お茶
の
時間
朝をとっくに通り越して、いい加減昼時もいい時間にランチをパンケーキで済ませた後、ショーンはノーマンを伴って“庭”に出てきました。
庭といっても、この森の中にある家はノーマンの家だけでしたので、境界線などはありません。家の前に広がる小さな開けたスペースが“庭”です。
本格的に森になる直前の草が生い茂った場所に大きな林檎の木があって、その下にはウッドでできたテーブルと椅子がありました。
その木から家の端までロープが渡してありまして、そこには洗濯物がはたはたと風にそよいでおります。
「みたことがないです、」
新品のガーデンテーブルのセットを見たノーマンが、そう言ってショーンを見上げました。
「サイズが合わなかったからな。オレ好みにしてみたんだ」
そう笑って、ショーンが木の椅子を引きました。
「こっちに座るか?」
ちっさい…!と感嘆の声をあげたノーマンに、ショーンが微笑みます。
「ヒトサイズだ」
とて、と抱きついてきたノーマンは、頭はヒトだったものの、着るものはくまの着ぐるみのままで。さすがに上半身裸は憚られたので、袖を通したノーマンの背中をジッパーとボタンで引き上げておいてあります。
おかげで、ほてん、とショーンの身体に回された手は、ぱふんぱふんのくまの肉球のままです。
すい、とノーマンがショーンを見上げました。
「うえ。いらないです。ねぇ。しぉー…」
「だぁめ」
ショーンが笑ってノーマンの頬にキスをします。
「ごはんのときは上まであげてなかったよぅ」
唇を尖らせたノーマンに、にっこりとショーンがさらなる笑みを浮かべてみせます。
「オレの目の毒だからダメ」
すとん、とショーンがノーマンに示したのとは反対側の椅子に座ります。
そして手の中に持っていた紅茶の入ったマグを2つと、パンケーキを食べている間に焼き上げていたクッキーの乗ったお皿をテーブルの上に置きました。
きょと、とノーマンが首を傾げてショーンを見遣ります。
「少しばかり魅力的すぎるからね。オレの目から隠しておかないと」
くすくすと楽しげにショーンが笑います。 きょとん、とますます目を真ん丸くしたノーマンは気付かないのでしょうが、その真っ白かった肌にはショーンが着けた沢山の赤い印が散っていました。
強大な魔法使いであるとはいえ、ショーンは本当は22歳の若造です。惚れた相手の魅力的な裸は、それは目の毒にもなろうというものです。
「もうソレは着たくないのか?」
すい、と指輪を嵌めた人差し指で、ショーンがノーマンの毛皮を指し示します。
「あのね、」
ノーマンが口を開きました。
「しぉの手を、もっとさわりたいの」
そう言ってふかんふかんの肉球で自分の頬を触ります。
「毛皮はすてきだけど、お爪があぶないもの」
「よく見てごらん、ノーマン。その爪はもう危なくはないよ」
にっこりとショーンが笑います。
すい、とノーマンが目の前に両手を翳して、しげしげと見詰めます。その爪は、ノーマンが知らない間に象牙の作り物の爪に変わっておりました。
「あれ」
かり、とノーマンが自分の顔に軽く爪を立てていきます。
「な?平気だろ?」
ふんわりとショーンが微笑みます。
「オマエに傷付いて欲しくはないからな」
少しばかり強く押し当てたノーマンの頬が僅かに窪むのを見詰めて、ショーンが首を傾げます。
「明日にはオマエの服を作ってやらないとな」
納得したなら、椅子に座れば?と言い添えれば、ぱち、と瞬いたノーマンが、ふにゃ、と笑いました。
「しぉといっしょ?」
「同じデザンの服でなくていいぞ」
にっこりと笑って、ぱちん、と指を鳴らします。ばさ、と空から色のついたカタログが降ってきました。
「ちがうの。」
ふり、とノーマンが首を横に振りました。
「んん?」
「おいす」
「ああ、椅子」
ふわ、とショーンが微笑んで、自分の膝を叩きました。
「おいで」
ひゃ、と笑ったノーマンが、としーん、と身体をぶつけるように抱きついてきます。
