議な




う。



「あのねえ、しぉ?」
こっきょうのだいぼうけんへ持っていくお荷物の、虹色綿菓子とランタンとクッションとシートとおやつと飲み物とそれからなにより忘れてはいけない二対の大きな羽根扇をショオンにいわれた場所にまとめておいていきながらノーマンがおくびを傾げました。
「ん?」
「あのね、ぼく、思いついたんですけど、あの紙のぺがさすやらいおんや馬車は、額にするよりも絵本にして、それでどこへでも持ち歩いてしょおんにお願いできるときはまた乗れたり狩りができればすてきだとおもうんですけど、どうでしょうかしら」
とてもまじめなお顔でノーマンが言いました。
「あの、どうでしょうかしら」
くりかえしています。
ショオンはこっきょうでのお仕事のお支度をしているようですが、くるんとノーマンに振り向いてくれました。
「狩りは広い場所がないと駄目。森じゃチャリオットは走れないだろ?」
だからここに来たときくらいな、と続けたショオンにノーマンがもっとおくびを傾げました。
「あのね、春部屋がありますよ、あのお部屋はとっても大きいです、はらっぱですし」
「あそこにじゃあ住ませとけばいいんじゃないか?好きなときに遊べばいい」
「らいおんさんを放してもいいんですか!!」
ぱあああっとノーマンの表情が華やぎます。
「まあ1匹くらいならいいんじゃないか?その代わり、矢があたった時はその日一日おやすみ、てことにして」
「ほんとう!!!」
嬉しくなってしまってノーマンがぴょんぴょんと飛び跳ねます。
「ほんとう!!うれしいです、しぉおん、とってもうれしいです!」
ショオンのまわりを飛び跳ねてくるくる回るほど大喜びをしています。ショオンがさらりとそんなノーマンの頭を撫でていきます。
あ!とノーマンが思い出します。
「お支度、できましたよ。こっきょうはどれくらいのところにあるんですか」
「ん?少し遠く」
ショオンがぱちんと指を鳴らすと、まとめておいたお荷物の山は掻き消えて、あとには何も残っておりません。見慣れた光景なのですが、ノーマンはやはり驚いてしまいます。
そうしたらにっこりと微笑んだショオンがまた指を鳴らします。ノーマンの書類挟みの中から、チャリオットを引いていた真ん中のひときわおおきなペガサスが姿を現し、ノーマンが歓声を上げます。しかも、ペガサスにはまっしろの鞍が乗っています。
お勉強でたくさん読んだ、昔の写本の挿絵にあったお馬のようでノーマンが夢中で見つめます。
「どうせなら活躍してもらわないとな」
そうショオンが言いました。
それでは、ノーマンはこっきょうまで、あのペガサスに乗っていけるのです。
「きれいなお道具ですねえ」
馬具一式に感心してノーマンがつぶやいている間に、ひょいっと抱えられてもう鞍の上にノーマンはおりました。そして三つ首の子犬もショオンが抱き上げてノーマンの腕の中に落としてくれましたので、お膝の上にしっかりと抱えます。
「あの、しぉ、」
ノーマンが全部言い切らない内に、ぱあっとノーマンがいつも首から下げているネックレスがひかって、大きな姿に戻っていたおししょうがその中に戻っていきます。これで、おししょうとはまたこっきょうに着いてからいっしょに遊べます。
「ありがとうございます」
ふにゃりと笑えば、ショオンがほっぺたとおでこにキスを落としてくれます。実はこれはペガサスからノーマンがおっこちないように魔法をかけたのですが、いつものようにノーマンは気づきません。
「すこしとおくってどれくらいですか」
うきうきとノーマンが聞いて、ふわりと空に浮いたショオンの後を追いかけます。
「のんびり空中散歩をたのしめるかな」
ショオンが笑いながら言うのに、もうすっかり馬のあしらいをマスターしたノーマンが大自慢でお返事します。
「きっと王宮の人たちより上手ですよ」
きらっとショオンの大きな翼がお日様に光って、ノーマンはまたふふ、と笑います。
「ぱかぱかいわないのが不思議ですけど」
「そうだね」
ショオンに同意してもらって、「はい!」とノーマンが元気にお返事しました。こっきょうに向かってお空を自由に滑っていくのはノーマンは大好きなのです。ショオンに抱っこしてもらっているのもステキですが、こうしてペガサスにのって自由にお空を駆けるのは初めてです。
ゆったりとペガサスが歩みを緩めたなら、待っていてね、という風にショオンが手で示してこっきょうに向かっていくようなのです。
ノーマンも目をいっしょうけんめいこらしますが、透明なこっきょうはまるきり見えません。
けれど、透明なこっきょうにむかってショオンが腕をまっすぐに差し出せば、触れた先からまばゆい光が生まれてきます。
「わあ」
絵本でみたオーロラのように、透明だった壁が光の壁に変っていきます。
こっきょうから生まれた光がひろがっていって、ショオンもその光をうけ金色の髪が風をうけたように拡がっていきます。新しいピアスが煌めいてさあああっと一層ショオンの髪が風を受けてたなびいて、それからすうっと肩の上まで風に押されるように戻ります。
壁から手を離しても、まだオーロラは消えていきません。
どこまでもどこまでも、お空とお山と草原の間を光の壁で区切っていきます。
我慢できなくなってノーマンもオーロラに近づいて掌を押し付けてみました。お城で壁にぶつかったときのように、硬いゼリーのような感触が伝わっていて、いくつもの小さい手に押し返されたような感覚がします。
ぐうっともう少し力をいれてみれば、オーロラのなかにほんの少しノーマンの掌が埋もれて、けれどもすぐにぼん、と跳ね返されてしまいます。
これが、魔法のこっきょうなのですね、とノーマンがお勉強します。
観察してる間にも、オーロラの色はどんどん透明に薄まっていって、いまにももう消えてしまいそうです。
もうぜんぶの色が消えてしまう寸前で、風にのって金色の粉が壁全体をさあああっと覆って、すぐに霧散していくのにノーマンが目をみひらきます。
そしてすぐにショオンを振り返れば、笑みを浮かべたショオンがゆったりとお空に浮かんでおりました。
「しぉ…!」
感動でいっぱいのノーマンがすぐにショオンのそばにペガサスを向かわせます。
「おしごと、もう終わったんですね?こっきょうって、とってもとってもおおきくてきれいでふしぎなんですねえ」
ずうっと世界の果てまで続いていく石壁や城塞や塔を想像していたので、なにもないときいてすこしだけ残念だったノーマンですが、いまはこの「おーろらこっきょう」がどの世界のこっきょうよりもすばらしいものに違いないと思っているのです。
「まだ数カ所、回って同じ事をするよ」
「そうなんですね!じゃあこんどはもっとちかくで見ていていいですか!」
「集中力が必要だから、少しは離れててね」
「どれくらい?これくらいですか?」
首を傾げてノーマンがてのひらとてのひらを向き合わせて肩の幅分ほど離します。
「腕が当たらないくらいで頼むよ」
笑っていったショオンに、ノーマンもにっこりして返しました。
「りょうかいですよ。こっきょうのおしごとはたのしいですねえ、ここでしぉがたくさんたくさんたたかっていたなんて、うそみたいです」
きゅううっとショオンの腕を握って、ノーマンがつぶやきます。
そして、ショオンのお仕事姿とオーロラこっきょうと、魔法の発動をじっくりとたくさん見ることができて、たいそう上機嫌だったのです。