お
出掛け
は
ど
こ
?
シャンとアムが書かれた手紙を携えて帰った後、のんびりとノーマンと過ごし。翌朝もゆっくりと起きだし、お風呂と朝御飯を一緒にしてから、ショーンは仕事場に下りてきていました。
寝る時も、お風呂の時も、朝御飯の時もノーマンが持ち続けていた虹色綿菓子にショーンは片眉を跳ね上げ。
「綿菓子は一日一個。食べていいのはダイニング、リヴィング、そして庭。ほかはダメだよ。ちゃんとメリハリをつけようね」
そうノーマンにきっぱりと言って聞かせてあります。この世の終わりのような顔をしましたが、あんなものと一緒にベッドインなどと冗談ではありません。ペットやぬいぐるみでなくて、あれは食べ物ですので、持ち歩いていい場所と悪い場所はきっちりとわけるべきだというのがショーンの言い分です。
「きれいだから、みているだけならいいですか?」
「ダメ。そればっかり見ててもしょうがないでしょう?あれは食べ物だからね、ノーマン」
なおもノーマンが食い下がります。
「でも、あんなにきれいですし、いつだって色も違いますし、」
「食べる時にじっくり眺めて食べなさい」
「食べないときは溶けないですし、べたべたにもなりません」
「それでも、あれはお菓子でしょう?眺めるものではなくて、食べる物。だから、食べる時にしかるべき場所でお食べなさい」
それとも別のところでたべる…?とノーマンの腰をつるりと撫でてみせます。
「どこですか?」
目をまん丸くしたノーマンに、くすくすとショーンが笑います。
「お屋根?バルコニー?」
「お茶してる時ならバルコニーもいいよ。でもほかの部屋はダメ」
全然意味を汲み取らないノーマンの様子に、ショーンは苦笑が止まりません。
「でもオレが言ってたのは、ノーマンが前にハチミツを食べたトコロだけどね?」
ちょん、とノーマンの頬をつついて、ショーンが立ち上がりました。
「じゃあお昼まで下にいるから。綿菓子もほどほどにしておきなさい」
思い当たって、あ、と口を大きく開いていたノーマンににっこりとショーンが笑いかけました。
「ランチに綿菓子はいらないからね」
こまります、とプチプチとつぶやいていたノーマンの頬にチュ、と口付け、その柔らかな甘い茶色の髪を掻き混ぜました。
「それじゃあまた後で」
真っ赤な顔をしたままのノーマンを置いて仕事場に入れば、仕事場の壁にかけてある鏡の表面にスカード・ウルフの紋章が映しだされました。
片眉を跳ね上げ、ショーンが即座に指を鳴らして鏡に視線を向けます。するとぽわん、と見慣れた人物の顔が浮かびました。彫りの深い面立ちを縁取る黒髪は撫で付けられ、背後に流されています。冷酷な印象を与える灰色の双眸は知的な色を湛えていて、ショーンが僅かに首を傾げました。
「師匠?どうされました?」
『ああ、重大なことはなにも起きていない。ただ、素晴らしい手紙をいただいたからな』
「ああ、ノーマンの」
それで合点がいきました。サンベリック師匠は仕事の話ではなく、ノーマンが書いた手紙に着いてコメントをしたくて連絡してきているのです。
「なにか気になる点でもありましたか?」
『字がかなり上達したな。そろそろ王家付きの祐筆を越えたんじゃないか』
「マジですか」
『そうだとも。言い回しもクラシックで好まれると思うぞ』
仕えに出してみるか?と訊かれ、冗談じゃありません、とショーンが口を尖らせました。
「どんな連中に目をつけられるか解ったもんじゃありません。ただでさえノーマンはかわいいんですから」
『ははは、それにオレを王位につけようとする子だからな。危険か』
シャンが満面の笑みで報告してきたぞ、と師匠が言います。
「ええ。本当に、師匠に心酔していますよ。ベッドや風呂にまで持って入りたがる。どうしてくれるんです?」
『そんなに気に入ってもらえたか』
滅多に感情を表さないサリンベック師匠が、にっこりと笑って笑顔になっています。
そんな師匠に向かって、はー、とショーンは溜息を吐き出しました。
「どれだけすごい魔法技術を注ぎ込んだんです?普通、縦に色の出るルーレット式着色綿菓子なんて作れないですよ?」
『それは弟子のオマエにも言えんな』
にぃ、とサリンベック師匠が口端を吊り上げました。
「魔法の粉は星の粉ですよね?」