そのままよいせよいせと膝に乗るのに腕を回して、ずい、と毛皮でふわっふわな身体を抱き寄せます。 ショーンは生まれてこの方テディベアに興味を持ったことがありませんでしたが、くまのノーマンの抱き心地は抜群で、思わずふんわりと笑顔を浮かべます。
同じ様にノーマンも、ふふ、と甘い笑い声を零しておりまして。ショーンはするりとピンク色の頬に頬を押し当てました。
「ノーマン」
甘くショーンが囁きます。
「それ、ぼくのことですか」
くん、と頬を押し返してくるノーマンが訊いてくるのに、ショーンが頷きました。
「そうだよ。オマエはノーマン・ベアードだ」
ふぅん、と小さく相槌を打って、ノーマンがショーンの袖が捲くられた腕を肉球で辿っていきます。
「オレたちが出会ったのは、オマエがまだ生まれて直ぐの頃で。オレが5歳で隣の家に引っ越してきた時だ」
まるで寝物語でも語るように、ショーンが静かにノーマンに告げます。
「オマエはオレが始めてみる赤ん坊で、一目でこのコを守ってやらなきゃ、って思ったもんだ」
す、と振り返るようにして視線で見上げてきたノーマンに、小さくショーンが微笑みました。
「オレの養い親になった叔父さんは、街に店を持っていてね。オレはまだ小さかったから一緒にいけなくて。でも一人で家に置いておくのも心配だ、って叔父さんがオレをオマエの家に預けたんだ。オマエのお母さんは優しいヒトでね、直ぐに承諾してくれたよ」
さら、と鼻先でノーマンの髪を擽れば、ぱち、とノーマンが目を瞬き、けれどもきゅっと口は閉じたままでおりました。
「それからずっと、ほとんど朝から晩まで一緒に過ごした。それで、オマエがおしゃべりが出来るようになった頃に、オレが学校に通い始めて。それで日中は一緒にいなくなったけれど、それでも夕方から夜遅くまで、ずっと一緒にいたよ」
ノーマンの頬に頬をくっつけたままでショーンが言葉を紡いでいきます。
「休みの日は、ほとんどオマエと一日中一緒だった。泊まりに行った日は、文字通り朝から晩まで」
きゅ、ときつく腕を握られて、ふわりとショーンが微笑みました。
「一緒にお出かけに連れて行ってもらうとな。オマエのお父さんとお母さん、オレとオマエで、一つのファミリィとして扱ってもらってたんだ」
まま、ぱぱ、と。小さく呟いたノーマンの身体を、ショーンがぎゅうっと抱きしめました。
「そんな風に5年間を過ごしてた。それでそんな風にずっと過ぎていくもんだと思ってたんだ」
言葉を途切らせたショーンを、すい、とノーマンが振り向きました。
「しぉ…?」
「んー?」
「でも、いないですよ?」
そう無垢な声で訊いてきたノーマンに、ウン、とショーンが頷きました。
「夏休みが終わって、5年生の夏の学校が始まって。またオマエとは日中は会えない日々が始まって直ぐの頃にな、学校から帰ったら、オマエが行方不明になっていたんだ」
さらん、とノーマンの髪を撫で上げます。 くてん、と寄りかかってきたノーマンの横顔にショーンが口付けました。
「どうして?」
「オマエのことなんだぞ?」
そう囁いて、ショーンがくすんと笑いました。
「まあけど、真相を知ることはそう難しくはない。オマエは学校に行ったオレを追って、この森に入ってきてしまったんだ」
「もり、」
そう呟いたノーマンに、うん、とショーンが返します。
「この森には魔法がかかっていて。コドモどころかオトナだって足を踏み入れない場所だった」
こつん、とショーンがノーマンの頭に横顔を押し当てます。
「いいもりです」
くり、と頭を押し付け返して懐いてきたノーマンに、ショーンが小さく喉奥で笑いました。
「森としては理想的だろうな。ヒトはまず入ってこれない」
オレはね、とショーンが言葉を継ぎました。
「この森の上にゲートを作って。学校への近道を繋いで、通っていたんだ」
頭上をほんの少し入るだけだから、魔法はオレには作用しなかった。そう告げたショーンを、く、とノーマンが見上げます。
「オマエは、オレを追ってきて。そのまま森の中に歩いて突入してきて、そのまま迷子になったんだ―――――ここの魔法を紡いだ魔女は、オマエを保護したっていってたけどな」
