魔法。



ノーマンはくらくらとしながらそれでも一生懸命考えました。
ショオンのお背中をがりっとしてしまったことにびっくりしていましたし、血がでてしまうほどに強く引っかいてしまったことなんてなかったことです。
びっくりしてごめんなさいと泣き出してしまいそうになったなら、ショオンがぎゅうっと抱っこをしてくれて大丈夫と言ってくれたので、どうにか安心できたのです。
それに、後からお怪我を治してあげられるのも、初めてのことでどきどきとします。ショオンと抱き合っているときはいつだってくらくらどきどきとしてくるしいほどにいろんな気持ちがいっぱいになるのですが、いまはまた特別です。
ショオンのきれいな金色の髪がお月様やお星さまの光を吸い込んで魔法のようにきらきらとしていることや、いまだってぎゅうっと抱きしめてもらえて、うれしくて心臓が痛いほどです。
嬉しくて、とろん、と眠くなってしまうほどです。
けれど、お怪我を治してあげるのです。
「しぉ、」
もぞりとノーマンがあんよを動かしました。
「ん?」
ショオンがお顔を覗き込んできてくれたのに、くすんとノーマンがわらいます。声とおなじくらいに優しいお顔だったからです。
「ぼく、お怪我をなおしてさしあげますよ」
もぞもぞ、とまた身体を今度は動かして、ショオンの腕の緩むのを待って這い出します。
どれだけ大好きなショオンのお背中を引っかいてしまったのか、本当はとても気になるのです。お風呂やお着替えのときに見るお背中はそれはそれはきれいなのです。
さっきまでは身体中が溶け出しそうに熱かったのが、いまは少しだけちょうど良いくらいにまで下がっていますが、ブランケットを被るほどではありません。
でも、大好きで大事なショオンが寒いといけませんので、ノーマンは傍にあった薄手の大きなクッションをいくつかショオンの周りに寄せて、自分は薄い絹のようなスローケットを頭から被ります。
これですと、明かりも透けて見えますし、ショオンもお背中は寒くないはずです。
くすくすと小さくショオンがわらっておりますので、なにがおもしろいのかしら、とノーマンも気になりますが、まずはちゃんとショオンのお背中側にきちんと膝をついて覗き込みます。もちろん、頭から被ったスローケットでショオンのお背中をきちんと隠してあげることも忘れていません。

「あの、さむくないですか」
「まさか」
ゆったりとした口調で返されて、ノーマンが安心します。
けれど、ショオンのとても滑らかでしなやかなお背中には、細長い赤い筋がいくつも残っています。
「―――――あ」
ノーマンが自分の指を見下ろします。いまはもう、ショオンを引っかいてしまった少し長く伸びていたお爪はつるんとなくなっていますが、さっき嗅いだ血の匂いをノーマンは思い出してしまいました。きっと、ショオンは痛かったにちがいありません。
いたかったですね、ごめんなさい、と心の中でいっぱい言いながら、まずはショオンのお肩のところにそうっと唇で触れます。
なんども啄むようにして、ほんの少し跳ねたお肩に触れていきます。お肩にも、赤い筋がうっすらと残っています。
だから、そうっとそうっとノーマンは唇を寄せていって、小さくキスを落とします。そして、ゆっくりとお怪我を舐めてみます。いたくないかな、と少し心配になって、ほんのちょっとだけ唇を浮かせて聞いてみます。
「しぉ、いたくない?」
「ちっとも」
とろ、とハチミツのように甘い声に、ノーマンがふにゃりとわらいます。
「そうですか、」
でしたら安心です、とまた、ちゅ、とキスを落とします。
キスをしただけでは傷はなくならなくて、ゆっくりと舌で傷を辿っていくと、赤い引っかき傷が薄くなっていくのです。
空気に混ざった匂いは、確かに錆びたような血の匂いに違いありませんでしたが、ゆっくりと傷を舐め上げると、日向で熟れたベリィのような味がします。
ぺろ、と何度か繰り返すと、傷がどんどん薄くなっていって、つるりとしたショオンのきれいなお背中に戻るのです。
その様子から、ノーマンは目が離せません。

