とろ、と蕩けた声にくくっと笑って、ぺろりと唇を舐める。ひくん、と肩が僅かに強張ったのに構わず、ゆっくりと体重をかけて押し込んでいく。
「―――――――ぁ、う…、んぁ、」
くぷ、と先端を飲み込んだあとは、きつく締め付けてくる中をゆっくりと息を吐くタイミングを見計らって押し入れていく。ぎゅう、とルーシャンの掌がきつく膝を掴み。ますます足が広げられていくのを見詰めながら、片手でルーシャンの腰を掴み、もう片方で少しばかり力をなくしたルーシャンの熱を包み込む。
「は、ァ…、っ」
「さすがに、キツい」
少しだけ腰を引いてから、トン、トン、と締め付けてくる合間を縫って潜り込ませていく。ひく、と腕が離れかけ。けれどももっと足を引き上げていったルーシャンの反対側の手指が細い腿に食い込んでいくのを見詰め、パトリックが薄く笑った。

「ルーシャン」
身体を軽く折って、とん、と唇に口付ける。ひくん、と手の中で熱が跳ね上がったのをなだめるように手指で包み込み、そっと親指で撫で上げる。
「あぁ、」
喘いだルーシャンの息が切れ切れなのに、とん、とん、と顔中に口付けていく。
くう、と唇を噛んだルーシャンの双眸が、縋るように見詰めてくるのに笑って。腰を支えていたほうの手で、ルーシャンが自分の膝を掴んでいた手を離させた。ひくっと指が跳ね上がってきたのに手指を絡ませて、きゅ、と握った。
「腕、背中に回して来い」
ほたん、とブルゥアイズから透明な雫を零したルーシャンのソレを舌先で舐め上げて、パトリックが喉奥で笑いながら告げた。
「なんだよ、泣くにはちっとばかし早くないか、仔猫チャン?」
どこか戸惑い、何かに焦れたルーシャンが
「…マスタぁ、?―――――――“パット”…?」
そう酷く小さな声で『呼びかけて』きながら、きゅう、と縋り付いて来たのに、思わず破願した。
「“パット”言うな、コラ」
クスリで頭を飛ばされている最中の記憶のカケラしか引き出せなかったらしいルーシャンが、酷く純粋な顔で見詰め返してくるのに微笑んで、ぐ、と押し入れながらきつく細い身体を抱きしめた。
「思わずイトオシクなンだろーが、バァカ」
「ぁ、…ァット、」
パトリックの“名前”を呼びながら喘いだルーシャンの内側に、ぐん、と腰を突き入れながら、パトリックが目を細めて呟いた。
「黙れ、ルーシャン。それで呼ぶなよ」
そのまま唇を塞いで、薄く開いたままの唇の間に舌先を差し込んだ。ほろ、と涙を零れ落とさせたルーシャンが泣くままに甘い口付けを仕掛けながら、ゆらゆらと腰を揺らしてリズムを刻み始める。
嗚咽で喉を小刻みに震わせながら、両手の指先がきつく背中に縋ってくるのに笑って口付けを解いた。足が腰に絡みついてくるのに、トン、とフェザーキスを唇に落とした。
「なん、で…、」
「ガキの頃の愛称で、嫌なんだよ、ソレ」
ほろほろと泣いているルーシャンの涙をぺろっと舐め上げて、パトリックが喉奥で笑った。
「どうしても呼びたいってンなら、ダーリンって呼べ」
「ノー…、」
消え入りそうな声で、喘ぎ混じりに告げてきたルーシャンの顔が悲しげなのに小さく息を吐いて、パトリックはぎゅっと細い身体を抱きしめた。
「今更知ってどうすンの、オマエ。ったく」
「名前呼べなくてもじゃあいい、」
首をコドモのように小さく振るルーシャンの頬に口付けた。
「ごめん、なさ……」
そう言って、ルーシャンが悲しげに喉を鳴らした。

自分から、ゆら、と腰を揺らしたルーシャンの目元に唇を移動させた。甘い声が間近で零されるのに、く、と目を細めて笑う。
「パットでいい。呼びたければ呼んどけ」
こつ、と額を押し当てて、パトリックがぎゅうっとルーシャンを抱きしめた。ほとりと涙を目の端から零した“仔猫チャン”の目を覗き込み、とん、と甘くフェザーキスを唇に落として、パトリックが言った。
「パティならぶっ殺すけどナ」
わざと告げられたコトバに、けれどルーシャンは酷く嬉しそうにパトリックを抱きしめる腕に力を込め。
「パット」
そう甘く囁くように告げた。
「人前で、オレのことをソレで呼ぶなよ?」
覚えたてのコトバを口の中で転がすようにルーシャンが何度も繰り返すのに、パトリックが小さく苦笑を漏らした。
きゅ、と視線を合わせて頷いたルーシャンの前髪を、くしゃくしゃと掻き混ぜる。
「パット…、」
「オレしかいないときだけだぞ、ソレ、許してやれんのは」
とろん、とますます甘ったるく声を蕩けさせたルーシャンの内側に、ぐ、と屹立を押し入れた。
「ロイだのウィンストンだのに“やれやれ”って顔されンのも今更だけどナ、いろいろ柵ってモンがあるからナ?」
「ぁ、ンぅ、ん…っ」
きゅう、と眉根を寄せたルーシャンの唇を、ちゅ、と甘く吸い上げた。
「ファック、のとき…だけ、」
とろ、と甘く微笑んだルーシャンを、ぐ、と突き上げながら、パトリックが笑った。
「オレはそのうちオマエに負けそうだよ、ルーシャン」
けどま、カワイイからいっか。そう呟いて、ちゅく、と濡れたルーシャンの屹立を撫で上げれば、
「だ、って、」
そう甘えた風にルーシャンが言って、かぷ、とパトリックの肩口に歯を立てた。
「Loup(ルゥ)って、オオカミ、だよ…、」
「Chanton(仔猫チャン)のクセに、生意気」
がぷ、と首筋を噛み返しながら、パトリックが笑った。
「寧ろオマエはアレだな―――――ma petite minette sexy」
甘く喘いだルーシャンが、きゅ、と締め付けてきたのにパトリックが喉奥で唸った。
「“オレのセクシーなチビの仔猫チャン”」
ぐ、と突き上げながら、パトリックがルーシャンの咬み痕をぺろりと舐め上げた。
「パット」
甘い声が呼んでくる。
「溢れても、注いで」
ぐ、と背中に指が埋められ、喘ぎ声交じりに告げられたコトバに、パトリックは低く笑いながらリズムを刻み始めた。
「ヤメナイで、ずっと――――――」
切れ切れに上ずった声で言い募るルーシャンの細い身体を突き上げながら、パトリックが笑って囁いた。
「まっさらになるまでナ、仔猫チャン。ほら、しっかり捕まってろよ」
ざ、と背中に線を引かれるままに突き上げながら、耳元で言い足す。
「ルーシャン、仔猫チャン。オマエが大事なんだってわかっとけ」


