5.
・・・・・・成る程、何もしてねェな。
夕食に遅れて行くと、ナミと王女、その後にルフィ・チョッパー・ウソップが、『自然に』俺とサンジを残してキッチンを後にした。
普段ならなんとも思わない所だが、さっきの今ではナミが根回しした事であるのは明白である。
後の三人を見送ったコックが自分の横を通るのを横目で盗み見る。
チラッと目が合った気がした。
(意識してはいるみてェなんだが・・・)
あの時から、俺の顔を見る度に気まずそうにしていたり、苦悩している姿も一度は見ているから意識はされているのだとおもう。
でも、足りねェ
(こんな時でも、こいつの飯は美味いんだよな・・・)
シンクに寄りかかったサンジの視線を感じながらの食事は居心地悪い事この上なく、すぐにでもこの場を立ち去りたかったが、それでも変わらなく感じる味に、残す事を躊躇わされた。
そのためか、食べ終わるまでにえらく時間を要してしまった。
最後に水を飲みながら考える。
このコップを置いたらきっとまた聞かれるんだろう。
「何があったか」、と。
やはり、話す気は起こらなかった。
「ゾ・・・」
「この間の事か?」
コックの放った言葉を塞き止める。
言いたい台詞を取られたであろうコックは、舌打ちしても尚、めげずに言葉を続けた。
やはり、避けることは出来ないのか。
「んだよ。・・・・・・まあ、判ってんなら話は早いぜ。そうだよ、この間の事でお前に聞きたい事があるんだ。」
「・・・まだ思い出してねェんだろ?」
自分がくだらない事に拘ってるのはわかっている。
でも、譲れる事じゃない。
「・・・わ、忘れたのは悪かったけどよ、別に今回から始まった事じゃねえだろが。お前が何に怒ってるのか確かにわかんねェけど、あの晩に何があったのか教えてくれりゃあ問題ないだろ?そうしたら、俺だって詫びるでも何でも仕様があるじゃねえか。」
「思い出してないならこれ以上言う事なんてねェよ。別にお前は謝るようなことをした訳じゃねぇし俺も謝られたいとも思わない。」
謝ってなんかほしくない。そんなモノ惨めなだけだ。
「・・・じゃあ何で怒ってるんだよ。」
「・・・・・・怒ってねェよ。」
「そのツラが怒ってる以外のなんなんだよ。」
腹は立っているが、許す許さないの問題ではない。
「・・・俺はただ不満なだけだ。」
こんなのは、理不尽だ。
俺だけが、こんなにも。
「だから何が!」
「お前が思い出せばわかる。」
自分の女々しさに吐き気がした。
記憶が無いのは体のせいであってこいつが意図してやった事ではないのに。
もうとっくにそんな事はわかっているのに。
ほとんど意地だった。
それでも、俺をこんな風にしたのはお前なんだぞ?
こんなにもあの時のお前の気持ちに答えてやりたいと想ったくらい
もう、捕らわれてしまった ――好きだ。
「思い出せねェから教えろっつってんだろーが!!何回も言わすな、クソ剣豪!!!!」
・・・・・・なのに、何でてめえは相変わらずなんだよ。
「てめェ・・・逆ギレとはいい度胸だな・・・」
「キレるに決まってんだろうが・・・っ!!何にこだわってンのかしらねェが、忘れちまったモンはしょうがねえだろうが!てめえがさっさと吐けば全部解決すんだよ!それが嫌なら普通にしてろよ!なんだかしらねェけどイラついた気配を船中に撒き散らしたり、露骨に避けたりすんじゃねェよ!!!」
わかってはいるんだが。
こう、喧嘩腰に来られると・・・
「んだと?こっちは「しょうがねェ」で済む問題じゃねえんだよ!!」
応戦してしまう自分が居る。
「だから、その理由を言えっつってんだよこのハゲ!!」
「ハ・・てめえ、言うに事欠いて・・・」
「うっせえ!大体、今まで散々「エロコック」だなんだってぶざけた事好き勝手に言ってたくせになんで今更酔った時の事が言えねえんだよてめえはっ!!不満が合ったらいっつも遠慮無しに文句たれてたのは何処のどいつだ、ぁあ!?なのに、今度の事に限って何にも言わねェで黙り込んで俺の事避けて・・・。お前が俺が忘れた事に不満なんだったら、俺はそれが不満だ!!思い出して欲しいんだったらてめえも何とかしろよ!!!」
(・・・・・・!)
