*36*
戸惑っていた猫が、それでもメシを食った。
あまり量は食べられないのか、時折緑に視線を投げやりながら、ゆっくりとしたペースで咀嚼している姿を見るのは奇妙に楽しかった。
楽しい―――――もしくは喜ばしい。
エンターテインメント性を期待していたわけではなかったし、実際それで得られたわけでもなかったが、重そうな手が怠惰そうにシルヴァウェアを操る姿はなかなか目にしていて気分がよかったし。時折味に目を細めて、ほんの僅かに唇を綻ばせているのは愛らしかった。
自分と居ることに緊張することも止したのか、ほわ、と和らいだままのルーシャンを、食後のティーを飲む間に膝に呼び。大人しく膝に座り込んできたルーシャンが、胸元に頭を預けて静かに緑の色味と匂いを堪能しているのを見ているのも心地よかった。最初の一週間、主に苛立ちしかパトリックの胸の内に呼び起こさなかったのがウソのように、自分の内面が凪いだのが奇妙におかしかった。
前日の夜から明け方近くまで優しく抱いて、キツく攻め上げることなく何度も高みに上らせたルーシャンが、うとうととしながら、良いところだね、とぽつりと告げてき。それからすぅっと眠りに落ちていったのも、どこか面映い気持ちで自分がソレを受け止めているのもおかしかった。
抱き寄せていた身体が眠りにぐったりと重くなってから、紅茶を1杯とタバコを2本吸い終え。それから、ルーシャンを担いで部屋に戻した。
ベッドルームにあるソファの上に身体を横たえてやり、いつでも背凭れにかけっぱなしにさせてあるブランケットをかけてやった時。寝ぼけ眼のルーシャンが、じっと呼びかけてきたそうに見詰めてきていたのに笑って、額に口付けてやった。
僅かにさびしそうに視線を伏せたルーシャンの唇がきゅっと結ばれたのを見詰めて、いいコでいろよ、と声をかけ。そのまま部屋を後にした。
ビジネスに関わっている屋敷の連中を集めて“ランチ・ミーティング”を一階のダイニングで開いていたロイが、パトリックが部屋を覗いた瞬間に目を僅かに見開き。それから、くうっと口端を引き上げていた。
『よぉ、5分休憩したら、またミーティングに戻るぞ。ボスの機嫌を損ねないように、オンタイムで戻ってこいよ』
そう告げて、散れ、と部下どもに指示していた。
部屋に集っていた連中が、どこかどぎまぎと視線を寄越してきながら挨拶をしてくるのに笑って返し。ロイだけが残った部屋で、ロイが引いてくれた椅子に腰をかけた。
『オレはゴキゲンか?』
タバコを咥えながら言えば、ロイがくくっと笑いながらジッポを差し出してきた。
『ボォス、ご自覚がないとはいいませんよねえ?』
『余程すげえ具合に引っ掻き回されなきゃ、ミーティングを短く削ってっても文句は言わないぜ?』
『今日は特にすごい報告は上がってませんよ。ですから、今夜もお猫サマを可愛がりに行けるぐらいのお時間を作れますよ?』
目を細めて煙を吐き出せば、ロイがにかりと笑った。
『仔猫チャン、寂しがりやの本性がそろそろ全開かと思いまして。ボスも素直に甘えられるのって嫌いじゃないタイプですし』
『余計な気を回すな。アレは猫だぜ?』
『でも今夜もその調子だとご一緒されるんじゃありませんかー?』
にかり、と笑ったロイの頭を軽く小突いて、灰皿に灰を落とした。
『別に遣らなきゃいけねえことを削ってまで猫を構いにはいかねぇよ、バァカ。今日は泰平でも明日は嵐かも知れないだろうが』
ボスは愛妻家にはなれないタイプですねー、ワーカホリックですもんねえ、と笑ったロイが差し出してきたファイルを軽く捲った。
『アジアも中東も今のところは順調ってか』
『ホームグラウンドの整備が終われば、もっと安心できますけどね。ああ、新しいドラッグが中毒者に及ぼすメディカル・レポートも上がってきました』
『副作用か?』
『あとは、長期服用による影響ですネ。まあ過ぎたるは及ばざるが如し、ってのは何にでもいえますけどー』
