明日のケータリングを頼んであるのとは別の場所で用意させたランチは、まぁまぁの出来栄えだった。
他愛ない話、例えば例のバカ女、ヒナだ、と自分が何をしているか、だとか。
あのエンリョのなかったビジンの近況であるとか。
大人しいトモダチの話だとか。
QBの出したスコアであるとか。
そういった話を聞きながら、ランチを平らげた。
走り回って空腹だったらしいサンジも、おいしい、とにこにことランチを片付けていた。
ディッシュウォッシャーにサンジが皿を入れるのを眺めながら、コーヒーを飲み。
リビングで、薪のはぜる音が微かにしていた。
あぁ、そういえば。
その横の、ハダカのグリーン、あれはどうみてもツリーだよな。
――――ペルめ。
なんの嫌味だあのヤロウ、
さっきあけたそのトナリのドア、中にあったのは。
オーナメント一式。クリアなガラス玉や、深い青と金のリボン、そういった諸々が箱の中にたっぷりあった。
アレを飾れと。そう言いたい訳だな、ヤツは。
サンジ、と後姿に声をかける。
「なぁに、」
くるん、と振り向いてきた。
「オマエ。いっそバカバカしいくらいの"クリスマス"したいか…?」
おれはちっとも信じてはいないが。
「…教会行って、ミサ聴きに行くの?」
「や、そうじゃなくて」
こくん、と首を傾けたサンジに苦笑する。
おれがミサに行くかよ。
「法王の演説をライヴで見るとか?」
首を横に振った。
「みねぇよ」
「よかった。あんなの見たら寝ちゃうよ」
けらけら、とわらっていたが。
「ツリーの話、アレだよ」
マントルピースの横を指差した。
「んー……ツリーか。ミスルトゥはどうするの?」
ますます笑い始めていた。
「いいから、黙ってあのドア開けろ」
「オーケイ」
そのまま、扉を示す。
「ペルからオマエにだよ」
「うわぁお」
歓声と、笑い声だ。
ドアの中から聞こえた。
「オレに?本当に?」
ああそうだ、と驚きに弾んだ声に返す。
「だったら、やんないとねえ!」
ひょこ、とドアからカオをだしていた、笑い顔のままだ。
「でも、手伝って!!」
「――――パス、」
「あのツリー、大きいから!!オレ一人だったら真夜中になっちゃうよう!」
「ご免被る」
ひらひら、と片手を振った。
「ゾォロ!オネガイ!!」
「やなこった、」
「助けてよう」
「一人でしろよ。おれはオマエをみていれば面白いから」
「そんなの全然面白くないもん……」
しゅん、とした様子に少しわらった。
イスから立ち上がり近づく。
瞬時に意気消沈、まさにそれだな。
オーナメントを運び込む様子にまた笑いが零れた。
いたいけ…?笑った。
ネコだったら、さしずめ耳がぺったりと伏せられている所だろう、どうせ。
どうしてこうも「わかりやすい」んだろうな、オマエは。
すい、とサンジの腕からオーナメントの入った箱を取り上げた。
くすん、と俯いたままで啜り上げるような音がした。
「ほら、サンジ。シケテるなよ。泣いたら手伝わねェぞ、」
「泣かないもん」
「どうだか、上向いてみろ」
く、と頤を上げて見上げてきた目は、微妙に涙の膜がかかっていた。
勝手に笑いが零れかける。
「う〜〜〜〜」
あァ、ダメだ。わらっちまう。
「あぁ、やっぱり"泣き顔も充分カワイイよ、ベイビイ"」
わざと茶化して声にだせば、唸ってやがった。
「泣いてないもん!!」
きゅう、と両腕を回して、抱きつかれた。
「あぁ、微妙な所だよな?まだ」
笑いながら、目尻に唇で触れた。
もういちど覗き込んでみれば、
肩に歯をたてられた。あぁ、このネコ、本気で拗ねだしたか?
