素敵







 ふしぎ球は、ノーマンが持ち歩いては落としたり転がしたりぶつけたりする危険がある、というのできちんとした「とりかご」ができるまではショォンが預かっておいてくれることになっていたので、ノーマンはそれがちょっと不服でした。
「とりかご」のせっけいずを書くのに、すぐそばに球を置いておきたかったのです。
『うっかり割れたら取り返しがつかないしね。見惚れて作業が遅れたら大変だし、ちょっとしまっておこうな』
 けれど、ショォンがそう言って、頭をなでてくれたのでどうにかぷすりと尖らせていた唇をへの字に曲げたのです。
 それでも小さいチャームは首から下げていますし、すてきなお星様ペンダントもいつものようにとてもきれいでしたので、ノーマンが自分用の「おしごと机」に着く頃には大方機嫌は治っていました。
 きちんとした「おべんきょうべや」はショオンからちゃんともらっているのですが、そこよりもノーマンは明るくて大きなお台所のテーブルの方が好きでしたので、そこへずらりと色鉛筆やパステルやクレヨンを並べて、袖をまくり上げてスケッチブックにたくさんアイデアをこのごろかいておりました。
 いろいろな考えやきれいな形がどんどんと頭に浮かんできますので、ノーマンはふんふんと楽しくなってお歌をうたってしまいます。
 そして、ぴしりと新しい紙をめくっては、一気にアイデアをまとめ上げていきました。
 ぽってりとした厚みのあるカップに入れておいたココアが冷めてしまうほど、熱中して長い間手を動かしていましたが、「せっけいず」の右下にえいやっと勢い良く自分の名前をサインすると、ふうっと大きな息をノーマンが吐きました。
「できました…!!」
 じっくりと見直してみますが、自分でも惚れ惚れとするような「すばらしいとりかご」がそこには描かれておりました。
 これは、一刻も早くショオンに見せてあげなくてはいけません。
 ショォンもきっとノーマンの腕前にびっくりして喜んでくれることでしょう。
 ですから、スケッチブックを急いで手に持って、まっすぐにショオンのお勉強部屋に向かって走っていきます。
 ぴょんぴょんとドアの前で飛び跳ねて、「しょぉ!しょおおん!」と大きな声で呼びます。
 今日は、早めのお昼にしようね、と朝にショオンは言っておりましたので、そろそろ出てきてくれるはずです。
「しょおおんんん―――――!!!」
 わくわくとして飛び跳ねておりますと、すうっと大きなドアが開きました。
「しょお!!」
 柔らかな白のたっぷりとした絹のシャツを着たショオンが「元気いっぱいだなぁ、ノーマン」そう言って、くすりと笑うのに、「はい!!」と元気良くノーマンが答えます。
「あのね、あのねえ、しょお…!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、スケッチをずいっとショオンの前に出します。
「ぼく、とりかご、すてきなの考えたんですよ!」
 ぱああっとお星様が散らばりそうな笑顔をノーマンが浮かべて言います。
「これはまた手が込んでいるね?」
 はい!とノーマンはいっしょうけんめい頷きます。
 なにしろ、古代のかみさまを入れてあげる大事なとりかごですから、きれいなものにしたかったのです。
 ですから、はりきってたくさんの宝石で飾った金のかごを考えてみたのです。
「あのね!」
「うん?」
 元気にノーマンがせっけいずの「いるもの」と書かれた備品リストのところを指差します。
「アクアマリンとおぱーるをたくさん用意しておいてください」
 張り切ってそう言います。
ノーマンは不思議辞書で宝石のお勉強をするのも好きですから、石の名前や色はたくさん知っているのです。
 ショオンはもう少しドアを開けてノーマンを中にいれてあげながら、せっけいずをちらりと覗き込んでくれます。
「たくさん、いるんですの」
 おじゃまします、と小声でそうっと言いながら書斎へとノーマンが跳ねるようにして入ります。
「いるんですか」
 ショオンの声が楽しそうにわらっているのに、ほにゃりとノーマンもうれしくなって笑顔を浮かべます。
「はい!」