* * *


 昨夜脱ぎ捨てたままだったシャツにもう一度袖を通した。
 ベッドの中では、まだルーシャンが眠っている。静かに、音も僅かしか立てずに、リネンを僅かに上下させている。
 それを見ながら、パトリックは身繕いを整えていた。もうスラックスも靴も履いて、いまは袖のカフを留めているところだった。
 ざ、と水で撫で付けた髪から、雫が首筋を伝い落ちていく。
 昨夜から今朝にかけてまで酷く熱かった身体は、もう常温に落ち着いていた。
 頭は、キン、と冷えて、先を見据えている―――――――オノレが住まう世界の中を。
 いつの間に、時計を嵌めることを止めていたんだろう、とパトリックは笑う。アレに引き止められることなく、ルーシャンを抱けるように、と何時の間に外したままでいることに馴染んでいたんだろう、と。
 ルーシャンから視線を外さないまま、スーツのジャケットを拾い上げた。昨夜から今朝にかけては、ロイもこの部屋に足を踏み入れることもなかった。
 パトリックのものがそうであったように、脱ぎ捨てられたまま忘れ去られていたルーシャンの服をカーペットから拾い上げ、纏めてソファに置いた。靴も揃えて、ソファの足元に置いておく。

 まだ昨夜の名残がかすかな匂いとして部屋に満ちている、濃厚だったセックスの残り香が。
 引かれたままのカーテンからは、ほんの僅かしか光が差し込んでこない。
 ナイチンゲールをもう一度鳴かせてみれば、時間が戻ったと思えるのだろうか、過ぎ去ったばかりの夜に。
 シェイクスピアの一説を思い出して、くう、とパトリックは笑った。
 それとも、とパトリックは酷薄な笑みを目元に湛えた。
 幕末という変容の時代に東洋の侍が歌ったように、朝を告げる鳥を全て殺してでも、と思うほうがオノレらしいのか、と思い直す。
『三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい』
 そう詩を残したオトコは、何を思って相手を諦めたのだろう?
 ――――――散々、ルーシャンとは朝を共に迎えた筈だ。してみたい、どころの話ではなく。
 ああ、それに、とパトリックはますます自嘲に目を細めた。
 自分が殺すのならば、朝を告げる鳥を殺すなんていうまどろっこしい真似はせず、ルーシャンが戻るべき世界に在るニンゲンを皆殺しにするほうが楽なのか、と。

 ふ、とひとつ息を吐いた。
 時計などをせずとも、大まかな時間は判る、そしてその一秒一秒が過ぎていくのと共に、頭の中がキンと冴えていく、冷えていく。
 目を瞑り、眠ったままのルーシャンから視線を外した。踵を返し、大股でカーペットを踏んで部屋を横切っていく。
 ベッドルームのドアを静かに開けて、ほとんどルーシャンが使うことのなかった小さなリビングに足を踏み入れた。
 後ろ手に部屋のドアを閉め、ひっそりとしたリビングを抜けて、廊下へと出る―――――パトリックがいる間は施錠されることのなかった扉。
 廊下に出れば、ウィンストンが静かに歩み寄ってきた。
「お早いですね」
 まだロイさんもいらっしゃってはおりませんよ、と告げてくるのに、ひらりと手を振った。
「着替えたら出かける。ジジイの昔馴染みが死にそうだっていうからな」
「ルーシャン様は本日はいかがなさいますか?」
 厳格なトーンのままウィンストンが訪ねてきたのに、ふっと笑った。
「ロイに送らせる」
「左様でございますか」
 少し苦笑するようだったウィンストンに、パトリックが笑った。
「らしくないだろ」
「いいえ――――――とてもパトリック様らしゅうございます」
「そっか」
 廊下を静かにウィンストンと連れ立って歩きながら、目の奥に眠るルーシャンの姿が一枚の絵のように残り続けていることにパトリックは小さく笑った。
「バカなままか、オレは」
 呟いて、返答を寄越さなかったウィンストンの胸をポンと叩いた。
「ロイに電話をかけて、直ぐに来るように言っておいてくれ、ウィンストン」
 かしこまりました、と頭を下げたウィンストンに手をひらりと振り、自室に上がるために階段を上っていった。
 シン、とまだ静まったままの空間に、カチカチと響く置時計の音が酷く大きく響いていた。その音に合わせて自分が「冷めて」いくことに、パトリックがまた薄く笑った。
 まったくもって自分はバカだ、と思いながら、その音を頭に刻み込んでいった。




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