ハロ
ウィー
ンの



きょうは、待ちに待ったはろうしんの日です。
結局、ノーマンはなぜかハロウィンと上手に言えないままに魔法のカレンダーが30日を差したときから、どきどきとして胸が苦しくなるほどでした。
『お病気かもしれないの』
と、そうショーンにまで聞くほどでした。
けれど、ノーマンの真剣な訴えは、ふは、と息を吹くようにして笑い出したショーンに『楽しみで興奮しているだけだよ』と教えてもらって、おでこにキスも落としてもらって。
『じゃあ、大丈夫ですね』
と漸く安心をしたのです。けれど、ずっとドキドキとしていて、お風呂のときは目眩がするほどでした。
特別な日の前だから、といつも念入りにシャンプーして爪先までノーマンはきれいにしますが、特に丁寧に時間をかけてきれいにしていたので、そのせいでもあったのかもしれません。
それから、はろうしんの準備もとても楽しかったのです。
見たこともないほど大きなカボチャに小刀で穴を開けてなるべく怖い顔を作ってみました。
『あら』
けれど、怖い顔、怖い顔、と思ってショーンの出してくれたお手本を真似て顔を刳り貫いていたはずなのに、目が三つもできてしまいました。
左手で、ノーマンが自分の唇のあたりを押さえます。
けれど、でこぼこの口許も、にかりと笑って意地悪そうな感じも、とてもよく出来ています。
そこで、ノーマンは隣で同じようにもう少し小さなカボチャの中身を全部魔法で取り出して、筆で書くようにさらさらとノーマンが最初にみたときはこわくて椅子から転げ落ちた顔を彫っているのを、呼びました。
『じゃくおーの目が増えちゃいました』
『いいんじゃないか?三つ目でも』
『そう?』
『一つ目のモンスターもいれば、三つ目だっているよ』
ほう、と安心して息を吐くと、ノーマンはにこりとしてショーンの方へ少し近付きました。
ショーンの手はぴたりと止まっています。きっとノーマンの来るのを待ってくれているのです。
『じゃあ目が三つ目のじゃっくおーは出来上がりました』
そういうと、としんとショーンの肩にぶつかるようにして身体をくっつけます。
お玄関にだしておきますか?と肩のほうからショーンの顔を覗き込みます。
『纏めて出すから、テーブルの上に積んでおいてくれればいいよ』
『はぁい』
ショーンがこつりと頭を軽くあわせてきてくれて、言いました。
『キリもいいところだし、お茶にしようか』
はぁい!と元気よく返事をしたノーマンは、そしてがんばって大きな三つ目のジャック・オ・ランタンを持ち上げようとしましたが、びくりともしません。
『むむむ……』
ノーマンは一生懸命です。
けれどお化けカボチャはぴくりともしません。
そうしたなら、ショーンが指を鳴らしたのと同時に、三つ目のジャック・オ・ランタンに手足がにょきにょきと生えて、ほかのカボチャが積み上げてあるテーブルに自分で歩いていきます。
『ひゃあ……』
ノーマンはキラキラと目を煌かせてその様子を見守ります。そして、三つ目カボチャがどしんと自分で仲間と一緒に座ったなら、今度はショーンを振り返りました。
『しょぉおん、いつもこのお城ははろうしんですねえ……!』
不思議がたくさんですよ、と笑ったのです。