「それはドロップで?それともカット?はたまたラウンド?」
「あのね、まぁるくってつるんっとしたのがいいんです」
 これはこのあいだ、ドリームキャッチャーを作ったときにもらったカボッションカットのことです。
「ラウンドとオーバルとドロップってことかな。じゃあどれがいい?」
 ショオンがそういうと、ぱちりと指を鳴らします。
 手の中に、その通りの形の宝石が三つ、並んでいるのにノーマンは歓声を上げました。
「あのね、なみだ型と、でもまあるいのがいいです!」
 ぴし、と一番右端になったティアドロップ型の宝石を指差して、それからショオンをじっと見上げます。
「それから、まえ、ぼくにくれた中身に虹の出るのがいいです、おぱーる」
 あはははは、ととても明るいショオンの笑い声に、ノーマンがにこりとします。
「あれはそんなにたくさんはないよ、オマエ」
「そうなんですか?」
 あら、とノーマンが口許に手をもっていきます。
「じゃあ、あのね、おおきいのをひとつください!」
 たくさんはむずかしいですものね、とこれでも一生懸命考えているのです。
「おおきいの、ねえ。じゃあラウンドのはどんなのがいいかな。完璧に球体のと、エッグ型と、カットで立体なのがあるよ。あとはオーバル」
「あのね、たまごの形!!」
 すてきすてき、とノーマンがまた新しく並んだ型をみて即座に決めます。
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、キラキラの目で大好きなショオンを見上げます。
「しょおはすごいですねえ…」
 うれしくなって、ぎゅうっと抱きつきます。
「うん。そうなれるように頑張ったからね」
 ぎゅうっと抱き締め返してもらって、ノーマンはご機嫌にくつくつと笑います。頭もまた撫でてもらえて、ますます幸せになります。
 ですから、とろとろの笑顔でショオンをじっと見上げて言いました。
「おうさまのとりかごよりきれいなのつくりますよ」
「当代一の鳥かごになるかもしれないね」
「はい!」
 それはおまかせですよ!と張り切ってノーマンは応えたのです。

 それが、いまから三日ほど前のことです。
 そして、「せっけいず」の通りにとても複雑怪奇な曲線(植物のつるよりも植物的でした)と繊細なライン(髪一筋ほどの差で太さが様々なのです)で、天辺が細い細いドーム型になるように正面から見ると円柱のような、横から見ると四角のような黄金のとりかごができていたのです。
 もちろん、王様だって実はお持ちになっていない中に虹の現われる、ドワーフたちの宝物であるなみだ型の大きなオパールは、ドームの天辺からキラキラと輝くアクアマリンを細かく繋いだ鎖からかごの中に垂らされているのです。
 細い黄金のラインはそれぞれ複雑に絡み合いながらアクアマリンとオパール、それから色を何通りにも変えるガラスや水晶を抱き込むようにもつれ合ってかごを形作っています。
 6つある台座の足は、細長くて大きな木の根っこのように張って、それでも優雅にかごを持ち上げています。
 ふしぎ球の置かれるクッションは、目に見えない糸で織られているので、美しいとりかごのなかにまるで浮いているように見えます。
 かごのそこここには、ゆるく編みこまれている宝石がたくさんありますから、風が吹けばそれが黄金や宝石同士がぶつかりあってとてもきれいな音色が響きます。
「―――――だいけっさくです」
 ノーマンはもう嬉しくて仕方ありません。
 美しいとりかごを手にしたショオンはおでこにキスを落としてくれました。
「よく頑張ったね。とても素敵な鳥かごだ」
「しょおにもお手伝いしてもらいましたもの」
 くすんとノーマンが笑います。
 なにしろ、手先は器用ですがノーマンはどこか鈍くてのんびりしたところがありますので、とりかごを作る間中、しょっちゅう手を怪我したりしていたのです。
 宝石に細かい穴を開けるのに、針で指を刺して泣くのはあたりまえですし、黄金を溶かしている間にお爪がちりっと焦げてしまっておんおんと泣いたり、午後の作業のことを考えるのに夢中でお昼ごはんの用意のときにお湯を零して足を火傷したり、と中々どうして大騒ぎだったのです。