ちゅ、と優しい口付けをショーンがノーマンの髪に落とします。
「――――――あ」
ノーマンの目が何かに気付いた風に、真ん丸くなりました。
「あのね、小さい影がくるくるして、ぼくの上に袋をかけるとまっくらになるんです」
そう告げてくるノーマンに、ふわりとショーンが微笑みました。
「魔法を掛けられた記憶だね、それ」
きゅ、と振り向いたノーマンがショーンに抱きつきました。 ショーンも力を込めてノーマンを抱きしめて、その髪に鼻先を潜り込ませました。
「ここの森を所有していた魔女は気難しくて強大でね、誰もオマエの居場所を魔女に確かめさせることができなかった」
くすん、と哀しげにノーマンが鼻を鳴らしました。
「ままと、ぱぱはぼくがくまだからもういやなの?」
ショーンがノーマンの悲しげな声に、小さく息を吐き出しました。
「オマエのお母さん、ミセス・ベアードは。オマエがいなくなってしまったことが悲しくて。そのまま悲しみに溶けていなくなってしまった」
さらん、とノーマンの髪に口付けます。
「オマエのお父さん、ミスタ・ベアードは。オマエをなんとかして助けようとしてたけれど…オマエと、オマエのお母さんがいなくなってしまったことが悲しくて。やっぱり身体を壊してなくなってしまったんだ」
首を傾げたノーマンを、ぎゅうっと抱きしめます。
「オレがオマエを迎えに来られる日が来るまでを、悲しすぎて待っていられなかったんだよ」
ふう、と息を吐き出したノーマンの髪にもう一度口付けて、ショーンが囁きます。
「だけどな。オマエのお父さんとお母さんの分まで、これからオレが一緒に居てオマエのことを愛するから、な」
「たくさん、おべんきょうしました」
すい、と見上げてきたノーマンが、にこ、と笑いました。
する、と更に身体の向きを変えたノーマンが、両腕を伸ばしてきゅうっとショーンの首に抱き付きました。 ショーンがその背中をさらさらと撫で下ろします。
「おしゃべりもできるし、寂しくないです、しぉ」
甘えた風なトーンのノーマンに、ショーンがくすりと笑いました。
「もう寂しい思いはさせないさ」
すい、とノーマンが思い出した風に首を傾げました。
「しぉはでもここの森のひとって言ったよ?」
くう、とショーンが口端を吊り上げて、そのくすんだブルゥアイズを細めました。
「オレはね、オマエを迎えにくるために。オマエをこの森に閉じ込めてしまった魔女を討ち取りに行ったんだ」
にぃい、と剣呑な気配を纏って、ショーンが悪そうに笑います。
「山を越えて、海を渡って。魔女を追い詰めたオレは、壮大なバトルの結果、この森を勝ち取ったんだ」
「ばとる?」
首を傾げたノーマンに、にやり、とショーンが笑いました。そして、ぱちりと指を鳴らして、魔女の館でショーンと荒野の魔女がフェンシングをしているシーンをヴィジョンで再現しました。
「こんな風にね」
「えええ?」
最後に魔女の心臓をショーンの剣が刺し貫いて。ふわ、とヴィジョンが消え去りました。 ノーマンがますます目を丸くします。
「しぉ、」
きゅう、とノーマンが目を細めました。
「ん?」
く、とショーンが首を傾げます。 「おはなし、ほんと?」 まじまじと見詰めてくるノーマンに、にっこりとショーンが微笑みました。
「マサカ」
「ぜんぶ?」
きら、と目を煌かせたノーマンに、ふる、とショーンが首を横に振りました。
「残念ながら、魔女とのバトル以外は全部本当にあったこと」
ちゅ、とノーマンの目元にショーンが口付けました。 そう、と呟いて、ノーマンがショーンの首元にまた顔を預けていきます。
「オレが魔女に会えるようになったのは、ついこの間のことでね。会いにくるついでというか、会いに来る条件がそうだったというか……まあ、この森のこととかを、全部オレが面倒をみることになったんだよ」
ショーンがさらさらとノーマンの金茶色の髪に指を絡めます。
「だから、オレがこの森の持ち主になった。つまりは、オレもこの森のヒト、ってこと」
きゅう、とノーマンが眉根を寄せていきます。
「しぉの?」
納得がいっていない顔になったノーマンを、ショーンが覗き込みました。
