Rowan the Cat’s Life * ぽにゃサンジの一日(2)
『Killer love-cat out on the street!』
「サンジさん、ようこそ、お久しぶりです。随分と髪伸びましたねぇ!」
アートディレクタのマルティナさんが、ひょこん、とカオを覗き込んできたから笑った。
ここはゾロのツアー先にある街の美容院。
ツアーが組まれる時にはほとんど毎回ローテーションに含まれている場所で、オレもなんだか、毎回ゾロが忙しい時にはこの店に来るようになっていた。
「うん。肩甲骨の下まで、一番長いところで届いてると思う」
「あ、ほんとだ。レイヤーいっぱい入ってるから、キレイですねー!きらっきらしてる」
さらさら、と細長い指が辿っていく感触に、軽く目を細めた。
「これ、パーマじゃないんですよね?」
「違うよ。クセで軽くウェーブ入ってる」
「短い時はもう少しストレートなんだろうな、と思ってたんですけどね」
「オレもここまで伸ばすのは初めてだから」
「なんかチンチラとかみたいな手触り。わー」
さらさら、と髪を軽く持ち上げてから落としていく音が聴こえる。
「トリートメント、ちゃんとしてるみたいですね?」
「一応ね」
「毛先もトリムされてるし。サイドが短いのはわざと?」
「ウン。男のワンレングスって気持ち悪いじゃない」
「あー、アタシもダメです、アレ。許せるのは中世のコスチューム映画の中くらい。でもあんな甲冑とか着ててあそこまで毛質がキレイなわけないじゃないですよね?」
「お風呂に入ること自体マレだったらしいからね。オレとかには考えられない」
「サンジさん、お風呂好き?」
「結構。なにも無かったら温いお風呂に入ってぼーっと1時間くらいしてる。音楽かけながら」
する、と。半袖から伸びた腕のところを、マルティナさんの指が滑っていった。
「うーわ、つるっつる!そりゃサンジさん、キレイにもなりますって」
「アハハ!そうー?」
「絶対ですよ。やあでも優雅だなあ。とってもお似合い。深窓のご子息さまみたいで。ふふふ」
「ご子息ゥ?そんな柄じゃないヨ」
「うーん、他に形容しようがないです。なんかとっても大事にされてるのが物腰から解りますもん」
うふふふ、とマルティナさんが笑う。
オレもそこは否定はしない。というか、ものすっごく大事にされてるの、解ってるしね。
ゾロにだけじゃない、シャンクスにも、エースにも、コーザにも。スタッフの皆さんにも、ローディの皆さんにも、ゾロたちのお友達の皆さんにも。
にこにこ笑顔でいれば、さらにマルティナさんが柔らかな笑みを口端に乗せて顔を覗きこんできた。
「で、今日は?シャンプーとトリートメントとブロードライで?」
「ウン。先週頭に軽く毛先は切ってもらったから」
「そんな感じですよね。いつも腕のいい人に切ってもらってますよね?」
「身近にいるんで。放ったらかしておくことが許せないみたいで、いっつもちゃっちゃーと切られちゃう」
頭の中では、ゾロのヘアスタイリストの人を思い出す―――ゾロの周りを取り巻く一流のスタッフたちの一人。
「たまにはアタシもサンジさんの髪切ってみたいデス」
「んー、切るって決めた時にでも」
「あ、今日はナシ?」
「しばらくは、もうちょっと長いまま」
「じゃ切るって決めたらぜひウチでよろしく!」
張り切って売り込んでくるマルティナさんに笑った。
「最初の一切りは無理だけどね。短くキープしたい時にはよろしく」
「うあは!なぁに、サンジさんの切った髪とか、欲しがってる人いるんですか?」
「や、切った髪を欲しがりはしないけど。ちょっとネ、恋人がね」
小さく小声で言うと。マルティナさんも耳元で声を落とした。
「サンジさん、やっぱり恋人いるんだぁ!そりゃ絶対居るとは思ってましたけどね?」
「いるいる」
My precious, my treasure, my everything, my whole world.