 そのたびに、大魔法使いがあっさりとお怪我は治して慰めてくれたのです。
 怪我をした指をぱくんと咥えて治してくれたり、足の火傷にはお薬を塗ってくれたり。
 そのたびにノーマンはショオンに抱き着いておいおいと泣いておりましたので泣き止むまで抱っこもしてくれておりました。
 そんな苦労の末に完成したとりかごですので、すばらしいに決まっているのです。
 これならきっと「おししょう」も気に入るはずです。
 ですから、ノーマンはわくわくして、ショオンがとりかごのなかにふしぎ球をそうっと差し入れるのを見守ります。
 ショオンが呪文を唱え終えると、まるで最初からそこにあったように、すうっとかごのなかにふしぎ球が現われるのに、ノーマンがひゃあっと歓声を上げます。
 青い炎がゆらゆらと揺れる透明な球の表面に黄金と宝石が映り込んでそれは幻のようにきれいな色になります。
「しょお、おししょうをはやく起こしてください」
 そうにこにことしてる大魔法使いにノーマンはお願いします。
「きっと、とってもよろこぶんじゃないですかしら」
 きゅっとショオンのシャツを手指に握りこんで、少し緊張してノーマンが言いました。

 けれど。
お夕食のときに、ノーマンは首を傾げてショオンに訴えたのです。
「おししょうはなんであんなに怒りんぼなんですの」
「そりゃ寝起きだからだろう?」
 実は、わくわくと期待に満ち溢れて、とりかごを見詰めていたノーマンは、再び「目をさました」ユミルに大声で怒鳴られてしまっていたのです。
『目覚めた途端、眩しい……ッ!!』と。
「そうですかしら」
「そうそう。それに相当のご高齢だからね」
 笑っているショオンにノーマンはさらに言い募ります。
「おししょうは、おとしよりできむずかしやさんでがんこさんで、たいへんなんです」
 こくりとカップからおいしいスープを飲みます。
「そうだね」
 あのあとね、と続けます。
「しょおがお勉強にいっちゃったあとも、ずーっとずーっとオオカミさんは見せてくれないんです。けちんぼですよねえ」
 ぷんぷんと珍しく不服を洩らしているノーマンに、ぷふっとショオンが吹きだしました。
「ずっと語りかけていてごらん。そのうち“喧しいわっ”って起きてくるから」
 お椅子の背に仰け反るようにして身体を預けてショオンが大笑いをするのを、ノーマンがふしぎそうにじっと見詰めます。
「“こざかしいわッ”ですとか、“おのれ、だまらっしゃい!!”って、なんですの?」
 今日の午後に言われた言葉を繰り返してみます。
 やかましい、とどう違うのでしょう。
 ノーマンがいっしょうけんめい、森のことやお城のこと、暮らしぶりのことをお話していたら、さんざんそう言われてしまったのです。
 ぶはーっとまたショオンが苦しそうに笑い出してしまって、目尻になみだまで浮かべています。
 それを指先でそうっと拭って、食後に辞書で調べてごらん、と優しく言ってくれて、お夕食はそれでも楽しく過ぎていったのです。そして、お食後にふしぎ辞書でショオンに言われたとおり、言葉を調べてみましたが。
「ねえ、しょお?ぼくはうるさい子じゃありませんから、やっぱりおししょうはおこりんぼさんなんですよ」
 そう、まじめにショオンに言いましたので、大魔法使いはまた大笑いをしたのです。

 そして、お師匠と一緒のノーマンの「おべんきょう」が始まったのです。
 おべんきょうべやではなくて、やはりお日様の差して明るくて大きなお台所のテーブルが「おきょうしつ」になりました。
 おやつや飲み物をすきなときに用意できるので、やはりお台所が一番だとノーマンが思ったからです。
 無理やり目覚めさせられたからといって、そうそうノーマンを無視しているわけにはユミルもいかなくなったのです。
 元こぐまは「めげる」ということを知りませんから、「おししょう」が黙っていてもうきうきといくらでも、えんえんと「おはなし」をするのです。
 何万年も生きてきたユミルにとって、ほんとうにどうでもいいくだらないことでもノーマンにとってはお城の中や外で起こること一々すべてが大事件ですから「おはなし」の尽きることはないのです。