『一部はな。あれに魔法をかけておくんだ。色の』
「じゃああの涼やかな音が出るのはなんです?」
いい音だろう?と師匠が笑い、ショーンが肩を竦めました。
「あれは星を崩すときの音ですが、通常ならあんな風に澄んだ音がメロディを奏でることはないですよね」
『おや、有能な弟子もまだ判らないとみた。ならもう少し頭を悩ませなさい。謎があるほうが面白いだろう?』
にやりと笑った師匠に、ショーンが首を横に降りました。
「ええ、オレもまだまだです。自覚しています」
『ならいい。分解してかわいい子を泣かせるなよ』
「しませんってそんなこと!」
ふふん、と得意げに笑う師匠に、ショーンが溜息を吐きました。
「そんな恐ろしいこと、するわけないでしょうが」
『言ってみただけだ』
しれっとした師匠の膝に、とすん、と赤毛の若い男がどこからともなく落ちてきました。師匠は僅かに片眉を引き上げましたが、口端は笑みの形に釣り上ったままです。
『やーほぅ、ペンドラちゃん』
ひらひら、と手を閃かせたシャンに、ショーンが眉を顰めます。
「ペンドラ言うな」
『いやー、オマエのところおっもしろいのなー!メシ美味いし』
シャンの首からてれんと垂れていた蛇のアムがしゅる、と舌を伸ばし、次いでシャンの上でぽん、と人型に戻ります。そして耳触りの良い柔らかな声でぼそりと言いました。
『ペンドラー、またお茶』
『アムも気に入ったんだよなー』
こく、と頷いたアムをぎゅうっと抱き寄せ、にかっとシャンが笑いました。
『くますけちゃんと一緒にお茶できて楽しかったよなー。不思議くますけ』
くすくすとシャンが笑います。
するとアムがシャンの耳元に唇を寄せて、なにかを呟きました。ふは、とシャンが笑ってショーンに視線を投げやります。
『今度は人型でも面白いかもってさ』
目をきらきらと輝かせているアムの頭をシャンが撫でます。二人を膝の上に乗せたままそれを気にもしていない師匠がくくっと笑いました。
『アムが珍しいことを言うな』
「ノーマンは魔法に耐性ありますが、使えませんよ?」
『チビは可笑しい』
にーっと口端を吊り上げて笑ったアムに、シャンがぎゅうっと腕を回します。
『動いているだけで面白い』
そうアムがシャンに甘えるように言い、するりとまた蛇に戻ってシャンの首に絡まりました。
『つうわけで、次遊びに行くときはそのつもりでいてくれなー!ルーシーちゃんによろしく!』
チャシャ猫のようににかりと笑って、ぽん、とシャンの姿がアムごと消えました。後に残るのは、どこか笑っているような師匠だけです。
『迷惑でなければ、そういうことで頼む』
「…あんまりノーマンには他の魔と交わって欲しくはないんですけどね。ルーのこともありますが」
『そのあたりはきちんと制約をかけておくよ。シャンの魔力もフルでは出ないようにしておく』
「ええ、それなら大丈夫です」
張り切ってご馳走を作りにかかるノーマンの姿を想像し、ショーンがにっこりと笑いました。
普段は城に客人を迎えたくない主義のショーンではありますが、たまには他人と触れ合うこともノーマンには必要なことという認識はあるにはあるのです。この場合他人は人型ではあっても人外なので多少変則的ではありますが、自分とは違う意思を持った存在という意味では良いトレーニングになるでしょう。
「事前にご連絡いただければ有り難いです」
『心がけよう』
どうやら、シャンがアムと連れ立ってこの城にご飯を食べにくるのも、そんなに遠い話のことではなさそうです。
「師匠もいらっしゃいますか?」
『予定が合えばな』
「わかりました」
手土産を考えておくよ、と笑った師匠にショーンが苦笑し。それから、いくつか魔法に関連した仕事の話を済ませてから通話を終えました。
単独で行動を許される魔というのは、この世界広しといえどサンベリック師匠のところだけでしょう。むしろ、師匠があんな風に気を許しているのを見るのは不思議な気がします。
まあでも、ひとはひと、自分は自分です。ショーンとルーシーの間の契約のほうが特殊なものなのでそんな差が出るのかもしれません。
暫く仕事に没頭して、ふと気づけばお昼の時間になっていました。ノーマンがドアを叩き出す前に仕事場を後にします。