ああ、そういえば、とロイがやんわりと笑った。
『マリファナも服用しすぎると、男性機能が低下するようですよー?呼吸困難と知的障害も現れてくるそうですし。女性は流産しやすいみたいです。案外法律で取り締まったのは正解だったみたいですよ、ボス』
仔猫チャンに常用性の影響が出てくる前でよかったですね?と笑ったロイに、軽く肩を竦めた。
『睾丸が縮んで、鼻が利かないようだったら、とっくに放り出してるさ』
『はっきり言いますねェ』
『ま、悪いモノにこそ手を出したくなる人間ってのはどこにでもいるもんだ。お陰でオレたちが潤うってワケだけどな』
ああ、じゃあお猫サマにはもうそういうモノは必要ありませんネ?とロイが更に笑って言った。
『悪いモノの最もたるモノといえばボスですからねー』
『阿呆か』
『いえいえ、ボスがあってこその今のオレたちですから』
軽口を叩いている間に、ドアの外にニンゲンの気配が集まり始め。ロイが閉まっていた扉を開けにいった。
『ノックして入ってくりゃいいのに』
そう呟いたパトリックに、ロイがひゃあ、と笑った。
『ボォス、ソレができる人間が沢山いたら、ボスってば遊ぶ時間なくなっちゃいますヨー』
どこかまだ緊張した面持ちのまま、戻ってきた部下がそれぞれ椅子に座っていくのに視線を遣り、全員が入ってくるのを待った。そして、そこから長いミーティングが始まった。
結局ミーティングが終わってみれば、時刻は10時を過ぎている頃だった。
6時にはロイを含めて、殆どの部下が出て行き。そこからは、ホームエリアを束ねている上のクラスの連中を集めての、ディナー交じりのミーティングだった。
アイルランド難民がこの国に流れ着いて以来続いてきたファミリービジネスであっても、屋敷に集まった連中はメキシコで集った幹部連中よりよほど若いメンバで構成されていた。
ディナーと酒を交えて、バーやオンナやポルノ関連の店の売り上げについて話し。法律の改正や、近々あるだろう手入れの日にちなどについて意見交換をし、その場はお開きになった。
くたびれた身体を伸ばしながら廊下を歩いていき。ルーシャンの顔を覗いてからシャワーでも浴びて寝ようか、と考えながら、ロイの椅子が置き去りにされているのを見て気分を変えた。
廊下側のドアを開けている間に、音に気づいたロイが小さな応接間に出てきていた。
ルーシャンは窓辺に椅子を持っていって座っており。ロイに強請ったのか、煙草を指に挟んで煙を口からぼんやりと吐き出していた。
すい、と頭を下げて、入れ替わりにロイが苦笑交じりに出て行き、ドアが閉じられ。ぱたん、という音に、ふ、と視線を上げたルーシャンが、ぱち、と瞬きをしていた。
「晩飯は食えたか、仔猫チャン?」
どこか驚いているようなルーシャンに、にかりと笑いかける。
「少しは」
「ふン?まあ食えているようだったらイイ。風呂には入ったか?」
スーツのタイを引き抜きながら訊けば、きゅ、とルーシャンが眉根を寄せていた。すい、と片眉を跳ね上げる。
「んん?どうした、ルゥ?」
こくん、と頷いたルーシャンに、ジャケットを脱ぎながら告げる。
「じゃあもう一回付き合え。悪戯はしねえよ、風呂場にいるだけでもいいしな」
ロイに酒でも持ってこさせよう、と笑って、すい、と顎で奥のベッドルームのバスを示す。
「湯、溜めてこい。オレが入る」
きゅ、とルーシャンが見詰めていて、少し困った顔をしていた。それから、ゆっくりと椅子から降りてくる。
「何か飲みたいモンでもあるか?付き合わせる礼に持ってこさせる」
「いらない、」
そう告げて、ルーシャンが奥のベッドルームに入っていく。
少しばかり緊張し、けれど、拒絶しようとはしていないトーンが耳に残り、ふゥん?と片眉を跳ね上げて、薄く笑った。
コン、とドアをノックして、バスローブを持って現れたロイからそれを受け取り、代わりにポートワインをボトルで持ってくるように告げる。
「グラスは二つで?」
「猫はいらないとさ」
