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光るきのこをイースターの為に森に隠しておいて欲しいと言われ、ショーンは目をまん丸くしておりました。
光るきのこはショーンの普通の森の外では滅多に採れるものではなく、ショーンの森の中ですら、奥深くの限られた場所でしか生えてきません。
ノーマンの知識の出所は、大体において話半分くらいでしか聞いていないであろうキングスタウン・ラジオの放送番組です。
ということは、光茸を最近ラジオで取り上げた番組があったということなのでしょう。
村人の手に入るサイズの光茸はソテーにするととても美味しいので、恐らく料理番組で紹介されたものと推測されます。
ショーンの森で採れる光茸は、最大で50センチくらいのもので、こちらは食するよりも観賞するほうが似合っている素材です。
「イースター、光茸だけでいいのか?」
どこで採取してどこに移植するかを一瞬で決めたショーンは、直ぐに次のことに意識が向きます。
「ひかりだ?」
「ヒカリダケ。光る茸、だろう?」
「きのこですね!」
ぴょん、と飛び跳ねて抱きついてきたノーマンの身体を抱きあげます。
「チョコレートのうさぎはぼくがつくります!!」
「おや。今年はノーマン、うさぎさんにはならなくていいのかな?」
とろんと柔らかな笑みを浮かべたノーマンの目を覗き込みながら訊けば、
「きのこを入れるバスケットもいりますねえ。あといーすたのおいしょうです!」
更に柔らかな笑みを浮かべて、質問の答えが含まれないコメントを返してきました。これもいつものことですので、ショーンは気にすることなく頷きました。
イースターとは復活祭のことであり、冬で一つのシーズンの終わりを迎え、春になって新たなシーズンが復活することから、エッグのモチーフと多産を象徴する兎がシンボルとなっています。
なので、ノーマンにはうさぎの着ぐるみでも作ってやろうかとショーンは考えていたのです。
「しょおはなんのおいしょうですの」
「オレ?そうだなあ。お祭りがあるし、たまにはちゃんとした格好にしようか」
トップハットでも被ろうかね、とノーマンの煌めく目を見て言いました。
「おまつり?!」
「そう。ノーマンの大好きなラジオだったらもう宣伝で言っていないか?キングスタウンでイースター・フェスティバルをやるって」
「ひゃあ…・」
目をまん丸くしたノーマンの様子に、ショーンがくすくすと笑います。
ノーマンの知識は大概興味のあることだけを拾って、それだけを深めていきますので、単語の並びとして聞き逃されてしまったりしたらきっとノーマンの頭には定着しないのです。
それはちょっと問題だなあ、とショーンは考えますが、いまは素晴らしい家庭教師がノーマンについています。
「いってみたいか?」
「はい!!」
「じゃあきちんとお勉強をして。そうだなぁ…」
腕の中で飛び跳ねる勢いでノーマンが言いました。
「ぼく、ぼく、たうんにはいったことないですもの…!くまになる前はわかんないですけど!」
すっかりタウン生まれでショーンの幼馴染だったことなど忘れ去っているノーマンです。
「オレのものになってからは初めてだね、ノーマン」
にっこり、と笑ってショーンがノーマンの額にキスをしました。
「はい!」
大いに胸を張って返したノーマンに、にっこりとショーンが笑みを返します。
「じゃあ、イースター当日までにユミル師匠が勧めた本を一冊読み切ること――――哲学か、古代史か、魔術の導入本か、いっそ古典文学でもいいかもしれないね。それを1冊ちゃんと読んで、ユミル師匠の及第点をもらえたら、タウンにいこう」
「おまつり、おわっちゃいませんか?」
どきどきしながらノーマンが訊いてくるのに、ショーンが首を傾けました。
「お祭りまでは暫くあるからね。ダイジョウブ。それに間に合わせるようにちゃんと計画を立てて勉強をすればいいんだよ」
その間に、ショーンは森の奥から光茸を移植してき。その周りに宝石から作ったイースターエッグをちりばめて、ノーマンがエッグ・ハントに出られるようにあちらこちらに隠し。さらに、ノーマンのきちんとした衣装と、自分のキチンとした服を仕立てればよいのです。
「あ、しょお!」
いけない!と顔に大きく書いたノーマンが声を張り上げました。
「ウン?」
「おいしょうは?おいしょうはどういうのになるんですか?」
ショーンが作る服が気に入らなかったことなど一度もない割に、ノーマンはその辺りはとても心配症です。
「ぼくのすきなケープでおでかけでいいんですの?」
「真っ赤なケープはちょっと合わないかな」
くすりと笑ったショーンを見上げ、妄想もたくましく、一人暴走してノーマンが訊きます。