オレのもっとも大切なもの、オレの宝物、オレの総て、オレの世界の総て。
そう歌うように告げれば、マルティナさんが仰け反った。そしてくすくすと笑いながら、うーわあ、と叫んだ。
「超ラヴラヴ!その指輪の人ですか?」
薬指を指さされて微笑んだ―――少し前のクリスマスに、ゾロと嵌めあった誓いの証。
ほとんど外したことがないからもう身体の一部みたいになっている、ピンクゴールドの指輪。
「その人と結婚はしてないんですか?」
「ウン。してもいいんだけどね、しなくてもいっか、ってカンジだから」
「うわあ、すっごい愛し合ってるんですねえ!」
「ふふ。側にいないと生きていけない位」
きゃあ、とマルティナさんが嬌声を上げる。可愛かったから、思わず笑ってしまった。
「あーでも見てみたい!並んでるとこ見てみたい!サンジさんが恋人と一緒な所、見てみたいわぁ!」
「見てみたい、なんだ」
マルティナさんの言葉に笑う。
「や、だってサンジさんの恋人って、めっちゃくちゃ素敵そうじゃないですか」
「ウン。すんごい素敵」
にこにことして言えば、あはは、と明るくマルティナさんが笑った。
「サンジさん、もしかしなくてもすっごい惚気倒し体質?」
「どうかな?でも恋人が素敵なことは隠さないヨ」
「うーわーあー、サンジさんも素敵!!」
「アリガト。マルティナさんに褒められちゃった」
「おまけにすっごい可愛いですって」
シャンプー台のところに案内される。少し奥まって、あまり人には見られないサイドのところ。
首にタオルを巻かれ、ケープを着せ掛けられ。膝にもタオルが乗せられる。
「ハイ、じゃあ倒しますよー」
髪を纏め上げられ、ゆっくりと背もたれが倒れていく。
「毎度思うんですけど」
マルティナさんがにこにこと笑う。
「なに?」
「常日頃はもちろんそうなんですけど、見下ろすと三割増でセクシィですよねー」
「あははははははははははは!」
「お顔隠すのが毎回嫌でしょうがないです。でも、取った後に目を瞑ってるサンジさんを見られるのはうれしいですけど」
じゃあお顔に被させていただきますね、といって、布とティッシュの間のような白い紙を乗せられる。
「濡らしますよー」
さら、と湯がかけられて。目を瞑って洗ってもらう心地よさに浸る。
「痒いところがあったら言ってくださいネ」
「はーい」
くすくすと笑うマルティナさんが、手際よく洗ってくれた。
ぎゅ、と絞られた後にコンディショナが刷り込まれ。きれいに漱ぎ落とされてから再度絞られ、タオルで軽く水気を拭った後に包まれる。
「はーい、じゃあ取りますねー」
する、と顔からペーパが退かされ。明るさの違いに軽く眉を寄せてから、目を開ける。
「うーん、やっぱりサンジさんってセクシィ。ついふらふらっとキスしたくなります」
ぱちん、とウィンクされて笑った。
リクライニングを上げますよ、と言われてからゆっくりと背凭れが戻されて、姿勢がアップライトになる。
「それでいつもマルティナさんが洗ってくれてるの、オレの髪?」
「そう。ここの一番の権力者だから、アタシ。その権限でもって他の人を妨害してるの」
サンジさんが帰った後、いっつも大騒ぎなんだよ。そう言ってマルティナさんが笑う。
「若いコたちはいっつもサンジさんのこと狙ってるからネ。文句が大変」
「そうなの?」
さらさらと髪を拭われ。肩に回された新しいタオル意外の全部が取り除かれる。
「そーう。サンジさん、すっごい色っぽいんだもん。若いコに任せたら、それこそ気を迷わせて失礼をしでかすに決まってるから、任せられない」
じゃあドライしましょう、そう言って。鏡の前に導かれる。
くる、と店内を見回せば―――あらら。視線がハグラサレタ。
「みんなサンジさんが色っぽすぎて、目を合わせられないんですヨ」
こそ、と耳元で告げられて笑った。
「絶対嘘だよ、ソレ」
「サンジさん、自覚なさすぎ」
「そーかなぁ?」
「そうですって。潤んだブルゥアイズなんか、そうそう見られるモンじゃありませんし」
「オレ、目が悪いんだよね。外に出るときはコンタクトするんだけど、すぐ疲れちゃう」
ぱちぱち、と目を瞬いてから、マルティナさんと鏡越しに視線を合わせる。
ふわ、と微笑んだマルティナさんが、髪を軽く櫛で梳いていく。
「いつもは眼鏡ですか?」
「そう。でも眼鏡も疲れるんだよネ」
「うーん、眼鏡もきっとお似合い。恋人さん、サンジさんのこと大事にされてるでしょ?」