そうか、お前は
俺がお前に隠し事をすることが、
何時ものようにお互いに言いたい事が言い合えないことが、
俺がお前を避けていることが、
自分ばかりが悩んでいることが、
俺が何もしないことが、
不満なんだな?
「・・・おい。」
「・・・俺がなんとかしても良いんだな?」
「なんだ?ようやく喋る気になったか?」
「・・・いや、もっと効率のいい方法がある。」
お前が今の俺に対等な関係を望むなら
今のお前の気持ちを無視する事にはなるが
結果なんて知らん。
確かめてやる。
――行動で。
まだ、期待できる余地が有れば、拒む事はしないだろう。
あの夜の俺のように。
「な、何を・・・」
「いいから黙ってろ。」
サンジの髪に指を差し入れて、正面を向かせる。
俺の突飛な行動にコックは抵抗する事も考え付かないのか、驚いたままなすがままになっている。
「な・・・?」
「・・・目ェ、瞑れ。」
賭けの 行方は
6.
「・・・で?アレは酔った勢いで言った酔っ払いの戯言だったのか?」
口付けた時のサンジはかなりの抵抗をした。
それが悔しくて胸が痛くなって、
もう二度とこの手には戻ってこないであろうそれが名残惜しくて、
拒まれても放すことなど出来なかった。
「・・・・・ぁ」
「・・・サンジ・・・」
無意識に力を込めていたのか苦しそうに震える手で自分のシャツを握り締めたコックに気付き開放してやったが、その時に潤んだ瞳と目が合って「もう、二度とそんな顔で俺を見てはくれないのか」と想うと、知らずにその名を口にしていた。
途端に目を見開いて自分の顔を凝視したまま固まり、
その後こっちが驚くくらいに顔を真っ赤にしたので、
無事に思い出したという事がわかって心底安堵したのが、ついさっきの事。
その後はっきりと「思い出した」と言ったので記憶は全部戻ったのは確かだったが、想いが確かだったのかまでは計りかねて、つい確認してしまった。
・・・・・・我ながら、女々しい。
再び軽く自己嫌悪になりかけた所でタイミング良く返事が返ってきた。
「・・・いや、その手の台詞で俺は嘘はいわねェよ。例え、酔ってても。」
「今度は忘れねーだろーな?」
「ははっ。まさか流石にシラフじゃ忘れらんねーな、俺も。」
「・・・なら良い。」
今度こそ安心して、思わず顔が緩んだが。
引き締めようとする前にコックが笑いかけてきたので
不意打ちに俺はまた赤面しそうになった。
「・・・ま、初めの頃したのなんてどーせそのうち忘れるよな。」
・・・?
ああ、さっきのキスのことか。
確かにあれは好きあった同志にしてはしょうも無さ過ぎだったけどな。
でも、忘れるってのは・・・
「嘘付け、お前はそういう事に拘りそうだろ。」
どうせ、あん時こうだったどうだったとうるさく言うに違いない。
ところで、
「・・・なあ、それはお前。これから何度もするからって事だよな?」
そう言ったらコックは再び真っ赤になってうろたえたので、
可笑しくて楽しくて、もう一回抱きしめてキスをした。
今度こそコックの体は抵抗することなく腕の中に収まった。
*****
数日後この二人が「二人の、初めてのキスは何時か」で揉める事になるのだが・・・
それはまた別のお話。
2001.08.25up
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