今日はもう、お仕事は十分です。あとはノーマンを連れていく星狩りと、その後に行く旅行の予定を立ててしまうだけです。
台所から出てきたノーマンがひょこっと廊下に顔をのぞかせ、その場でぴょんぴょんと跳ね上がりました。
「しぉ…!きょうははやいんですねえ!」
ぴょいん、と抱きついてきたノーマンを腕に抱き上げ、ショーンがにっこりと笑いました。
「うん。今度はノーマンとやることがいっぱいあるからね。でもまずは昼を食べようね」
「おしたくがね、できたところで呼びにいこうとおもってたんですよ、ぼく」
ふにゃりと柔らかで甘い笑みを浮かべたノーマンの頬にキスをして、ショーンが言いました。
「オレはノーマンにキスしたくなったかな。ちょっとノーマン不足」
くすくすと笑って、鼻先をノーマンのそれに擦り付けました。一層柔らかな笑みを浮かべたノーマンの顔を覗き込んで、ショーンが言いました。
「お昼ならアピタイザがあってもいいよね」
そして、柔らかくノーマンの唇を唇で塞いで、昼からというには随分と濃厚なキスを堪能したのでした。
焼き立てのパンにパテとサラダ、冷たいアスパラガスのスープに冷製鶏肉ローストと、アボガドとトマトのムースで大変美味しいランチを二人でのんびりと頂き。片付けを終えてからバルコニーに移動しました。
レモンジンジャースカッシュをピッチャーでいれて、ノーマンは大事に虹色綿菓子を持って、布張りの籐のブランコにゆったりと腰掛けます。
隣に座り、こてりとショーンに身体を預けたノーマンの頭にキスをしてから、ぱちん、と指を鳴らしました。どこからともなく大きな師匠と三つ首の子犬が降ってきて、ぽとん、とバルコニーに据えられたクッションの上に落ちました。
「さて、お星様狩りのプランを立てようか」
何がおこった?と目を真ん丸くしているユミル師匠とイーニィ、ミーニィ、マイニーとモーをさくっと無視して、にこにことしながら綿菓子にかぶりついているノーマンと視線を合わせます。
「星降りの夜に合わせて、昼過ぎに出発しよう。で、星を捕まえて、カブに持って帰らせて、そのまま国境までいく。距離があるから飛んでいくかな」
「みんないっしょですか!」
目を煌めかせているノーマンに、おや?とショーンが目を細めます。
「家族だろう?」
ノーマンとその他では扱いに雲泥の差があっても、この大魔法使いの頭の中では三つ首ケルベロスと古の狼神ユミルはちゃんと家族認定が出されているようです。
「おししょうはおっきいまんま?イー二ィたちはぼく、抱っこできますけど、おおきいししょうはちょっと抱っこできないかもしれないですよ」
「行った先で大きく戻ってもらうさ。移動中は不可。邪魔臭い」
のそりと動いたユミルが、ぱしっとノーマンの後頭部を尻尾で叩きました。くすくすとショーンが笑い、ノーマンが片手で頭を抑えます。
「イーニィミーニィマイニーモー、いざ落っこちた時の為に、オマエらの背中にもグライディング用の羽を生やしておく。いざとなったら勝手にランディングして走ってこい」
マジですか、と目をまん丸くする三つ首をよそに、くうっとノーマンが胸を張りました。
「だいじょうぶですよ、ぼくがしっかり抱っこしてますもの」
「その調子でガンバレ」
さらっと告げたショーンの言葉に、うひー、マジかもしれない…、本気でやる気だよこの恐ろしい魔法使い…、と微かに三つ首の尻尾が股の間に近づきます。そんな三つ首の頭を、ノーマンがよしよしと撫でます。
「なんにもしんぱいいらないですからね!」
「さてそれはどうかな。当日のノーマン次第だね」
くすくすとショーンが笑います。実は結構いじわるな魔法使いなのです。
「国境についたら、あちこち回って結界の補強をしなきゃいけないけど。ノーマンは何をしたい?ただの野原だけどね」
ぱぁあっとノーマンの目がきらめきます。
「もちろん、こっきょうを見ます…!」
「いや、だからね。国境は目に見える状態にはないよ?分かりやすく壁とか作ってないよ、ノーマン?」
「だっておおきなおおきな壁がたってたり、樹が生えてたりするんでしょう?」
「しませんって。…まあ、行かないと判らないかな」
国境の“壁”は魔法で出来ているので、身体をすり抜けようとさせたらそこに分厚いエネルギーの壁が出来上がって通れなくなるというものなので、実際に目にすることはできないのです。が、それをノーマンに説明しても恐らく理解はしないでしょう。