 ですから、ショオンの望んでいた通り、このままでは正気が保てぬ、と気づいたユミルはある日、おもむろにノーマンに向かってこう言ったのです。
「あのね、おししょう、ぼくね、森の奥にはひみつの国があると―――」
「ワッパ」
「あら、はい?」
 初めてちゃんと話かけられて、ノーマンがひょこりと首を傾げます。
「おまえに必要なその躾とやらは、まずは言葉からだ」
「あのね!ぼくはおはなしはじょうずって、しょおによく言われます!!」
 ひゃーっと一気にうれしそうに話し始めるノーマンに一瞬ユミルは呆れますが、放っておくことにします。
「―――――辛うじて、丁寧にはしゃべれるようだな」
 はい、とノーマンが頷きます。それだけでしたら良かったのですが。
「だってぼくは、いいくまでしたから」
「それはなんのことやら理解できぬが、もう良い。黙らっしゃい」
「……あら」
「良いか、丁寧語は多少難はあるが出来ておる。しかしそのほかはてんでダメのようだ」
 じっとおししょうの言葉を聞いていたノーマンがふむ、と頷いてがんばってその日の午後をお勉強で過ごしたので、お夕食の時にはお腹がぺこぺこでした。
 そして、蒸し焼きにしたお魚と焼いたお野菜とクリームスープと焼きたてのパンとたっぷりとの果物のお夕食を元気に食べながら、張り切ってショオンに報告したのです。
「あのね!しょお!ぼくね、あのね、ていねん語はできるんですって。ですから、ええと、今日からね、てんじょう語を教わっているんですよ!」
 すごいでしょう!と大自慢でにこにこです。
「オマエね。丁寧語と謙譲語、だろうに」
「あら?てんじょうじゃありませんか」
 ついんとショオンに額を押されて、かくんと頭を反らしながら続けます。
「ていねい語ですかしら」
「そうそう。丁寧語と謙譲語。天上語だったらもっとかしこまって大変だよ」
 くっくとショオンがわらって、赤ワインの入ったゴブレットを口許にもっていきます。
「てんじょうごじゃないんですの?」
 ほんとう?と頑固な元こぐまが言っていたなら、
「謙譲じゃ愚かモノッ!!!!」
 そう朗々と響くユミルの声が小卓の方からします。
 くく、とショオンがわらうのに、ぷすんとノーマンが唇を尖らせます。
「あら。おししょうはまたおこりんぼさんですよ」
 そして、ふっと思い当たります。
 ノーマンにはおししょうがおりますが、ショオンには「おれの師匠」がいるのです。いつもふしぎなお菓子のお土産をくれる背の高い人です。
 ちょっと気になりはじめてしまったので、聞いてみます。
「あのね、しょお?しょおのおれのししょうも、怒りんぼさんで大変なんですの?」
「は?」
 ショオンが目をぱちくり、としましたので、質問を繰り返します。
「はい、しょおのおれのししょうも怒りんぼさん?」
「"おれのししょう”、って"オレ”の"師匠”のことか?」
「そのひとです、しょおにはおれのししょうがいらっさので、ぼくのせんせいはおししょうです」
 既に意味不明の説明になっているのが分からないのはノーマンだけです。
「んーと。確かにオレには師匠がいるけどな。怒っている所はめったに見たことがないよ」
「でも怒るの?」
「オレは怒られたことないよ。誰にもね―――ああ、死んだ叔父を除いてだけど」
「お勉強、たいへんですものねえ」
 ふう、と共感した風にノーマンが溜息をつきます。
 そして突然言い出しました。
「おうえんしていますよ」
 ぼくはてんじょう語をがんばりますから、と続けます。
 そうしたなら。
 ぶっはーーーーーっと滅多にないほどの勢いでショオンが吹きだしました。
「ああこれは難題だ、ユミル師匠のご尽力を頂戴しても時間がかかるなあ!」
 笑いながらショオンが続けるのに、ノーマンが首を傾げました。
「でもね、ぼく、てんじゅう語ならすこしは知ってるんですの」
「どこの言葉だ、それは。謙譲語、はい、言ってごらん」
「んん、けんじゅうご…!!」
 精一杯間違っています。
「謙譲」
 さんはい、と指で合図をもらって、また大きな声で言います。
