にこにこ、と微笑み合うオレたちを。
ゾロのグリーン・アイズが見ていた。
何か言いた気なゾロ。
なに、って目で訊いてみた。
「あー…なんかな」
「…なン?」
ひょい、って片方の眉が上がっていた、ゾロの。
「オレをそっちのけで、オマエら、愛の告白かよ」

…バッカだねえ。オマエ込みで愛してる、って言ってるのに。
茶化す前に、す、とゾロの目が、真剣味を帯びた。
一つ、瞬いて、ゾロを見遣る。
「…ありがとう」
柔らかな声が、言葉を刻んだ。
「ウン」
ゾロの手、ゆっくりと伸ばされて、オレの頬に触った。
柔らかな愛情が、零れる。春の木漏れ日みたいな、柔らかな愛情。
「オマエの幸せを、願わない日はないだろう」
「…ウン」
嬉しいね。
オマエにも、愛して貰えるんだ。
「オマエへの想いは、ずっと抱えていくから」
恋慕は、もう無いけれど、
そうゾロの目が付け足していた。
「愛してるよ、サンジ」
柔らかな、声。
深い、愛情。
「オマエと愛し合えて、よかった」

笑う、ゾロが。
ふんわりと、穏やかなそれ。
「ウン。オマエと愛し合えて、オレもよかった」
笑う。オレも、きっと穏やかな顔をしてるんだろう。
「沢山の想いを、ありがとう。また会えて、よかった」
…きっと。
オレとは、もう会わないだろう。
また、サンジと一緒に、会いたいけれど。
…オマエの立場を、思いを、オレは知ってるから。
サヨナラだね、ゾロ。
柔らかく、唇に口付け。
戦友に送るような気持ち。

オマエは、サンジと一緒に、オマエの道を歩んで。
オレは、オレのゾロと一緒に、オレの道を行くから。
オマエを最期まで、見送れなくてゴメンな?
じ、っとオレたちを見ているサンジに、笑いかけた。
「このバカを、最後にオマエが天国に引っ張ってけよ」
最後のその瞬間まで。
愛して、燃え尽きろよ。

「だから。おれそっちは嫌だって、」
くすん、って笑ったサンジに付け足す。
「そうじゃないと、オレがオマエに会えないじゃんか」
「あ、もう遅いよ、オマエ。だっておれな?四辻でもう契約したから」
に、って笑ったサンジに、ばぁか、って鼻を押した。
「だから、オレにくっ付いてる天使に、迎えに行かせる」
「イヤ。だってさ、」
「なんだよ?」
すう、とオレの口許に、サンジが唇を寄せてきた。
「一緒の時間にここをサヨナラできるように、ってさ、もう済ませた」
低く落とされた声が、酷く楽しそうに言った。
「な?いいディールだろ、」
「うん、ケド、ソレはソレ。その後、無理矢理交渉させるから」

だってさ?また会いたいよ。
天国でも、ほんとうは地獄でも、いいんだけどさ。
幸せなら、どこでも。
会えるなら、どこでも。

すい、って離れたサンジを、ゾロが愛しげに見ていた。
…オマエ、地獄に行く、って勝手に決めてるみたいだけど。
そうは問屋が卸すモンか。
絶対天国に行かせてやる。
こうなったらオレの意地だ。

「それにさ、」
「…ん?」
にっこりしたサンジに目を向けた。
「オマエがいたら。おれコイツと抱き合うのちょおっと考えなきゃいけないじゃねェか」
「…バカ」
ゾロが呟いた。
にゃははは、って。オレは笑う。
「どおんどん、見せつけろよ!きっとな?」
声を潜めて、言葉に乗せる。
「オレを愛してるゾロが。対抗して、もっとすげぇことになるから」
でもって。
オマエたちはオマエたちしか見えなくなって。
オレも、アイツのことしか見えなくなって。
腑抜けたころに、気がついて。
ニガワライを浮べるんだ。

ふは、ってサンジが笑っていた。
「それもちょっとヤだなぁ、」
ゾロが、小さく笑ってサンジの髪を撫でた。
「オレしか見えなくさせるから、気にすることはない」
くう、と眼を細めたサンジに、囁いたゾロ。
そうそう。そうやって、オマエはソイツだけを見てやがれよ。
笑う。
うん、オマエら、幸せでよかった。

