虹
色。
おっこちてこないお星さまをノーマンはじっと見つめました。
お城でショオンの戻りを焦がれてまっくろのお空をみていたときと同じほど熱心に、今はけれどうきうきとたのしくてお歌をうたいたくなるような気分で見ていたのです。
手には虹色綿菓子をしっかりと握って、もう片手はショオンの腕にぎゅうぎゅうと巻きつけております。
白金のように光るお星さまと黄色に光るお星さまと、お月様のようにオレンジに光るお星さまがお空には散らばっていて、そのことが不思議で仕方なかったのです。
お空の端の方はもう暗くなってきていて、ランタンはノーマンが数えるほどしか残っていません。それに残りのランタンもこっきょうに向かって流れるように風に乗っておりましたから、きっともうすぐ消えてしまいます。
魔法が魔法に溶け込んでいく様子は、とてもきれいでノーマンはたいそう気に入りました。
またこっきょうにきたときはぜひもう一度見たいことをショオンにお願いしたなら、にっこりとわらってショオンは約束してくれましたので、ノーマンは安心して、落ち着いて最後のランタンがこっきょうに光って溶けていくのを見ていたのです。
「おっこちないですねえ」
虹色綿菓子をぽふりとひとくちかじって、ノーマンがお星さまからショオンへ目を戻しました。
「ひとつくらい、降るかとおもったんですけど」
不思議ですねえ、とノーマンが言います。
お城のお庭でみていても、お空にはたいてい、一つか二つ、流れ星が現れるからです。
「星降りの夜が特別なんだ。あとは滅多に落ちないよ」
ショオンが機嫌よく小さく笑い声をあげるのに、ノーマンがとろんと目元を蕩かせました。
「じゃあ、森やお城でお星さまがおっこちるのは特別あとらくそんなんですね」
妖精さんたちが大盤振る舞いでみせてくれてるいるのかしら、とノーマンが思いついて一人で納得します。
「アトラクション?」
「あとらくそん」
んん?とノーマンが首を傾げます。ショオンの言ったとおりに繰り返しているつもりですが、ぱふんとまた綿菓子を食べているのでうまくいかないようです。
「まあそう言えなくもないかもしれない」
可笑しそうにショオンが青い目をきらめかせるので、ノーマンがじっとショオンの目を見つめました。
「――――――あ」
ぱあっとノーマンが笑みを浮かべます。
「しぉ…!」
「ん?」
ショオンの指が髪を梳いていってくれるのにノーマンが目を細めました。
「お星さま、なかにありますねえ…!」
そういって、ショオンの目をますます覗き込むようにしてお砂糖より甘い笑みをとろっと浮かべます。
「お空のがうつって、うんときれいにきらきらしてます」
すごいですねえ、これもまほうなんですかしら、と感心します。そして、ますますおでこがくっつくほど間近で覗き込むのです。
「ぼく、はじめて見たかも知れませんよ。しぉのお目目はぼく大好きですからいつもいつもたくさん見てますのに」
不思議できれいですねえ、といっそううっとりとつぶやきます。
「なにが?」
「あのね、お星さまです」
あぁ、とまた思いついて大事に綿菓子を持ち直すとぎゅうっとショオンに両腕で抱き着きます。
「目に映り込んだ星のことか?」
「これは、しょおんがとくべつなだいまほうつかいだからかもしれませんねえ、猫の王様のお目目にもきらきらがいっぱい入っていましたけれど、しょおんの目の中にはええと、ええと…うちゅうがあります」
不思議辞書で調べた言葉を思いだして使います。
「とっても不思議でたいそうきれいなものです。ぼく、いままで知りませんでしたよ、こっきょうって不思議なところですねえ、しらないものも見えなかったものも、見えるんですね」
ぱち、と瞬いたショオンがそれでも、くすりと笑います。
「明るさが違うからかなぁ」
「あの、しぉ…?」
するりと額を押し合わせてノーマンがそうっと言いました。
「なにかな、ノーマン」
ショオンの指がほっぺたをくすぐってくれるので、小さく笑います。
「ぼくの目にはお星さまはいってませんか?」
まほうは使えないからないですかしら、と続けます。
「いつだってノーマンの目の中にはきらきらの星があるよ」
「ほんとう?じゃあ。おそろいですね、よかった」
ふにゃりと笑って、ノーマンがぎゅうっとショオンに抱き着きました。
「ぼくね、おそろいって好きなんですよ。しょおんのきらきらをじゃあ移してもらってもっと大変ですねえ!」