妙な確信を持った声で言われ、くすぐったくなって笑った。
とろ、としたトリートメント材を髪に揉みこまれ、目を細める。
「やっぱり解っちゃう?」
「―――うぎゃ。そう返しますか!」
「ウン。嘘は言わない」
「すっごい絶対の信頼があるんですねえ!」
関心したようなマルティナさんに、小さく口端を引き上げた。
「誰に訊いても、絶対オレは大事にされてる、って言うと思う」
髪をアップに纏められ。ヘッドカヴァが用意された。
熱を入れながら、マルティナさんが頷く。
「そこまで公認なカップルっていうのも珍しいですよね」
「そうだよねえ!それはオレも思う」
「恋人さん、本当にとても素敵な方なんですね」
サンジさんも素敵ですけど。そう続けられて笑った。
「アリガト。素直に褒められておく」
二人分纏めて、とは言わずにおいたけど、その分微笑みに意味を込めた。
「サンジさぁん」
「ハイ?」
「笑顔で惚気殺すのが得意技ですかぁ?」
マルティナさんが、けらけらと笑う。
「そんなつもりはないんだけどね?不思議とそう言われることが多い」
「あーああ。笑顔で周りを玉砕できるっていうのもすっごいワザ。サンジさん、恋人一筋なんですねえ!」
「モチロン」
「大事にされすぎて息苦しい、なんて絶対にどっちも言わないんでしょ?」
くすくすと笑われて、小さく頷く。
「愛されたら愛されただけ、幸せになるよ。愛させてもらえたら、その分だけ嬉しくなるし」
カミサマ、とマルティナさんが十字を切った。
「サンジさんの十分の一でいいですから、アタシにも幸せをクダサイ」
芝居じみた声に、ケラケラと笑う。
「やっぱりマルティナさんに髪をやってもらうのって楽しい」
「うーん、サンジさん。店を移ることがあったら絶対に連絡しますから!」
「うん。連絡よろしく」
「任せてください!!」
それじゃ暫く熱を当ててますからね、そういわれて頷く。
にこにこと離れていったマルティナさんが遠のく姿をミラー越しに見送り。
時々しかしないコンタクトのために痛む両目を閉じる。
店を出る前に目薬を注さないと辛いかもしれない。
ふ、と。聴き慣れた音に、意識がいった。
ゾロたちの、曲。
優しいラブソング―――書いている最中に、耳元で歌ってもらったことのある。
頭の中でリフレインする、記憶の中の少し掠れたようなゾロの歌声。
そして耳から入ってくる、レコーディングされたゾロの甘い歌声。
ふわ、と。心の一部が和らぐのを自覚する。
それと同時に、じわ、と心が逸る。
寂しいから、ではなくて。愛しいから、早くゾロに会いたくなる。
最後までゾロたちの曲を聴き終えて。
次の曲が始まったところで、す、と瞼を開いて、いつの間にか俯いていた顔を少しばかり上げれば。
真っ赤な顔をしたスタッフの若いコたちに、どぎまぎと視線を反らされてしまった。
――――あらら。なんだかちょっとサミシイネ…?
機械音が僅かに響き。若い男の子が慌ててやってきた。
ぱちん、とスゥイッチを押して、アラームを止めてくれる。
けれどしばらく余熱も当てておくためか、カヴァは外されない。
じ、と鏡越し、彼の動向を見守っていれば。
こくん、と息を呑んだカレが、あの、と声をかけてきた。
「Do you like that song?(さっきの曲、お好きなんですか?)」
訊ねられて、口端が勝手に引きあがった。
「Yes, very much(とっても)」
かぁ、となぜか彼の顔が真っ赤になった。
ありがとうございます、となぜか礼を述べられて。首を傾げれば、ぎくしゃくと彼が離れていった。
うーん、なんだろう、この妙な対応は。居心地は悪くないんだけど、妙にこそばゆいゾ。
カヴァの内側から漏れてくる熱で、目が乾くからまた瞼を閉じた。
そのまましばらく、しらないバンドが元気のいい曲を歌うのを聞いていた。
背後のほうで、小さな悲鳴と。バタバタと足早に数人が走る音が聴こえた。
――――なんだろう?なにかあったのかな?
元気な曲が終わるくらいになって、ぱたぱた、と足早にマルティナさんが戻ってきた。
「お待たせしましたー」
「マルティナさん、さっきバタバタしてたけどどうしたの?」
「うん、ディヴィッドって若いコがちょっとね、休憩室に行く途中で足ぶつけてねー」
「痛そうだね」
「んー、目が覚めていいんじゃない?」
目を細めてマルティナさんが笑うのに、首を傾げる。
――――あ、もしかして。さっきのコかなぁ…?