ふ、と窓の外を見た。
雪が、降り出していた。
「…ハッピー・ホワイト・クリスマス」
幼子イエスの誕生日を祝う謂れはないけど。
やっぱり何かを贈り合うってのは、いい習慣だと思うし。
「けど、道路が封鎖される前に、オマエら帰ったほうがいいよ」
「ああ」
ゾロが頷いて、笑っていた。

うん。笑ってるオマエの顔。
今でも、オレは大好きだ。
3杯分のコーヒーの代金と、チップが、テーブルに置かれた。
コート、着ろ、ってゾロがサンジに言ってた。
自分も、黒いコートを羽織って。
黒い革の手袋を嵌めて。
ああ、ホント、闇に溶けるオトコだねえオマエ。

コートを羽織っただけのサンジに、ゾロがマフラーを巻いていた。
長い真っ白のマフラ。
ゾロの、天使。
一緒に付いてて、天国に行けないわけがないじゃないか。

ゾロの深い緑の目が合わされた。
ふんわり、笑って見上げる。
ふ、とゾロが笑った。
「…また会えて、よかった」
「…もうソレ聞いた」
「オマエが幸せそうでいてくれて…勝手なんだが、嬉しかった」
きゅう、と腕が伸ばされて、頭、抱え込まれた。
ぎゅう、と抱きしめる。最後に。最後だから、きっと。
「うん。オレは幸せだから。テメェもとことん幸せでいてくれよ」
頼むから。

きゅう、と胸が痛む。
もう会えなくて、寂しいよ。
サンジにも。
けど、行くんだろ?
「愛してるよ」
柔らかな囁き。
「うん、愛してるよ、ゾロ」
昔とは、違う形で。

きっと、忘れない。
常に意識に上っていなくても。
ずっと、これからも、愛し続ける。
胸の奥で。
オマエと出会って、愛し合えたこと。
ほんとうによかったと思ってる。
「幸せに」
「おうよ」

目を見詰め合った。
濃いグリーンの瞳。
ほんとうに、ほんとうに、愛してたよ、オマエを。
こつん、と額を合わせて。
ふんわりと、微笑み合った。
目を瞑り、想いだけを渡しあう。

Good bye, my beloved assassin.
Farewell, darling love child.

最期まで、燃え尽きるまで。
輝き続けてくれよな?
笑って、離れた。
これで本当に、最後。

「じゃあな、サンジ」
サンジを抱きしめて、頬に口付けた。
「あのな?」
「うん?」
「ちょおっと嫉妬した。だから、オマエ、0.1パーセントな。愛してるよ、それから……、」
きゅう、と抱きしめられて、笑った。
「アイツのこと。愛させてくれて、ありがとう。ほんとうに…世界と引き換えにしてでも、愛してるから」
うん、と頷いた。

声はもう、出ない。
泣いてしまいそうで。
でも、最後に。
笑った顔を、覚えてて欲しいから。
笑う。

サンジがふわん、と微笑して、オレの頬にキスをくれた。
そうっと離れて。
いくぞ、っていう風に、ゾロがサンジの肩をそうっと引き寄せた。
ふ、とサンジが目を細めて。
それからゾロに付いて、店を出て行く。
涙で視界がぼやけて、よく見えなかったけど。
最後、うっとりと微笑んでたように見えた。
「…バイバイ」
愛してるよ、二人とも。

くぅ、と喉が締め付けられた。
涙が零れる。
溢れる。
寂しい、とか。
恋しい、とか。
哀しい、というのとも、違って。
ただただ切なくて、胸が痛くなって。
やっぱり名付けられない感情が、堪えきれずに溢れて。

手元、リネンのハンカチが残されていた。
手にとって、握り締めて。
嗚咽を噛み殺して。
涙だけが、涙腺がバカになったみたいに零れていく。

切り離される。
二人から。
その痛みで、オレは泣いているんだろう。
でもオレはずっとオマエたちを想うよ。
ゾロ。
サンジ。
それだけ、忘れないでくれよ…?

涙が止まって、備え付けのペーパタオルで鼻をかんで。
漸く気持ちが静まった頃、ふ、と香ってきたトワレの匂い。
サンジ、の。
………………0.1パーセント、か。
うん、それくらいでいいよ。
オレが、オマエたちを愛してるってこと、覚えててくれたら。
それだけで。




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