「そうだよ。不服そうだね、オマエ?」
だって、とノーマンが言い募ります。そして、しくしくと泣き出しました。
きゅ、とショーンが眉根を寄せます。すると、ノーマンがほとほとと泣きながら呟きました。
「しぉ、お家あるの?さみしいよぅ」
「…んん?」
する、と指で涙を拭い取りながら、ひんひんと泣き出したノーマンの顔を覗き込みます。
「なんで寂しいの」
「ぉ、うち…っ、かえっ、ちゃー…しぉおお、」
はぎゅう、と抱きついて、うぉんうぉんと盛大に泣き出したノーマンに、ぶふぅ、とショーンが吹き出しました。
そのまま、ノーマンのふかふかの着ぐるみボディを抱きこんで、仰け反るようにケラケラと笑います。
「うわ、うわ、ノーマン、オマエぇえ、」
けらけらと盛大に笑うショーンは、目尻に涙まで浮かべてしまいます。
うぉんうぉんと泣いていたノーマンが、きぃいい、とヒステリックに睨みつけてくるのに、ショーンがくすくすと笑いながら、さらりとノーマンの頬を撫でました。
「一緒に居る、って誓っただろう?側に居る、って」
「だ、ぁあ、って、」
それから、すりん、と昨夜ノーマンの首にかけてあったネックレスを引っ張って、ぽろぽろと涙を零すノーマンの目尻からその雫を吸い上げました。
「ちゃんと約束しただろ?確かにオレには仕事があるしな、ほんっとうにずーーーっと一緒に居ることはできないけど。オマエをここにおいてどこかに行っちまったりなんかしないよ」
にこりとショーンが微笑みます。
「ずううっとが、いぃいよお」
「暫くはずううっと一緒だ」
嗚咽で声がひっくり返ったノーマンの頬にするりと唇を滑らせてショーンが微笑みます。
「ただまあ、この森でずっと一緒に住むのは無理だからなぁ。オマエがオレの家においで」
ひ、と相当無理をして嗚咽を飲み込み、じっと見上げてきていたアクアマリン・ブルゥの双眸を覗き込んでショーンが微笑みました。
「オマエはオレの家族だからね。一緒に住もうな」
「しぉ、」
安心した声で呟き、ほて、と身体を預けなおしてきたノーマンの身体を抱き寄せなおして、ショーンが柔らかな声で告げます。
「オマエが一人で過ごしていて寂しかった分も。これからの日々も―――――オレが側にいるよ、ノーマン」
する、と優しく額に口付けます。
「はぃ、」
ふにゃ、と微笑んで目を瞑ったノーマンの身体を優しく揺すって、ショーンが紅茶に手を伸ばしました。
魔法のマグに入った紅茶は、適温のまま下がることはありません。
ノーマンの身体を抱いたまま優雅に紅茶を飲みつつ、ショーンはきらきらと眩い太陽を大きな林檎の木の下から見上げます。
こてん、と身体を預けて、時折すりすりと頭を摺り寄せてくるノーマンの身体を抱きしめて、昼寝でもしてみようか、と目を瞑ったりしてみます。
けれども、ふわりと甘いハチミツの匂いがノーマンからはします。
“くま”の主食はハチミツとなんだったのだろう、と頭の中で首を傾げつつ、じわじわと欲求がその身に涌いてきます。
魔法がかかっていたせいなのか、どうもノーマンの言動は16歳の少年らしくはありません。
けれども、その四肢はすんなりと長く、身体はしなやかに伸び。目を瞑っていれば、口許の黒子もなんとも色っぽい表情をしています。
ノーマンを失くした頃は、ショーンも11歳の少年だったので。家族的な意味を含んだ“特別”なだけの相手でした。
けれども、ショーンはいまや22歳の青年です。金色のさらさらの髪に、くすんだブルゥアイズ、すらりと長い手足と、がっちりとはしていないけれどもしっかりと筋肉のついた体躯、それに柔らかな笑顔を浮かべる端整な顔で、流した浮名は数知れません。
ノーマンを探すために、この森を荒野の魔女から受け継ぐために相当勉強をして、その結果首席で魔法学校も王立魔法大学も卒業しましたが、強大な魔法使いであること以外は、案外フツウの健全な青年です。
その上、長年ずっと探し、追い求めていたノーマンを一目見るなり恋に落ちたオトコでありますので、ガマンをするにも限界があります。