カヴァが外され、ころころと音を立てて少し遠くに機械が押し遣られ。
ちゃっちゃとドライヤを取り出したマルティナさんが、髪を乾かす支度をしていく。
それを鏡越しに目で追う。
それに気付いたマルティナさんが、ふわ、と笑った。
「サンジさんって猫みたいですよねー」
重く濡れた髪に軽くウォータスプレイがかけられ。軽く梳かされてからドライヤが当てられる。
「よく言われます」
「あ、やっぱり。髪も柔らかいですしねー、ゴールドの毛皮のメインクーンみたい」
マルティナさんの応えに、くすくすと笑う―――“メインクーン”?
「それは初めて言われました」
「え?そうですか?でも目鼻立ちが整ってますしねー。チンチラとかペルシャみたいな鼻ペチャ種じゃ例えようがないですし」
うーん、と唸るマルティナさんが、本気で考えている様子に微笑む―――マルティナさん、やっぱり楽しい人だなあ。
しばらく考え込んだらしいマルティナさんが、うん、と力強く頷いた。
「サンジさん、血統書付きってカンジがします」
おや。血統書付き、なんだ?前は“野良猫”だったのにナ?
家猫になった自覚は、充分にあるケド。
丁寧に髪を乾かしてもらい。仕上げに軽く纏め剤のスプレーをかけてもらう。
ふわ、と。マルティナさんが笑った。
「どうでしょ?」
「気持ちよかった。かなりスッキリしました」
「よかった。長時間お疲れ様でした」
鏡越しに見る自分の姿が、グルーミングされた猫に見えて、思わず笑った。
笑ったついでに、ちょっとしたことを思いつく。
「マルティナさん、ちょっと相談」
「はい、なんでしょ?」
「髪、軽く後ろで結んでくれないかな。耳より少し上のところで」
「あ、尻尾つくるんですか?」
ぱあ、と顔を輝かせたマルティナさんの言葉に笑う。
「やっぱり“尻尾”になるのかな」
「サンジさん、そんなにご自身が可愛らしくて、恋人さん妬いたりしません?」
「んーん?そんなことはないよ?」
「そぉですかぁ?アタシが恋人だったら地団太踏みますけどね。かわいいー、けどなんでアタシより可愛いのよ、って」
マルティナさんの言葉にくすくすと笑って。
髪を軽くブラシで纏めてから結わかれていくのを鏡越しに見守る。
「前髪はサイドに垂らしておきますねー」
「はーい」
「結わきなれてないでしょうから、少し緩めに紐ゴムで結んでおきますね」
痛くないですか?と訊かれて頷いた。
鏡で見る自分は少しだけ目がつり上がって、ますます猫みたいで笑える。
「はい、できました。後ろ、こんなカンジで」
合わせ鏡でチェックして。緩いキャットテールを軽く首を振って揺らしてみる。
「マルティナさん、マルティナさん」
「はいはい?」
「“にゃあ”」
うわあ、とマルティナさんがのけぞって笑った。
「サンジさんって犯罪的に可愛い!!!」
――――犯罪的、って言われても……。
気を取り直し。
「マルティナさん、長い間ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。お待ちしてますから是非また来てくださいネ、サンジさん」
ぺこりと笑いながら頭を下げたマルティナさんが。
歌うように、お会計でーす、と告げていた。カウンタの方から、多重層で、ハーイと応える声が聴こえて、また笑った。
会計に立つ前に、ヴィクトリアに終わった旨を連絡する。
ドアまで迎えに来る、という返事を聞いてから、通話を切った。
デニムのバックポケットに入れておいたクレジットカードで会計を支払っている間に、ヴィクトリアがドアを開けた。
短く切りそろえられた髪とミラー掛かったシルヴァのサングラス、黒のぴしっとしたラインのスーツに白いシャツのヴィクトリアは、今日もカッコイイ“ネーサン”だ。
いらっしゃいませ、と言い掛けた店の人たちが、思わず声をかけそびれて固まっていた。
僅かに首を傾けて促したヴィクトリアに軽く頷く。
「お待たせ。行こうか」
ヴィクトリアがドアを開けてくれている間に、見送りに来てくれていたマルティナさんと他のスタッフさんにひらひらと手を振る。
我に返ったらしいマルティナさんが、にっこりと笑って手を振り替えしてくれた。
店を出て、パーキングに向う。
ヴィクトリアがちらりとオレを見て、僅かに口端を引き上げた。
半歩、オレの斜め前を歩くヴィクトリアに笑いかけた。
