部屋の温度と取り込む空気が、
反らされた喉を滑り落ちていった声と放たれた熱で潤んでいるかと思うほど温められていた。
上気した頬、渇ききらない零された涙の跡に唇で触れる。
酷く熱い。
眦、零れきらない涙の欠片を舌に乗せる。
く、と。
熱った身体が脱がせずにいたファーの中で僅かに強張った。
まだ、潤んだ内に差し入れていた左の指先でじわり、となかを探り。
「ふぅ、」
僅かに苦しげに息を洩らすのに小さく苦笑した。
甘い嬌声を存分に味わった、舌足らずに強請る声と。

口許、薄く唇で触れる。
腕の中にある、くたりと弛緩した身体。
少し、泣かせすぎたか……?
あぁ、違うな。
逆上せかけているんだろう、きっと。

左手で、濡れて纏わりつく鈍い金色になった髪を梳き、額を合わせるようにして覗き込んだ。
「―――サンジ…?」
「…ん………?」
すう、とそのまま撫でるように手を降ろす。
茫、と。眼差しがあわせられる、蕩けだしそうなあまい蒼だ。
目元に唇で触れる。        
「……ふ…ゥ」
肌も、その内も。熱くなっている。
アタリマエのことを口に出してみる。
「熱いか?」
「…ん、」

さらり、と掌で身体の線を滑らせながら。
微かに、頷く仕種。
それを目にする。
からり、と。火の勢いの落ちてきたマントルピースから薪のはぜる音に混ざって、後ろ。ロウテーブルの辺りから氷の溶けて崩れる音が聞こえた。
あぁ、ワインクーラー。ワイン突っ込んだまま、忘れてたな。
いや…?ワインはまだ取りに行ってなかったか。
心持ち上向いた頤に軽く口付けてから、上体を起こす。
あぁ、ウン。
空だ。

サンジは、とみれば。
頬を突付きでもすれば、すぐにでも涙が零れ落ち泣き出しそうなカオをしていた。
なんだよ?置いていかねェから泣くな。
頬に手を添え、滑らせる。
親指でその線をなぞる。
「…ぞ、ろ…」
酷くかすれた声が呼んできた。
背骨を、ちり、と蟠り続ける劣情が抜ける。
「泣くな、」
「…だ、…て」
ふ、と自分の口許が吊り上がるのがわかる。

腕を伸ばしても、届かない距離にあるのは当然だ。
す、と身体を更に起こせば、サンジが途切れ途切れに音に乗せていた。
「まだ欲しい」
く、と頬に添えた指先に力を入こめる。
「まだ離さないで、」

く、と。笑い声、喉奥から滑りでる。
足りるわけがないだろう?まだ抱き足りない。
身体を引き起こさせ、唇を合わせる。
「ん…ふっ」
手を差し入れた背中、じわりと汗ばみ肌が熱い。
濡れた熱さを貪り、洩らされる吐息ごと嚥下する。
襟元からふわり、と肌と熱とで溶け合わされた香りがまた上る。

喉を鳴らし、溢れかけるものをサンジが飲み込んでいた。
宥めるように撫で、やわらかく食んでゆっくりと口付けを解き。
「氷、」
取ってきてやるだけだ、と声に出した。
あそこにあるだろう、と視線で示せば、サンジの眼差しがゆら、と揺れていた。
深い吐息をついて、ふわり、と僅かに笑みを乗せていた。
「余計な心配するなよ、バカネコ」
つ、と額に口付ける。
「…ン、」

ふわり、と瞼が閉ざされるのを目にし、立ち上がる。
縁ぎりぎりまで氷を詰められていた重いクリスタルには、半ば溶け出した氷がそれでも残っていた。
引き寄せる。
冷えたガラスの感触が手に心地好かった。あぁ、おれも体温が上がっちまったらしいな。
カリ、と口に含み砕き。喉を滑る感覚に渇きが引く。
フン。