「わかりました。水でもお持ちしておきましょう」
そう告げて、またロイが部屋を出て行く。
靴を小さな居間で脱ぎ捨て、ソックスと一緒に置いていく。裸足でローブを持って、ベッドルームの奥にあるバスルームに足を向けた。
扉を開ければ、バスの縁に座ってぼんやりとルーシャンが湯が溜まっていくのを見詰めていた。
薄い室内着のシャツと淡い色のボトムスに包まれた細い肩やヒップラインがくっきりと見て取れて、パトリックは薄く笑う。
「一緒に入らねェんだったら椅子でも持って来いよ、仔猫チャン」
バスローブをドアのペグに引っ掛け、それからカフスを外しにかかる。
ルーシャンが見上げてくるのを見詰め返しながら、外したカフスを洗面台の鏡の脇の台に置き、ついでに時計も外した。
「それ、命令?」
「いや、別に。付き合ってもらうが、どう付き合ってもらってもいい」
す、とパトリックが自分のシャツのボタンに手をかけるのと同時に、ルーシャンも自分のシャツに手をかけて外していっていた。
する、と手首を滑った金銀の蛇が重たげで。細い手首に纏わり着いている様子が官能的だ。
全部のボタンを外し終えたルーシャンが、さっさとシャツを脱ぎ去っていき。それからボトムも下着ごと脱いでいっていた。日焼けしていない肌がバスルームの明るい色合いに照らされて、どこかその透明な肌が艶やかに目に映る。
ゆっくりとシャツのボタンを外し終えたパトリックがシャツを脱いで落としていくのに、す、とルーシャンが視線を上げてきた。
僅かに目の端が赤く染まっており、けれど黙ってバスタブに入っていく。
コン、とバスルームのドアがノックされたのに、静かに足を向けた。
ドアからボトルとグラスをロイが差し出してき、笑ったまま部屋を出て行くのをちらっと見遣ってから、視線を当ててきていたルーシャンに向き直ってバスタブの側にスツールを足で引き出し、その上にボトルとグラスを置いた。
ルーシャンの視線が右の上腕に当てられたのに、パトリックも視線を落とす。アルファベットとローマ数字がいくつも彫り込まれた、機能的な刺青。
「バイブルだね、」
そう静かに告げたルーシャンに、ハ、と小さくパトリックが笑った。
「ご明察」
す、とブルゥアイズと視線が合う。
スラックスを脱いで端に放り、下着も脱いで同じ様に放った。
そのままバスタブに、ルーシャンに向かい合うように身体を沈める。
浅く長いバスタブに半分ほどしか満ちていなかった湯が一気に上まで上がっていき。ルーシャンが足を胸のほうに引き寄せているのに笑った。
手を伸ばしてタップを閉じ。そのままその手をルーシャンに向かって伸ばした。
「悪戯しねえから、抱っこさせろ」
「―――――――な、」
かああ、とルーシャンの顔が真っ赤に染まっていくのに、くく、とパトリックが笑った。
「なンだよ、オンナと風呂ぐらい入ったことはあるんだろ?」
奇妙に照れている様子が酷く愛らしくて、パトリックは目を細めて、ひら、と手を動かした。すう、と息を一つ吸い込んだルーシャンが、覚悟を決めたかのように近寄ってき。パトリックの立てた足の間に腰を落ち着けるのを待って、その細い腰に腕を回す。
「体重、預けてきていいぞ」
「逆の方がラクじゃないの、」
どこかドキドキと緊張しているようなルーシャンが、肩越しに少し振り向きながら言ってくるのに笑った。
「―――――――わらうな、」
ぽそっと少し拗ねたように言ったルーシャンの腰に腕を回しながら身体を引き寄せ。まだ乾いたままの項に軽く唇を滑らせてから肩に顎を預けた。
「逆だとオマエが大変だろ、ルーシャン?」
一瞬強張った肩が、すう、と緊張を解いていくのに口端を引き上げて、パトリックが軽く目を瞑った。
「たまにはこういうのも悪くはない」
ちゃぽ、と水が揺れる音がし。酷くゆっくりと、ルーシャンの指が腕を伝っていくのが解って、パトリックは僅かに目を開いた。
「オマエ、案外こういうのが好きだろ?」
