。
「―――眩し、」
「頑張ったからな、オマエ」
笑いかけて、引き出しを開ける。
「―――バッ…」

サンジが目の端で、肩の辺りまで赤くなっていたのが見えた。
「You were wonderful」
アイスグレーのシルク・シャツを取り出す。
次の引き出しを開けて、ウールのチャーコルグレイのズボンを出す。
自分用に、黒いピン・ストライプのシャツを出して。

「Did I fill you up?」
くすん、と笑ったサンジを見遣る。
「More than I ever imagined」
満たされたか、という問いに。
予想以上に、と答えた。
す、と笑みを残したままで、両腕を広げたサンジを抱きしめる。
「But don't you be mistaken」
口付けを落とす。
「You are wonderful now, too」

「―――大好きだよ、」
そうっと言葉にしたサンジに、深く口付ける。
オマエは、今も素敵だ。
抱かれている時のオマエも。
笑っているオマエも。
愛しているよ、オマエを。
愛しい天使。

サンジの指が、肩にく、と埋められた。
柔らかく舌を吸い上げ、甘く噛む。
ひんやりと冷え始めた肌を、掌で愛撫する。
そうっと口付けを解く。
「ほら、冷え切っちまう前に、着替えろ」
それとも。
「風呂に入って、さっぱりするか、先に?」

「――――あ、」
潤んだ目で、笑いかけてくるサンジの頬を撫でる。
「ン?」
「また、やっちゃった、おれ……?」
「…可愛かったよ」
目元に口付ける。
「…うー、」
笑って抱きしめる。
「起きてようと思うのになぁ…」
「オマエの意識が飛ぶまで愛せて。オレは嬉しいけどな」
「そう…?じゃ、いっか?」

腕を解いて、自分の黒のズボンを取り出しに戻る。
戻って、二人分の着替えをサンジの腕の中に落とし。
「…目覚めには、シャワーだよな」
にこ、と笑って受け取ったサンジを抱え上げる。
「うわ、おれいいってば・・・・・・」
「折角ドレスアップするなら、元からしないとな」
「あ、覚えてろよ?沫だらけにしてやる」



風呂から出て、着替え終わって。
キッチン、オーヴンを点けた。
「ターキー焼くの、手伝おうか?」
解凍されきった七面鳥をまな板の上に乗せる。
「うん?いや、いいよ」
するん、と後ろから覗き込んできたサンジに答える。
「オマエ、白っぽい生地着てるからな。汚したら大変だ」
「なぁんで。へいき」
喉骨を出してから、洗って水気を拭き取った七面鳥の内側をレモンで拭っていく。

ペタ、と背中にくっ付いて、両脇から腕を出しているサンジに、コラ、と声をかけた。
「あとでオマエの手を食べるから。生臭くなったら困る」
冗談交じりに言う。
「変わりにセロリとスタッフィング、冷蔵庫から出してくれ」
カリ、と肩口を齧られた。
はァい、と答えが返ってきて。
する、と体温が離れた。
冷蔵庫、開けられる音。
がさ、とビニールが鳴って。
冷蔵庫、閉じられた音。

一度手を洗って、サンジが差し出してきたものを受け取る。
「なぁ、おれの指よりこっちのブドウの方が美味そう」
あとで食っていい?と訊いてきたサンジの頬に口付ける。
「Certainly」

ソーセージミートに、ハーヴ数種類とパン粉と、ペッパーを加える。
隣でふふん、とサンジが笑っていた。
「おまえ、料理するの似合うね?」
ミックスしたものを玉状にして。
七面鳥の体内にセロリの葉っぱを結わいて入れた後、入れていく。
「自炊生活が長かったからな」
軽く片目を瞑ってみせた。

ラードを七面鳥の上にかけて。
その上から、ベーコンを乗せていく。
温まったオーヴンの中に入れて。
「焼きあがるの、時間がかかるぞ」
クラッカーを摘んでいるサンジに、手を洗いながら告げた。
ついでに周りをキレイに片付けて。

サンジが取り出しておいた葡萄を水洗いする。
さくさく、とクラコットを食べている音が、サンジから聴こえる。
「腹減ったか?」
手を一度拭いて、キッチンの台の上にサンジを座らせる。
「12時間くらいモノ食ってないもん、よく考えたら。」
目線がサンジのほうが上になった。
笑いかける。
「結局、昨日はメシ、食わなかったからな」
「ふわふわしてて、気持ち良いけどね」

そう言ったサンジに、トン、と口付ける。
「あんまり炭水化物を摂取するな」
洗いたての葡萄の皮を剥く。
「ん?なんで」
「水分摂取も兼ねて、こっちを食え」
丸い、黒味がかった透明の緑の果物を、サンジの唇に押し当てた。
「喉、渇いてるだろう?」

「―――ン、」
薄く開いた唇の間に、葡萄の実を押し込む。
指先で、サンジの濡れた唇を撫でて。
それから、ついでに自分の指を舐める。
「…甘いな」
次の葡萄を剥く。
差し出す、サンジの唇に当てて。
つるり、と飲み込んでいたサンジと目が合った。
微笑みかける。
「美味いか…?」
「オイシイ、」
「そうか」
次の実を、サンジの口にそうっと押し入れた。

舌先が、僅かに指の先を舐めていっていた。
笑って、サンジの唇に口付ける。
「―――ふ、」
笑い声が、途中でくぐもっていた。
唇を離して、次の葡萄の皮を剥く。
「ほら」
サンジの唇の前に、葡萄を摘んで差し出す。
あん、と開いた口に、それをそうっと放り込む。

「オマエが食うと。ほんとうに美味そうだ」
ちゅ、と唇に口付ける。
「おまえもたべる?」
唇が触れる距離で言ってきたサンジ。
首に片手が伸ばされた。
「食いたいな」

サンジの腰に、腕を回した。
ちゅ、とキスをされて。
サンジの手が、葡萄を取っていた。
少し分厚めの薄皮をつるり、と剥いて。
濡れたままの指先はそのままに、口許に差し出された。
ぱく、とサンジの指ごと咥える。
「ん、」

ざらり、と甘味を拭い取って。
ゆら、とサンジの眼差しがゆれていた。
厚めの果肉を噛み砕く。
こくり、と呑み込む。
濃い甘味と、僅かな渋みが口中に広がる。
「…美味いな」

ぺろ、と唇を、サンジの舌先が触れて行った。
次の葡萄、剥かれていく。
手首まで垂れていっていた果汁を、赤い舌がぺろりと拭っているのが間近で見えた。
く、と果肉が唇に押し当てられる。
「ドウゾ」
笑って、受け入れて。
それからそのまま、サンジの唇に唇を合わす。
く、と僅かに唇を開かせ。
少し温まった果肉を、舌先でサンジの口の中に押し込んだ。
「ふ、―――ん…」

そのまま、ぐるり、とサンジの口腔内を弄り。
争うように押し当てられる舌先同士を合わせて、果肉を潰す。
甘い汁がじわ、と広がる。
こく、とサンジの喉が鳴っていた。
背中をそうっと手の付け根で撫でて、唇を離す。
「倍甘いな」

サンジがゆっくりと瞬きをするのを間近で見詰めながら、唇を啄む。
「蕩けるのは、もうちょっと後にしろよ?」
付け合せの野菜、さっさと用意しちまうから。
「ん、努力する」
「よし」
笑って、こつん、と額を合わせた。
きゅう、と抱きつかれて、抱き返す。
「美味いディナーを作るからな」




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