なにしろヒトと使い魔を通さないための壁であって、動物や精霊などは自由に行き来できるのですから。
「ぼく、ご本で見たみたいな大きな城壁があるのかと思ってたんですけど、そうなんですか」
ないんですか、としょんぼりしているノーマンに、ショーンが頷きます。
「でも、でもじゃあひろいひろい野原があるんですか……?」
は、と気づいた風なノーマンに、そうだよ、とショーンが笑顔で返します。
「ところどころ木がぽつぽつと生えてるけどね。およそ野原」
「すてき…!」
ぎゅう、とノーマンがショーンに抱きつきます。
「ずっとずっと果てがないくらいおおきい野原ですか?お山とか崖とかなんにもなくて、広いだけで、お花がいっぱい咲いていて、たくさんお散歩ができすますねえ !」
「山は遠くだね。そもそもが標高が高いところにあるしね」
「みんなに葉っぱの王冠とか草冠とか作ってあげてそれを被って遊んだりできますよ…!イー二ィたちはまっくろですから赤いお花がかわいいですよね、しぉ…!」
それってでもウチでもできる事だけどね、と喉まででかかりますがショーンは口にしません。妄想大暴走真っ只中の、頭がフル回転して興奮しているノーマンがなによりかわいいのですから。
「しぉには緑の葉っぱとつる草と、あとええと、」
「うん、そういう細かいことは向こう行ってから決めればいいよ。テントを持っていて、あっちで野宿しようか」
そう告げたショーンの言葉にこっくりと頷き、ノーマンが暴走をさらに加速します。
「ああ、ぼく、宝石ももっていきますから編み込みましょう!それと、あとね、お星さま釣りにはぼく、らじおできいたんですけど、ランタンをね、つくろうとおもうんです!」
「ランタン」
ぎゅうぎゅう、と抱きついてきながらノーマンが先程のしょんぼりなどどこへやら、な勢いで言い募ります。
「明かりをともして、お空に飛ばすんですよ…!」
「えっと、星降る夜に花火とランタン…?」
やりすぎじゃね?と暗に告げてみますが、うっとりと妄想を続けるノーマンがとろりとした笑顔で言いました。
「夢みたいにきれいでしょうねえ、」
きゅう、と抱きついてきたノーマンの頭にキスをして、ショーンが笑いました。
「じゃあノーマンは明日からランタンづくりをがんばらないとね」
はい、と蕩ける笑顔のノーマンに、ショーンがくすっと笑いました。
「それじゃあ、予定はそんなカンジで。帰りのことは帰りに考えよう。ああ、だから、星狩りに行く前に着たい服とか選んでおいてね」
「白い毛皮じゃないんですか?」
きょとん、として見上げてきたノーマンに、ショーンが目をぱちくりとします。
「それは星狩りに着るものでしょう?国境に行ってもそのままでいいの?」
「おでかけのときみたいなお洋服とかですかしら」
「ああいうのが着たければ?他の毛皮でもいいし、いつも着ているようなものでもいいよ」
それは考えておいてね、とショーンがノーマンを立たせます。
「ぼくね、」
ノーマンがまっすぐにショーンを見上げます。
「しぉとおそろいがいいです」
「つまらなくない?」
そうショーンがノーマンの目を覗き込めば、にこにこと笑いながらノーマンがいいます。
「マントってぼくきたことないんですもの」
「ふゥん?」
「しぉんが街にお仕事の時に肩からひらひらってするの、ぼく好きです」
「マントか。それって毛皮の上に羽織るの?」
そう思わず聞いてしまうショーンです。
きゅ、と首をかしげたノーマンが聞き返します。
「しぉも毛皮を着てくださるんですか?」
ぱぁっと目を煌めかせたノーマンに、くすっとショーンが笑います。
「ああいう可愛いのはノーマンだけでいいよ。オレはちょっと趣味じゃない。ノーマンが着ている姿はすっごく可愛いけどね」
で、とショーンが指を鳴らします。すると、どこからともなく、ばさりと白い塊が落ちてきました。
「そのかわいいノーマンの試着」
「あ!」
「着てみて、どこか不具合があったら言って」
さらん、としろくまの着ぐるみを両手で広げてみせます。
「しぉ、ぼくの白いあたらしい毛皮、もうできたんですか?」
「そうそう。大体はね」
「着ます!」