それが、昨日の午後のことでした。
そして、柔らかで温かなお寝巻きに包って、いつものようにショーンにぴたりとくっついて眠ったのです。
ぎゅう、と抱っこされて、嬉しくてくすくすとノーマンはわらっていました。明日がたのしみですねえ、と言って。
そして、今日が待ちに待ったそのはろうしんの朝なのです。
いつもは眠いのですが、今日は特別にぱかりと目が開きます。
「……はろうしんです、」
そう呟いて、目をあげます。ばたばたとしそうな心臓を、きゅーっと手で押さえてみます。
「しょ―――」
そして、ぱち、と瞬きしてしまいました。まだ、ショーンは眠っているようです。
起こしてもいいのかしら、とノーマンは少し首を傾げました。とはいっても。ショーンに抱っこされているのでそれほど体の自由はききません。
「んんん、」
はろうしんのアイサツはなんていうのだったかしら、と確かに習ったことを思い出そうとします。
「あ」
思い出しました。
ふわあとノーマンが嬉しくてまたにこにことしてしまいます。
「しぉ、」
そうっと身体を伸ばすようにして、眼を瞑ったままのショーンの頬にそうっとキスをします。
「はっぴーはろうしん、」
ちゅ、と小さな音をたててキスをしてみました。
まちがってないよね?と頭のなかでもう一度確かめます。
「”おねぼうさんだなあ”しょおんは」
いつもショーンに言われていることを真似してみます。
なんだか、楽しくてうきうきしてきました。
じ、とショーンを見詰めます、けれどもとても眠いのか、いつもはすぐに起きてくれるショーンはすうすうと静かな寝息をたてています。
「うん?」
もう一度唇の横にキスをしてみても、眠っているようです。そして、どうしようかな、とノーマンが顔を少し上げたなら、素晴らしいものを見つけてしまいました。
はろうしんのお衣装が、夜には確かになかったのに、窓の側の衝立に掛けられています。

「あら…?!」
ノーマンの目がまんまるになりました。
そして、段々と顔中がキラキラの笑みに乗っ取られていきます。
「−−−−すっごい……!」
衝立に掛けれていたのは、明るいオレンジの毛皮でした。
ノーマンが「くま」だったころに着ていたのと似ていますが、もっと柔らかそうで、オレンジの毛先がキラキラとお月様の粉をかけたように光っています。
頭のところは、全部顔を隠すのではなくて、フードを被るようにお顔のところは刳り貫かれていているのです。でも、丸い素敵なお耳も、ふかふかの手にはお爪もついています。
しかも、ころん、としたお耳には―――
「あぁ…!ぴあすもついてる―――っ」
ひゃああ、とノーマンはうっかり歓声を上げてしまいました。ショオンと御そろいにしたいしたいと何度お願いしても、『まだダメ』と許してもらえていない、憧れのピアスが付いているのです。
「すてき!」
がば、と思わずノーマンが起き上がりました。けれど、すぐにショーンが眠ったままなことを思い出して、きゅ、と動きを止めます。
せっかく眠っているのに、急に起こしてしまったら、かわいそうです。
そろそろ、と視線をショーンに戻せば、まだすうすうと眠っているようで、ノーマンは安心しました。
けれど、もうどうにもがまんできずにお衣装の掛けてあるほうへ、ベッドを降りて裸足で歩いていきます。 直ぐ側まで寄って、オレンジ色の毛皮を撫でてみました。
さら、と柔らかくて本当の毛皮のようです。 そしてノーマンの指が毛足を撫でていくたびに、キラキラと光が零れておりました。 ノーマンがずっと着せられていた「くま」の毛皮も柔らかでしたけれど、もっと手触りが良いようです。
「あ、」
毛皮に、黒いピカピカの革のストラップが肩からかけられています。
「なにかな」
フックのようなものがついています。そして、ひょい、とノーマンが足元を見下ろして、オレンジ色のカボチャの籠を見つけました。
「あああ!」
嬉しくて、ぴょん、と跳ねてしまいます。
これはきっと、「とりっく・おあ・とりーと!」をするときにお菓子をいれる籠です。きちんと、フタの部分もかっちん、と音がして閉じるようにできています。これなら、もし森で転んでしまってもお菓子を零してしまわないから安心です。
そして、籠にはちょうどストラップについているようなフックがついていました。きっと、籠をこのフックに掛けるのです。
「すっごい」
ノーマンは、ベッドを振り返ってまだ眠っているショーンに、「どうもありがとう!」と小声でお礼を言いました。ショーンが起きてくれたら、もちろんもっと大きな声でお礼をいって、キスもたくさんしようと思いました。
けれど、もうノーマンは早くこの新しい「毛皮」を着てみたくて堪りません。 それに、この新しい毛皮を着て、ショーンを起こしてびっくりさせてみたいような気もしてきました。