ちゅーっとショオンの唇にキスをしてノーマンがほんとうにうれしそうに言います。
くすくすと笑ったままで、いつもあまいようなハッカ飴のようなお味のするショオンの唇を軽くかじります。うっすらとベリィの香りもしますから、これは綿菓子を食べていたノーマンのお味がすこし移ったのかもしれません。
真新しい魔法使いのピアスも光を弾いて、とてもきれいです。宝石にもおハナの先ですこし触れるほど、ショオンの首元に顔を埋めて嬉しくなってしまってノーマンは腕に力をぎゅうっとこめました。
そうしたら、ショオンの笑い声が聞こえて、お耳の後ろ側をくすぐってくる指先にノーマンが笑い声を押し殺します。
「ひゃ、」
それでも我慢しきれなくて、お顔をあげてノーマンが息を呑みこむようにして笑います。ショオンの舌先が唇を濡らしていくのにノーマンが小さく震えました。
「んんー」
にこにことしてもっとキスを強請ります。お耳をもっとくすぐられてしまって、「っひゃ、」と声が跳ね上がりますが、ノーマンはとろとろに笑みを浮かべたままです。
「しぉ、」
ちゅっとノーマンからキスをします。こんどはイチゴとクリームのお味がしました。ふわりと自然に唇がほころびます。
いつのまにか、ショオンが虹色綿菓子をクッションから離れたところにおいてくれていたことに、ノーマンが瞬きします。でも、すぐに唇の間を濡らして滑り込むようにショオンの舌先が触れてくることにうっとりとなります。
ショオンの柔らかなシャツの背中をしっかりと握って、頭がくらくらとするのを乗り越えようとノーマンががんばります。いつだって、ぐらん、と頭がしてしまって手足が熱くなってしまってきちんとお話ができなくなってしまうのです。
身体をいっそう押し付けてショオンのお膝にノーマンが乗りあがるようにします。まつげがくっつくほどに身体を寄せて、しあわせでいっぱいになります。
「んんん、」
しぉおん、といったつもりです。
は、と息が上がってしまってくるしいほどです。
さっきまで、お背中には風があたっていましたが、くるんと上下がひっくり返ってしまって、クッションのたくさん置かれた真ん中にノーマンが埋まってしまいます。
ふかりと草原に埋もれたときのように柔らかです 。ショオンの手がお背中に添えられているのがわかって、安心します。
ノーマンも腕を伸ばして、柔らかなシャツの内側に掌を滑り込ませます。
「んー、」
しっとりとすべすべしていて、ノーマンはショオンを触っているのもだいすきなのです。
うれしくてきもちよくて、ノーマンが目をぱかりと開けました。
そうしたなら、すぐそばにショオンのとても端正なお顔がありました。
「ほら、ノーマンの目に星が移った」
笑い声をひっそりとにじませた声にささやかれて、ノーマンがゆっくりと目を細めました。
「ぼくも、よくみえます、きらきら」
身じろいで、ノーマンが掌をショオンの頬にそうっと沿わせます。ショオンの舌先が目元をくすぐっていくのにノーマンがきゅうっと目を少しの間瞑りました。
「ねぇ、しぉ…?」
「んー?」
ほっぺたも舐め降ろされて、くすぐったさと、ぞくんとするのとでノーマンが息を弾ませました。
「とろん、ってしてきました」
言いながら甘えるように、ショオンのお背中を抱きしめます。
「いいね」
「んぅ」
息が苦しくなって仰のいたなら、伸ばしたお首のところと、顎の下の所もショオンの舌先が辿っていくのにますます手足が熱くなります。
「とろとろ、」
甘い声が言います。
「しぉ、ぎゅうってしてくださぃ、」
自然と、足を引き上げてショオンの方にぐうっと寄せます。
「もっと溶けて甘くなって、ノーマン」
お耳の奥に、ショオンの低い声が潜り込んでいって、ぞくん、とノーマンが震えました。
「ぎゅう、って。しぉおん、」
むずかるように甘えて蕩けた声でノーマンが強請ります。
力いっぱい、抱きしめてもらってあつあつの息が零れ落ちます。
「んんん、」
気持ちよくてうれしくて、ノーマンが子猫のように咽喉を鳴らします。
「もぉっと、しぉ、」
「ぎゅうってするだけでいい?」
「あのね、」
「なに?」
とろん、とほっぺたを摺り寄せてノーマンがうっとりとしたままで言葉にしました。
「しぉをぼくはいただきます」
そう言って、はぐりとショオンの唇をもとこぐまはかじったのです。
小さくわらったショオンが、ノーマンのお首を同じように噛みます。
「いっぱい食べてとろとろになって、ノーマン」