急いで革のショートブーツを脱いで、茶色の七分丈のズボンと白いシャツをするりと脱ぎ捨てます。そして、ショーンの腕に引っ掛かっていた毛皮を拾い上げ、まじまじと目鼻のついたフードを見ます。
「不思議なお顔ですねえ」
にこにこと見上げてくるノーマンに、ショーンがくすっと笑います。
「着ればまた印象が変わると思うよ」
「ほんとのこぐまみたいに見えますかしら」
「着てみればわかるね」
「眼の色もとってもきれいです」
にこおっと笑ったノーマンが、いそいそと毛皮を着込みます。
「しぉとおそろいのピアスはお出かけのときまでのおたのしみなんですものね」
「そう。あっちはまだ負わってないからね」
着終わって、くるっとその場でノーマンが回ります。
「ひゃあ…ふかんふかんです…っ!」
大喜びでノーマンが訊きます。
「どうですかどうですか、しょお…!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるノーマンが、嬉しそうに言います。
「ぼくはみえますけど、しぉはぼくの目、みえてますか?お口だけー?」
ま深いフードなので、当然ノーマンの目元から鼻先までは毛皮に縫い付けられたそれです。
「ノーマンの可愛いお口とほくろだけ見えるね」
ひょい、とノーマンの顎を捉えて、ぺろりと口元を舌で舐め上げます。
「すごくかわいいよ、ノーマン」
ひゃあ、と笑ったノーマンの身体を抱き上げ、膝の上に前向きに跨らせます。
「苦しいところはない?手の動きは自由?」
「はい!」
ぎゅう、と抱きついて脚をぱたぱたさせるノーマンの背中をさらりと撫で下ろします。
「ふかふかでやわらかくてでもすずしくてとっても気持ちいいです、しぉも着てみたらいいのに」
はぷ、とフードを下ろし、ピンクの頬をして見上げてきたノーマンにショーンが言います。
「花火もあるから、フードは星狩りの間ずっと被っておくんだよ?」
「はい」
にこお、と笑顔で返事をしたノーマンが言います。
「でも、ランタンはっしゃのときは取っていい?」
「発射?…ああ、まあ花火が終わってたらいいでしょう」
なんだ花火と同時にやりたいわけじゃないのか、とショーンがそれで納得します。ということは、イベント的には第一部と第二部に別れていると思ってもよいでしょう。
はぁい、とするすると懐きながら返事をしたノーマンの背中をなでなでとします。
「毛皮、つるつるしてますね」
「最高級の毛皮だからね。汚れ防止だから坂を転がり落ちても平気だよ」
ちょん、とノーマンの毛皮の鼻先に鼻を押し当てます。
「転びませんよぅ」
そうふにゃりと笑ったノーマンに、くすくすとショーンが笑います。
「そう?あそこ、傾斜があるでしょう?転がり落ちてみたくはならない?」
にこにことショーンが笑います。
「滑りっこ?ぼく、得意ですよ!競争しましょうか!」
「オレはいいから、イーニィたちとユミル師匠と愉しめばいい」
「流れ星もいっしょに転がしましょう!すてき!」
「んん?ノーマン、メインは星を取ることだって覚えているよね?」
変な方向に妄想を膨らませているノーマンを牽制すれば、
「もちろんですよ。でもね、たくさんたのしいこともいっしょにしたいですもの」
しぉとたくさん、と告げられ、ショーンがますます口端を吊り上げて笑います。
「そうだね。ノーマンとはいつまでも楽しいことをいっしょにやりたいもんね」
すい、とフードを片手で下ろさせ、現れたノーマンの額にちゅっとくちづけます。
「とろとろに溶かして食べちゃったりとかもね?」
ますます柔らかく蕩けた笑顔を浮かべたノーマンの耳朶を指で擽り、柔らかく開いた唇の間を舌で辿ります。
「おかし?」
「オレにとってはね」
はむ、と唇を食んでから、柔らかく舌先を口中に潜り込ませて絡ませます。
そうだ、このまま今日はここで喰っちまてもいいよな、と思い当たり、ふわりとショーンが笑います。あの戦闘でひどい目にあったあの日、遣り損ねたことをやるいい機会です。
「しぉもあまいですよ」
ちゅ、と甘くショーンの唇を吸い上げたノーマンの着ぐるみのジッパーに手をかけて、ショーンが目を細めました。
「じゃあ、どっちがより甘いか味見っこだね、ノーマン。気持ちよくなって、いっぱい甘い蜜をこぼしてね…?」