「けんじゅー」
 そしてすいと首を傾げます。
「じょうですかしら」
「じょう」
「じょうですね」
「そう。纏めて言ってごらん。謙譲語」
 はい、と頷いて、ノーマンが繰り返します。
「ていねん語とけんじょう語ですね」
 ほらできた!と威張って、それからまっすぐにショオンを見ます。
「うん。よくできたね」
「けんじょうごは、ござるーとか言うんですよ」
 遥かに違うな、と小卓から声が響くのに、ぶっと大魔法使いが笑います。
「あら。ござるーですよ」
「違うと言うておろうが」
「あら。おざるですかしら」
「おまえは誤りを認めるという心を知らぬのか!!!」
「おこりんぼさんはいやですよう」
 そんな会話を耳に、わはははは、とショオンはお腹を押さえるほど笑い転げます。
「おのれ魔法使い、笑うておる場合ではないぞ!そこへなおれ!」
 ユミルの怒りの矛先がショオンに向かいますが、ショオンは手を優雅にひらりと揺らして取り合いません。
「やー無理でしょう。笑うよこれは。堪らないね」
 けれどそんなことを気にするノーマンではありせん。
「しょお!おざるーですか、ござるーですか!」
 確かめたくてしょうがないのです。
「どっちかならござる、だけどね、ノーマン。オマエ、ラジオを聞きすぎだよ」
「ラジオは楽しいんですよ」
 ふふ、とノーマンはご機嫌で、は、とした顔で言い直します。
「ラジオはたのしいでござるーですよ」
「ぶははっ」
「そこのワッパ!!!」
 とまあ、非常に賑やかな夕食になるのでした。

 それでも、毎日「おべんきょう」は続いて。
 初日からこんな具合でしたので、一日に4回はショオンは大笑いをすることになりました。
「あのね、おししょうがむかしの言葉を教えてくださりーなんですのよ!」
との報告を受けて。
「でもね、”おのれ小癪なー”とか、"愚か者めが”とか”そこへ直れー”とかはもう覚えましたんでござるーよ!」
と、うきうきと続けるのを聞いて。
大笑いしながら「覚えるのはいいから、それをいつになったら言われなくなるのか、それを気にしなさい」と言ってみたり。
 わしわしと頭を撫でられながら、ノーマンは「あと、おぬしの首を刎ねてやろうか!っていうのもあります」と追加の報告をしたりもしました。
「実際にそうなることはないけどね。もう少し、頑張って勉強しような」
「いたっていそしんでおる」
 そう真面目な顔でノーマンが言います。覚えたてなのでした。
「おります、だよ。ノーマンは一番の年下だからね」
「あら、はぁいー」
 ちょん、とハナサキをショオンの指が押してくるのにくすくすとわらってノーマンがぎゅうっと抱きつきました。
 ほかにも、毎日、たくさんの報告がされていきました。
「ショォンはなにを召し上がれ?」と間違って教えなおされてみたり、「てまえはもう結構でござるよ」とラジオの劇の言葉遣いとごちゃごちゃになってしまうのを直してもらったり。
「おれのししょうと取替えっこはできませんの?」とショオンに聞いて「そりゃあ無理だなあ。師匠、もう教職には就いていないからね。しばらく前から王の相談役なんだよ」と、そう諭されていたり。
 そうかと思えばおししょうと仲良く隣同士に座って魔法の森のお話をしてもらっていたり、古代語の練習をしていたり、と毎日は中々充実していっていたのです。
 けれど、それからしばらくたったまたある日。
 とりかごを片手にしたノーマンがどんどんと書斎の扉を叩いていました。何度も何度も扉をたたきます。
 どうやら、また「だいじけん」のようです。
 止さぬかわっぱ!!とユミルはしばらく前まではたしなめていましたが、もうすっかり静かです。
 ひょい、と気楽に扉が開きました。
 大魔法使いはそれほどむずかしい用事をしていたわけではなさそうです。
 さらりと金色の髪が流れてとてもきれいな景色でした。
「どうしたの、ノーマン」
 あのね、とそうっと声を絞ってノーマンが大事なことを相談するときの口調になります。
「いーすたってあるらしいので、お庭と森に光るきのこを隠しておいてください」
 どうやらまたラジオで頓珍漢な知識を仕入れたらしいのでした。