また口に含んで戻った。
目を閉じていたサンジの頬に手の甲で触れ、すい、と手招きする。
ふ、と、瞼が持ち上げられ、見つめてきた。
揺らぐ蒼。
項を掴むようにし、引き寄せる。
素直に預けられる柔らかな重みに笑みが刻まれる。
そのまま、口付け。舌先で氷をまだ軽く閉ざされたサンジの唇に押し当てた。



高熱を出してるみたいな身体。
熱くて喘ぐ、苦しくて喘ぐ。
それでも、身体は甘い。
気だるくて、重くて、ずっしりと甘い。

いっぱい泣いた。
いっぱい声を上げた。
ゆるゆると繰り返し追い上げられて、何度か放った。
ぱち、と弾ける暖炉の音が遠い。
意識がはっきりとしなくて、それでも快楽は明確で鋭い。

息を呑もうとして、ひりついていた。
ああ…渇いてる。
潤んでるのに渇いてる。
遠のこうとした重み、待って、まだタリナイヨ。
イカナイデ、オイテイカナイデ。

苦しくて、哀しくなる。
ゾロがキスをくれた。
ねっとりと絡む舌。
潤んでいるソレを啜り上げた。
喉を鳴らして、僅かな水分を飲み干す。
ゾロが口付けを解いて、氷をとってくる、って言ってるのが聴こえた。
キラキラと、ぼやけた視界の向こう、輝くゾロのキレイなグリーン。
オレだけを見てる。

きゅう、って胸が鳴る。
嬉しくなる。
目を閉じて、息をする。
溶けすぎた身体、熱が上がりすぎてる。
身体、力が抜けてる。
すぅ、と息を吸い込んで、意識を少し取り戻す。

ゾロが戻ってきた気配。
つ、と冷たい塊の感触。
…こおり、だ。
唇を開いた。
じゅわ、と溶けていく音が聴こえそうだ。
押し込まれて、カチリと歯に当たる。
舌で掻き混ぜて、解かして。
冷たい水を飲む。
すぅ、と喉を伝い落ちる液体。
熱に直ぐに蒸発していくみたいだ。

繰り返し、解かしては飲む。
小さな欠片になったところで、噛み砕いた。
く、と飲み込んでから、目を開けた。
ゾロがオレを見ている。
端整な顔、嬉しそうだ。

「ゾ、ロ」
声、まだかすれてるけど。
なんとか音になってた。
ゾロの指が、新しい氷を摘んでいた。
唇に押し当てられて、口を開く。
ゾロの指ごと口に含んで、舌を這わせた。
ゾロの口端、くう、って吊り上がってた。
く、と舌を伸ばしたら、する、と置かれた塊。
口内で掻き混ぜると、歯に当たってカツカツ鳴る。
解かした水分を飲み込んで、渇きを潤す。

す、と近づいてきた唇。
つる、と入り込んできた舌が、欠片を少しばかり取っていった。
それを追いかけて、ゾロの口内に舌を差し込む。
冷えた舌先、熱いゾロの舌に捕まえられた。
目を閉じて、味わう。
熱の味、ゾロの味。
解けた氷水、つ、と流れ込んできた。
少し温まったそれを飲み干す。
口付けを解いて、深い息を零した。

ファーの中、ゾロの手が差し込まれた。
直に背中を辿るゾロの掌、冷たくなってる。
キモチガイイ。
ヒップのあたりまで降りてきたソレ。
「…ン」
く、と指先が押し当てられた。
くん、と背中が僅かに浮く。
「っ」
天井に向けて、喉が勝手に反っていく。

く、とヒップにあった手が、身体を持ち上げて。
体重が移動する。
ころ、と転がされた先、顔の横に、ふわふわのファーの感触。
鼻先を埋める。

ゾロの鼻先が、襟元の毛を掻き分けてきていた。
熱い吐息、喉に触れる。
そのままかぷりと食まれた。
さっきつぷりと埋められた指、ゆっくりと動き出してってる。
中をなぞるように。