「んんん」
ほんの少しの間考えて、ノーマンはお寝巻きのナイトシャツのボタンを外します。そしてナイトキャップをまずは脱ぎました。それを衝立に掛けて、すとんとナイトシャツを肩から落とします。
「ひゃあー」
どきどきとして、ノーマンは毛皮に手を伸ばします。
きっとこれもショーンが魔法で作ってくれたお衣装ですから、目には見えなくてもボタンがどこかにあるはずです。
「んーん」
目を瞑って、そろそろと毛皮の深くを探れば、小さな硬いものが指先にあたりました。
「あった」
それをぱちん、と外します。
ちょうど、咽喉の下のところあたりにありました。
お腹のあたりまで毛皮がさあ、と開いたのにノーマンがひゃあ、と笑います。
そして、うきうきと裸足をまずは脚の部分に突っ込みます。
「ふかふか!!」
柔らかくてふかふかで、そして大好きな毛皮と一緒でとても懐かしい感じです。
毛皮を腰辺りまで引き上げて、今度は腕を通します。
「おぉおー」
そして掌を目の前にもってきてびっくりです。
お爪は象牙色をしていますが、少しだけ緑の上薬がかかっているようです。 この色はノーマンは知っていました。
「夜になると光るやつですよ……!!」
ボールだとか、鳥のオモチャだとか。ショーンがくれる遊び道具でたまに同じ色のものがあって、それはみんな暗いところでピカピカと光るのです。
「すっごいすてきー」
感心してノーマンは呟きます、 そしていそいそと頭にフードも被りました。
そうっと右手で、左のお耳にくっついているピアスも触りました。
あとで、鏡でどんなピアスをつけてくれているのか、見ないとなあ、と思いながら咽喉の下で魔法のボタンをぱちりと留めました。
そうしたなら、すうっと開いていたお腹の部分がすぐにくっついて、もうどこにも切れ目はありません。
くるくる、とノーマンは衝立の前で回りました。
かりかり、とお爪が小さな音を立てるのも楽しくて、ふふふ、とノーマンが小さく笑います。
ひょい、と窓の外に目をやれば、もうお日様がキラキラとしている時間でした。

「起こしてあげなきゃ」
しょおん、とノーマンが新しい毛皮をしっかり着込んでベッドの方を見れば。
「あら?」
眠っていたはずのショーンは此方のほうを向いて、枕の上に肘をついて頭を支えておりました。
「起きたてたんですかー!いつから?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにしてノーマンはベッドに近付きます。
「あのね、ショオン!新しい毛皮とてもすてきです、ありがとう!!」
そう言って、ぎゅーっとショーンに抱きつきます。
「おうじさまのお衣装よりずっとずっとすてきです!」
「オマエならこっちのほうが断然似合うと思ったんだ。可愛いな」
する、とショーンの両腕が回されれるのを感じて、ふにゃ、とノーマンが笑います。
そうして、ベッドにそのまま引き上げてもらって額をくっつけようとしてなら、ちゅ、と唇にキスを落とされてもっと笑顔が甘く蕩けそうになります。
「似合ってますかー?よかった!」
ふふふ、とゴキゲンでノーマンはふかふかの毛皮にくるまれた体をショーンにぴったりと添わせます。
「手触りもいいなあ、ウン。この出来もパーフェクト」
さら、と耳の下あたりをなでられて、それからお尻尾のあたりをつるんと撫でられて、 「ひゃん」 ノーマンが小さく声を上げます。
「感度も抜群。でもそれはオレの手だから、それだけ感じるんだよ。フツウに転んでしりもちついても痛くはないはずだ」
そして、お尻尾を、くく、と手指で絞られてそのまま指が抜けていくのに、ぴるん、とお尻尾が震えてしまいます。
ただの着ぐるみではなくて、なんだか一緒に動いてしまうらしいのです。さすが、魔法の毛皮です。 はふ、とあつい息をノーマンが零しました。
「びくびくしちゃうからダメですー」
お尻尾触ったらいけません、と唇を尖らせてショーンを見上げますが、口調はどうしても甘えております。
「それに、ずくずくしちゃうからもっとダメです」
「じゃあまた後でね」
「しょおん、」
くすくす、と笑って魔法使いはオレンジ色のこぐまの唇にキスをしました。
「あのね、」
きゅう、とノーマンが両腕をショーンにしっかりと回します。
「ショォン、はっぴー・はろうしん!」
そう言うと、お砂糖のように甘い笑みを乗せておりました。