がじがじ、と何度か繰り返し歯をたてるサンジの背をやんわり撫でた。
「うー…」
耳もと、口付けて。
微かな唸り声にまた喉奥で笑いを殺す。
「わかったよ、少しからかい過ぎた」
「…ゾォロ」
もう一度口付ける。
一層、身体が寄せられ。片腕で抱きしめ返した。
温かな濡れた感触が、唇を辿り。
すう、と身体が離れた。
「他のも取って来い、」
「ウン」
にこ、と笑顔が戻っていた。
あぁ、やっぱり、オマエ。
そういうカオの方がいいな。
ゾロに手伝ってもらいながら、ツリーを飾った。
生木に電飾を飾るのは、あんまり好きじゃないから。控えめにソレを一個と。
あとはたくさんのカラーボールズ。
サンタクロースとか、キャンディスティックとか。
チッチャなプレゼントのミニチュアとかを飾っていって。
あとは真綿で雪をいっぱい。
天辺に、星を飾って、出来上がり。
ゾロ、手伝ってくれない、とか言ってたけど。
コンナノ、一人でやったって寂しいだけだから。
ワガママ言って、ゾロと一緒にやって。
やっぱり楽しかった。
ゾロもヤダとか言ってた割には、そんなにいやそうじゃなかったから、ちょっと救われた。
マントルピースの上、いくつかカードを飾って。
窓の外。いつのまにかまた雪が斜めに降っていた。
薪の爆ぜる音。
フカフカのラグがあって、嬉しかった。
サパーを食べたら、それでゴロゴロ、寝転がりたい。
ゾロと一緒に。
プレゼント、いつあげようかなぁ?
そんなことを考えながら、軽いサパーを作って食べた。
トマトとバジルとモッツァレラのパスタと、トスド・サラダ。
チキンスープを添えて。
軽くワインを飲みながら、オレの過ごしてきたクリスマスについて喋ってた。
マミィとダディと、16になるまで毎年ミサに行っていたこと。
セトが学生だった頃は、クリスマス休暇に帰ってきて、一緒に遊んでくれてたこと。
バレエ団に入ってからは、クリスマス公演を観にいってたこと。
ゾロは2本目のワインを開けて、聞いていた。
「今度、スケジュールが合ったら。ゾロが大変じゃなかったら、セトの公演、観にいこうよ」
クリスマスじゃなくてもいいから。
すう、とゾロが肩を竦めていた。
オレもそれ以上は言わない。
肯定も否定も、ゾロはしないけど。
オレとゾロが一緒に飛び回ると、……ペルさんが、大変だもん。
こうしてゾロと一緒に居させてくれるだけでも嬉しいから。
あんまり強く願えない。
ゾロと一緒に居るだけで幸せだから。
ホント……だから、"いつか""もし""スケジュールが合えば"って、仮定の話だけでイイ。
それ以上は、言わない。
今年のクリスマス、ゾロと一緒にいるんだ、ってセトと電話で話したら。
『せいぜい甘え倒してやんな』
そうセトが笑ってた。
どうしてだか、サンドラも同じことを言ってたような気がする。
今年は、ゾロに、ティンバーたちと会って貰えただけでも、もの凄い幸福だから。
そうだ、ゾロのプレゼント。
イトコに教えてもらったの。
いつぐらいに実行すればいいんだろう?
お皿を食器洗い機に入れて戻ってきたら。
ゾロがワインを飲みながら、オレを見詰めていた。
「…ゾロ?」
「オマエのアニキ、」
「うん?」
セトがどうしたの?
「まだ引退しないだろう?」
「うん。今、28だからね、あと4年か5年くらい頑張るって言ってた」
す、とゾロが笑っていた。
「それまでには行こう」
「…ウン!!」
嬉しい。
すっごおおおい、嬉しい。
一緒にセトの公演、観にいってくれるって。
ゾロに近寄って、ゾロの膝の上に座った。
「なんだよ?」
むぎゅう、って抱きついた。
「ありがとう」
笑ってるゾロの首筋に顔を埋めた。
嬉しくって、どうしよう、ああ、ほんとうに。
ぐりぐり、って頬擦り。
他にコトバが出ないよう。
「嬉しい」
コツ、とグラスが置かれる音。
ゾロの両腕、回されて。
くうう、って抱きしめられた。
嬉しくって、深い息を吐く。
ふわふわ、って舞い上がる気分。
幸せ。
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