「…は…あ…っ」
きゅう、と目を瞑る。
ゾロの舌、ぺろりと首筋を舐めていく。
その後、くう、と甘噛みされる感触。
ゾクゾクする。
「あ、ア、アァっ」
ふるりと震えると、すう、とゾロが深く息を吸い込む音が聴こえた。

ぐ、と指が奥に押し込んできた。
「ふあ、ア、ッ」
ぱしり、とフラッシュが焚かれる、瞼の裏で。
少し冷えていた体温が、またじわ、と上がり始める。
しゃら、と涼やかな音。
皮膚を滑る重いチェーンと濡れた舌。
「く、うぅっ」
びくり、と身体が震える。
くう、とラグを握り締める。

す、と指が抜かれる感触に、筋肉が収縮した。
また、ぐ、と押し込まれて、きゅう、と締め付ける。
びくり、と腰が跳ねた。
ぴりぴりと腰のあたりに渦巻く快楽の電流。
くう、と開かれる感触に、かあ、と身体が熱くなる。

チリ、と耳朶が熱を訴えた。
耳朶を噛まれ、落とされた声。
「なぁ、もっと喰わせろ」
餓えを孕んだ、ゾロの声。

オレはアナタのなのに。
全部、アナタのものなのに。
訊くの?
きゅう、とゾロの指を締め付けた。
返事の代わり。
コトバは声にできず、代わりに深い息を吐いた。
ゾロが耳元で笑っていた。
その吐息にすら、体温が沸き上がっていくようだ。

埋められた指はそのままに、ゾロのもう片方の手が腰の下に差し込まれた。
く、と身体が浮いて、うつ伏せにさせられる。
指が奥に当たって、ぐう、と息を飲んだ。
きゅうう、とラグを握り締める。
コートの裾、左右に分けられた。
くい、と持ち上げられて、両膝がラグに着く。
首を動かして、額をラグに着いた。
重いファーコートの裾。
する、と肢を掠めていく柔らかな毛。
く、と捻れるコートの感触。
空気に晒される下半身。
半分だけ。

熱く重い息をラグに吸い込ませた。
ふるり、と冷めた空気に震える。
背骨の一番下、きゅう、と口付けられた。
長い息が漏れた。
「は…ぁう」
ぐ、と腰骨を掴むゾロの熱い掌。
きゅう、と締め付ける、ゾロの長い指。
もっとオレを溶かして。
もっとオレを熱くして。
もっとオレを感じさせて。
もっと柔らかく蕩けるから。

ゾロの唇、背骨の下の薄い皮膚を齧ってから、ヒップまで下りてきた。
く、と腰が僅かに揺れる。
「はぁ…」
喉を焼きそうに熱い息が零れていく。
ぐり、と奥で蠢く指の感触。
ぞくり、と這い登る快楽。
ヒップを齧っていたゾロの歯、くう、と突き立てられてビクンと腰が跳ねた。
ぐ、と指を締め付ける。
「は、あ…っ」
くらり、と一瞬の眩暈。
すう、と唇が滑る感触。
ぞくぞくと快楽がそれを追う。
ゾロの熱く濡れた舌先、開かれた襞を掠めていった、
「あぁぁぁぁっ」
くう、と眼を瞑る。
びくびく、と身体が跳ねる。
強烈な快楽、腸が一瞬冷えるような。

く、とまたゾロの指に開かされる奥。
からかうように、舌先が僅かにもぐりこんできて。
きゅう、と締め出そうと勝手に力が入る。
指を追い出そうと、襞が蠢く。
く、と舌が押し上げるように当てられた。
「ああああっ」
ぎゅうう、とラグを握り締めた。
宥めるように優しく、ゾロの指が内を撫でて、繰り返し出たり入ったりする。
「ふあ…ッ」
すう、と体温が上がった。
くらり、と意識が揺れた。
熔けだす、融けだす。
波に呑まれる。
身体の中で沸き出す蜜。
ぱしり、と脳裏を走ったヒカリに、思考が溶けていった。
オレに許されるのは、ただ感じることだけ。




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