「あんたぐらいだよ、おれに手酷いことしたの」
さら、と告げてきたルーシャンに、くくっとパトリックが笑った。
「そりゃオマエ、オレはオマエに傅く気なんかねぇしナ?」
そろ、と指先が腕を撫でていく。その感触は悪くない。
「おれはそんなこと、誰に望んだこともないよ、」
静かな声が、僅かに翳りを伴ったのに、パトリックはゆっくりと笑った。
「そうか?屈服させるのはオトコの一つの夢じゃないか?」
「勝手に足元に平伏してたンだ、馬鹿みたいだろ」
夢もへったくれもない、と続けたルーシャンに、ふン、とパトリックは鼻を鳴らす。
「まあオマエはバカだからなァ。跪かれたってどうしたらいいのかわかんねェよな?」
「知ってたさ、」
「あ、そ」
とろとろと指先が撫でてくるのに笑って、片腕をバスの外に伸ばした。ボトルを捕まえ、傾けて。甘い赤色をグラスに注ぐ。
ボトルをグラスに持ち替えていれば、身体を半分捻るようにしてルーシャンが身体を寄せ。静かに首に片腕を回してから、体重を預けてきた。
額に優しく唇を押し当てて、薄く笑う。
「仔猫チャン、オマエはそうしてるほうが余程かわいいぜ」
女王然としてた頃よりは余程な、と告げて、ポートワインのグラスを引き寄せる。
「飲むか?オマエも飲めるように甘いのにしてみた」
す、と視線が上げられ、少し不思議そうにルーシャンが見上げてくるのに、片眉を跳ね上げた。
「女王然……?」
そんな前から自分のことなど知っているはずもないのに、と思っているのだろう、ルーシャンがコトバを繰り返したことに、にやりと笑った。
「最初のオマエの態度見てりゃわかるさ。まあそれだけじゃねえけどナ」
ふ、と、ルーシャンが何かを思い出し、納得したように表情を和らげた。真っ直ぐに視線を合わせたままで、ぽつりと告げてくる。
「情報も集まる、ってことか」
「集まってくるものもあれば、集めさせるものもある。オマエの情報を入手したのは偶然だ」
ルーシャンの唇の前にグラスを差し出す。
「飲むか?」
「飲ませてくれたら飲む」
そう言って、目でとろりと笑ったルーシャンに、ふ、とパトリックが笑った。
「グラスからか、そうじゃないのか、どっちが好みだ?」
「あんたの好きな方で、」
寛ぐのは、だってあんただろ……?そう柔らかな声で言ってくるのに、くくっとパトリックが笑った。
「だったらキスぐらいは許せ?」
そう告げて、ルビーポートを口に含む。
味見程度に僅かな分量を飲み込んでから、そうっとルーシャンの薄く開いたままの唇に合わせた。とろとろ、と柔らかな舌触りのソレを注ぎ込む。
もう反対側の腕も首に回されてきたのに、パトリックは唇を合わせたまま笑った。こく、と喉が僅かに上下したのに、含んでいた残りのポートを注ぎ込み、薄く唇を浮かせる。
軽く伏せられた瞼の睫が震え、ゆらりとそれが引きあがっていった。薄く笑って、ぺろりと濡れた唇を舐めてみれば、ブルゥアイズが、もっと、と強請ってくるのに更に笑みを深める。
ほしい、と小さく呟いたルーシャンのヒップラインを回したままの掌で撫でてから、グラスを傾けてまたルビーポートを含んだ。開いた間の唇に唇を合わせれば、すう、とまた軽く瞼が伏せられていく。
ふう、と甘く喘いだルーシャンの口中に、アルコール度がさほど高くはない甘い液体を注ぎ込んでいく。こく、こく、と少しずつ飲み干していく間中、唇を合わせておき。全てを注ぎ込んでから、甘く唇を啄ばんだ。
「美味いか、ルーシャン?」
甘い吐息を吐いたルーシャンを見下ろしながら、自分の分を口に含んで喉を滑らせる。
うっとりとどこか夢心地で頷いたルーシャンに笑って、さら、とヒップラインを撫でた。ひくん、と僅かに身体が揺れ、眉根が僅かに寄っていった様子に喉奥で笑う。
「このまま泣かせてみたい気もするけどナ、まあ流石に今日は長い会議で疲れた」
すい、と目尻を唇で触れ、とん、と寄った眉の中心にも口付ける。