「オレ、メインクーンだってサ、ヴィック」
「種類は存じ上げませんが、高貴な猫っぽい名前ですね」
「それを言うならヴァン・キャットみたいだよね、ヴィックは」
「とは?」
「トルコの真っ白い猫。左右で目の色が違うことが多い」
「私の虹彩は同じかと思いますが」
「イメージ。凛としてカッコイイってこと」
「ありがとうございます」
小さく笑って頭を下げたヴィクトリアとパーキングに停めてあった車に乗り込んだ。
車を発進させてもらう前に、すっかり忘れていた目薬を注す。
とろ、と溢れて頬を伝った目薬を、ヴィクトリアが手渡してくれたティッシュで拭う。
「―――――いたい〜、しみる〜」
何度か目を瞬いてから、ぼやけた視界を調節する。
エンジンをかけながら、ヴィクトリアが小さく微笑んだ。
「長時間お疲れ様でした」
「や、オレは平気。ヴィックこそ退屈じゃなかった?」
「平気です。久しぶりに本を読みました」
「そっか……はー、お待たせ。漸く目が慣れてきた」
「では戻りましょうか」
す、と車が発進し。メインストリートに出てから、ヴィクトリアがぽそっと言った。
「目薬、車内で注していただけてよかったです」
「え?ナンデ?」
「あれ以上可愛らしいサンジさんを曝すと、ボスに怒られます」
「……まぁたまた、ヴィックまで」
くすくすと笑えば。赤信号で酷く生真面目な表情と向き合った。
「泣かれたように見えますからね。それだけは曝すな、ときつく言い含められてます」
「だって目薬だよ?」
「人は好んで誤解する場合もあります。泣いたようなサンジさんは、大変魅力的です。思わず血迷う輩がいても不思議ではありません。サンジさんは優しくて、何でも受け止めてくれるような素地がある上に。とても柔らかそうでつい甘えたくなりますし、それと同時に大切にして甘やかしたくもなります。そんな存在を目にしたら、手を伸ばして捕まえたくなるのが人間というものです。そろそろご自身がとても魅力的だということを自覚していただきたい」
車が発進して、ヴィクトリアがまた前を向いて運転を始めた。
助手席のシートベルトの縫い目を指で触れながら、くすくすと込み上げるままに笑った。
ヴィクトリアが真っ直ぐに見据えてきて、告げてくれた言葉が大半の人を代弁する言葉だとはとても思わないけれども。
「―――ゾロの恋人になってから、すっごいソレ言われるんだけど。“魅力的”って」
ちらりとヴィクトリアが視線を投げかけてきた。
「幸せに満ち溢れたお顔で笑われるので」
「幸せいっぱいだもん」
「幸せであるということは、幸運なことです。そして幸運を持つ人間はえてして魅力的に目に映るものです」
ああ、そういうことなのか、と。漸く納得した。
幸せだから、魅力的に見える。ナルホド。うん、それならよく解るよ…?
窓越しに太陽を見上げながら、小さく歌うように告げる。
「でも。だとしたら、ゾロのお陰だねー」
オレが幸せなのは、ゾロが居るから。
オレを愛して、オレに愛させてくれているから。
ゾロを想うだけで、オレの心は優しく、柔らかくなれるから。
ふわ、と。ヴィクトリアが微笑んだ。
「今度、それ、ボスへの言い訳に使います」
「え、それ、どういう……?」
「なんでもありません。それよりサンジさん、サングラスをどうぞ」
「はーい」
オレがサングラスをかけたのを確認したヴィクトリアが。ついで、と言った風に口にした言葉に笑った。
「サンジさん。その髪型、よくお似合いです」
(*緩いポニーテールならぬキャットテールにするぽにゃサンジを書きたかった。項とかほっそりしてて美味そうなんだろうな。夏なので少し痩せて。ほっそりとした腰が更にほっそりとしたのを、少し硬い淡いストーンウオッシュのデニムに包んで。上は襟と袖がかっちりとした真っ白の上等なリネンのシャツを着てます。足元は淡いグレーのスリップオンを裸足で。車の中には、淡いグレー地に少し太めの白い縦ダブルストライプのジャケットが入ってます。シンプルさがセクシィさを引き立てる方向で<笑。それなのにキャットテール。殺人的に可愛い、と一人きゃっきゃ喜ぶ馬鹿ハハ2号(自覚はあるのヨ一応)。ちなみにスタジアムで本番前の空き時間で寛いでいたぞろのあには開口一番、ご挨拶が“にゃあ”&肩口にすりっと頬寄せだったそうで<笑。セクシィ&キュートで迷わず悩殺v)
next
back
|