「しょおとおそろいですか!!」
「ペアルックじゃないけど、色味は揃えるよ」
ほわん、と笑みに表情を蕩けさせてノーマンが言いました。
「すてきですねぇ」
「まだ説明してないけどな」
「ききますよ、いまから」
「それはスポイルにならないのか。ノーマン?」
きゅう、と抱きついてきたノーマンにわざと意地悪をして訊けば、
「なんですか、それ」
「楽しみのわくわくが減らないか、ってこと」
きょとんと見上げてきたノーマンが、
「おかし?」
と首を傾けます。
「お菓子ではないよ。楽しみを奪ってしまわないか、と思って。どうせなら当日まで知らないほうが幸せなんじゃないかな、と思っただけだ」
「あのね、」
ほにゃん、と柔らかな口調でノーマンが言います。
「おしえていただいて、ぼくの想像するのとしょおのくださりのがどれだけ違うかわくわくするのも楽しいです」
「くださり、ではなく、くださるのが、ですよ、ノーマン」
「あら」
ふふ、と笑ったノーマンを抱きかかえ直し、ショーンが言いました。
「生成りのレースのシャツに紫のジャケット。中に金銀の糸で縫いとりを施したベストを着て。黒の膝少し下くらいの長さのズボンと、白のハイソックスに黒いヒールの靴はどうかな」
きらきらと煌めく双眸で見上げてきたノーマンが、うーん、と一瞬考え込んでから言いました。
「しぉ、ぼくはまっしろのブーツがほしいです」
「うん?ブーツ?」
「はい…!」
「んー、どうしようかなぁ」
「ほしいですよう」
にこお、と満面の笑顔を浮かべながらノーマンが言い募りつつ、額をショーンの肩に押し付けて甘えてきます。
くすくすと笑いながら、ショーンが言いました。
「では、そのリクエストは叶えてあげよう」
かぷん、とノーマンの耳朶を齧ってショーンが言いました。ひゃあ、と小さく飛び上がったノーマンが顔を上げました。
「ありがとうございます!」
「ウン」
頬を真っ赤に染めたノーマンの両手がショーンの頬を包み込み、うちゅ、と唇にキスを貰いました。
くすくすとショーンも笑って、かぷりとキスを返します。
「んん、」
とろん、と柔らかく雰囲気を蕩けさせたノーマンの身体を抱え直して、ショーンが書斎を出る扉を開きました。
「イースターに向けてたくさんしなくちゃいけないことがあるけど、それは全部明日からにしようか」
にっこりと笑ったショーンの首筋を、あぐあぐ、とノーマンが齧ります。
「しぉ?」
「うん?」
「だいすき」
甘え切った声と、柔らかな笑顔でそう告げられ、ショーンはふわりと微笑みました。
「オレもノーマンが大好きだよ。だから今日はもうオヤツにノーマンを食べてしまおうね」
「ごはんがいいですよぅ」
「フルコース?嬉しい事をいってくれるね」
くすくすと笑ったノーマンの耳朶を指で悪戯しつつ、ショーンは真っ直ぐに寝室へと向かいます。
そして、大きく扉を開いて到着したベッドルームの寝台にとさりとノーマンの身体を下ろして、ショーンが言いました。
「ついでに採寸もしようね。頭の先から爪先まで、全部測ろうか」
「くすぐったいのはだめですよ」
ほにゃ、と笑顔をノーマンが浮かべました。
「しぉのことかじりそうになりますもの」
「齧ればいい。優しくなら許すさ」
くすくすと笑いながら、ショーンがノーマンの服をさらりと脱がしにかかります。そして、全ての生地をノーマンから取り除いてから、ショーンが言いました。
「先に採寸を済ませてしまおうね」
ぱちん、と指を鳴らしたショーンの手の中には、革で出来たテープメジャーがあります。
かぷかぷ、と自分の指を齧って痛くない程度の噛み具合を測っていたノーマンがじっとショーンの手の方を見ながら言いました。
「でも、いままではかったことないですよ」
「それはノーマンが寝ていた時に測っていたから。でも今日は起きたまま測ってみようね」
「わあ」
目を煌めかせたノーマンに目を瞑っているようにショーンが告げ、そしてぱちりと指を鳴らしました。
魔法のテープメジャーが蛇にようにのたくりながらノーマンの身体に巻きついていきます。
「ひゃ…っ」
甘い声を上げてびくりと身体を跳ね上げたノーマンの感度の良さもついでに測りながら、ショーンがくすくすと笑いながら言いました。
「指先から頭の天辺まで全部測ってしまおうね。余すところなく、全部、ね」
今日も魔法の森の魔法使いは、恋人を美味しく頂いて大変ご機嫌に一日を終えられそうです。
「しぉ…っ、くすぐ…っ」
甘く蕩けた声にショーンが笑いました。
そして、きゅ、とテープが締め付ける度に甘い声を零すノーマンの肌に指先で触れて擽りながら、どんな“フルコース”にしようかと算段を始めたのでした。