ノーマンが嫌がれば、自分自身に魔法をかけてでも恋心は封印する覚悟でありましたが、どうやらノーマンも“嫌ではない”らしいのです。
それを知っているからこそ、むずむずと欲求が奥底から芽生えてくることが抑えられません。
日はまだ高く、ベッドに向かうには随分と早い時間ではありますが―――――この森には、ノーマンとショーンの二人しかおりません。
引き継いだこの森を訪ねてくる相手もいまはばっちりブロックしてありますので、仕事の連絡をしに使い魔がやってくることもありません。
いい匂いをふわふわと漂わせているノーマンを、この場で剥いていただいてしまっても、誰からもなんの文句もでないのです。
押しとめているのは、ショーンの理性ヒトツ。
けれども、堪える理由が、ショーンにはないのです、ぶっちゃけた話。
すりすり、と頬を摺り寄せてきていた挙句、なにが気になったのか、あむ、と首筋に甘く歯を立てられては、堪えるものも堪えきれなくなるのは若さ故です。
背中を撫で下ろしていた手が、自然とジッパーに向かったことを、誰が責められるでしょうか。
そのまま、じじじじ、と下ろしてしまったからといって、ショーンを責めてしまっては可哀想です。
はふん、と首元で熱い吐息を零されてしまっては、どきどきと高鳴る鼓動が追い立てるままに、するりと柔らかな毛皮を剥いでしまっても仕方ありません。
そのまま、ぐいっと着ぐるみを剥いでしまって、しぽん、とすっぽんぽんのノーマンを抜き出してしまっても、いけいけGOGO!と応援してしかるべきです。
んは、と笑い声だか喘ぎ声だかを漏らしたノーマンに、ショーンはふわりと微笑みます。
一面にきらきらと眩い陽光が煌く中、木漏れ日の下で真っ白い肌を曝し、落とし込まれた淡いピンク色の痕をちらちらと蠢かされて、鼻血をたらさなかったことをむしろ褒め称えるべきだと思われます。
「しぉ、」
甘く蕩けるようなハニィヴォイスが囁いてくることに、きゅう、とショーンが目を細めました。
このままこの場所で喰っちまおうか、と思いますが、いくらなんでもそりゃまだ早いか、と自問自答を繰り返します。
する、とノーマンのピンクの爪先がショーンの唇を辿っていきます。
「これ、へぃき?」
うっすらと唇を開いて笑ったショーンが、てろ、とノーマンの指先を舐め上げました。
「渾身の力を込めない限りはな」
同じく唇を半開きにしたノーマンが、ぴくりと指先を跳ねさせ。けれども、そのままとろとろと撫でていくのに微笑みました。
「……愛してる、って言ったこと、覚えてるか?」
じっとショーンのブルゥアイズを見詰めたまま、こくん、とノーマンが頷きました。
「あと9回、チャレンジが残ってるってことは…?」
さらさら、と裸の背中をショーンの指先が辿っていきます。
ぴく、とノーマンの身体が跳ね上がり。こくん、と顔を赤く染めて頷いたノーマンに、ショーンがぺろりと唇をなめずりました。
「いまから頂くけど、構わないな…?」
きゅ、と首に縋ってきたノーマンの背中を抱き寄せて、ショーンが立ち上がりました。
どきどきと重なった場所から鼓動が響いてくることに喉奥で小さく笑って、風通しを良くしてある家の中に入って、真っ直ぐにベッドルームへと向かいます。
する、とベッドキルトを剥いで、きれいにしたリネンの上にノーマンの細い身体を下ろしました。そのままするりと乗り上げて、ノーマンの双眸を覗き込みます。
じいいっと見詰めてくるノーマンの金茶色の髪を掻き上げて、ふわりと微笑めば。迷ったように彷徨っていたノーマンの手が、するりと頬に触れてきたことにますます笑みを深めます。
「ノーマン、」
ショーンが優しく囁いて、少し首を傾げたノーマンの唇にトンと口付けました。
「――――――ぁ、」
「ん?」
足をもじ、と動かしたノーマンの中心部が熱くショーンの腹を押し上げてくることに喉奥で笑って、するりと薄く開いた唇の間に舌を滑り込ませました。
「ん、っふ」
そして、そろりと舌でノーマンの口中を掻き混ぜながら、優しい手でノーマンの快楽を生み出しにかかりました。