する、と辿っていったモノを確かめでもするかのように、とろりとルーシャンが自分の唇を舐めていった。
「練習しようか…?」
「んん?練習?」
喉奥で笑う。
「下手だってぼろくそ言われた」
とろん、と蕩けた声に、ハハ、と笑った。
「下手なんだからしょうがねぇだろ?けどまあ、別にイイ。たどたどしいのも、それはそれで楽しかった。それに今日はバスを楽しむ日だ、それは別にとっとけ」
す、と首を横にしたルーシャンに、にかりと笑いかけた。
ふわん、と酷く柔らかく微笑んだルーシャンに、ごち、と軽く額を押し合わせ。ぎゅう、と回された腕に力が込められたことに、ますますパトリックが笑みを深める。
「どうした、ルーシャン?今日は甘えん坊だナ?」
そうかな、と。とろりと蕩けた声が間近で零され。身体は沿うように預けられていることに笑って、軽くグラスを傾け。飲み干してから、グラスを縁に置いた。
「あァ。けどまあ、それもちっとも悪くない」
グラスから離した手を、ルーシャンの頬に添えた。じっとブルゥアイズが見詰めてくるのに、微笑みを返す。
「ルーシャン、仔猫チャン。キスは好きか?」
ふわ、と口許を綻ばせたルーシャンの顎を僅かに引き上げさせて、パトリックが囁いた。
「のぼせる前に言えよ、カワイコチャン。風呂から出ても、暫くは付き合って貰うからな」
ゆっくりと唇を合わせていけば、更に両腕がきつく回され。とろ、と濡れた舌が唇の間に滑り込んでくるのを受け止めた。
笑ってルーシャンの身体の向きを正面に合わさせて。膝に乗り上げるようにさせて腰を引き寄せながら絡まる舌を甘く啜り上げる。
「っん、ぅ、」
甘い声で呻いたルーシャンの舌を甘く噛みながら、項から背中、ヒップラインへと掌を滑らせ。ふる、と小さく震えたルーシャンの感度の良さに笑いながら、とろりと口付けを深めていく。
そして、ふい、とパトリックは頭の中にアイデアが浮かんだのに少しだけルーシャンの舌先を噛んだ。びくりとルーシャンの指先が跳ね、けれど構わずに舌を絡めていきながら、喉奥で甘く呻くルーシャンの細い腰を抱きしめた。
このコに服を着せるなら、何色が似合うだろうか、と。背中に当る蛇のバングルを思い出しながら、明日テイラーを呼ぶことを思いつく。
そのうち、ディナーにでも連れて行ってやろう。
そう自分が思ったことがオカシクテ、パトリックは薄く笑って、強くルーシャンの舌を吸い上げた。
もっと、と強請るように指先が縋ってくるのに、また甘く舌先を絡めなおしながら、パトリックはさらりとルーシャンの背中を撫で上げた。
ぱしゃ、と僅かに湯が跳ねるほどに、ルーシャンが感じ易くなっていることに笑って、とろとろと舌を絡ませる。
呆れたようなロイの表情が一瞬頭を過ぎり、パトリックは目を閉じて深まる口付けに意識を戻す。遊びに使える時間があまり長くは残っていないことを本能が警告してくるのにも目を閉じて、甘く舌を噛み、絡めてくるルーシャンに意識を戻した。
生意気なだけの仔猫チャンがこうまで楽しめる相手になるとは予想していなかっただけに―――――。
深く喘いだルーシャンから、とろりと柔らかく口付けを解いて。きゅ、と瞑られたままの瞼に唇を押し当てた。
ぐう、と一層手指が縋ってくるのに、する、と鼻先を合わせて。上がっている息を零している濡れた唇に、トン、とフェザーキスを落とす。
「ルーシャン、のぼせる前に上がるか。オマエ、飲み足りたか?」
「あとで、」
ふわ、と上がる息の合間に甘く掠れた声でルーシャンが囁く。
「もっと欲しいよ…?」
ふわ、と。見上げてきながら、甘く蕩けた笑みを浮かべたルーシャンの目元に、トン、と口付けて、パトリックがわらった。
「酒でも、キスでも、仔猫チャン。お望みのほうを。今日のオレは気分がイイからな」
さら、と濡れた指先でルーシャンの頬を撫で上げた。
「オマエを甘やかしてやる」
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