「痛くはないけど、どきどきするね」
お肩にあった傷がきれいになっていくとき、そうショオンが吐息に混ぜて笑いました。
「どきどき?」
絵巻物の中にあった妖精の丘のようにきれいな角度で引きあがっているお肩の下のお骨にそって、ノーマンがちゅくりと肌を吸い上げます。
「そう。どきどきムズムズ」
くすくす、とショオンがわらいます。
「ぼくがお怪我を治してるからですかしら…!」
ほあん、とノーマンがたいそう嬉しそうに声を弾ませます。
「そう」
ふふ、と嬉しくなってしまってノーマンがショオンの肩甲骨の浮き上がった陰につんと尖ったハナサキを押し込むようにして笑います。
もちろん、ぺろりと肌を舐め上げていくことも忘れません。舌先に甘い味が乗って、ちゅ、と強めに口付けます。
「ぼくは、魔法がつかえてどきどきです」
「こういうときはいいかな」
「はい…!」
お背中におハナがくっつくほどに顔を近づけて、じっとお怪我の検分をします。
お肩や肩甲骨のまわりにあったお傷はもうどんなに近づいても見えないほどになっています。

「あのねえ、しぉ…?お肩のところはもうきれいになってますよ、」
あとはねえ、と目についた背骨に沿った線をすうっと舐めてみます。キスなしのいきなりです。
それからおなかの横のほうに流れていく傷もあって、そこを舐めたときには、びく、とショオンのお背中全体が揺れて、なんだかノーマンは楽しくなってしまいます。
「あった」
そう言って、丁寧に舌で辿ります。
くすぐるつもりはないのですが、細い傷ですのでちろちろと小刻みに舌を動かしては肌を吸い上げるのです。
そうっと背中に添えた手の下で、ショオンの身体がもぞりと動きます。
「んん、」
そう言って、じっとですよ、と声には出さずにいっしょうけんめいなノーマンは「治療」を続けます。
ショオンの肌がうっすらとお熱を放つように温かいことにも満足します。だって、寒くないということですから。
とろ、と舌を這わせているときに、どうしても我慢できないことがありました。
ショオンの肌とかっちりとしたお肉の下にきれいなお骨があるのがわかって、それを齧りたくなってしまったのです。
ぼくがくまだったからかしら、と少しノーマンは心配になりましたが、それでもやっぱり我慢できずに、どきどきとしながらかぷりとお骨の上から歯をたててみたのです。
そうしたなら、 「ふは、」っと息を吐くようにショオンが笑いました。
「んん、くすぐったいですか」
ちゅる、とお傷を舐めてノーマンが尋ねます。怒られなかったので、安心して甘えているのです。
「きれいなお骨だから、齧りたくなったんです、ぼく」
「ん。くすぐったいね」
ショオンの心臓がどきんとしたのも伝わってきて、ノーマンがとろりと肌にキスを落としながらつぶやきました。
「それ、いまわかりました」
ですので、お骨をかじりたくなるのは我慢して、大きく長く残っている引っかいた痕に集中します。お背中の真ん中から両脇に流れるように残されているものです。

もう、くすぐりませんからね、そんなことを言っては、とろとろと舌を這わせては目の前でうっすらと滲んで消えていく傷跡を追いかけるように口付けを落としていって、魔法の腕前に満足します。これだけすばらしい魔法を使えるのはきっと、自分がショオンをとくべつに愛しているからなのだろうと思うからです。
じっくりじっくり、丁寧に痕をぜんぶ辿って行って、もうどこからみても、どんなに傍で見ても、なんの痕もない、いつものようにきれいなショオンのお背中になって、ノーマンはほうっと安堵の溜息を吐きました。
さらさらと掌でお背中を撫でてみます。被っていたスローケットの房がショオンの肌にあたってするんと滑ります。そのときはまたくすぐったそうにショオンは笑いましたが、ノーマンも嬉しくてにこにことしてしまいます。
つるつると何度も円を描くようにお背中を触ります。
そういえば、これだけ自由にショオンのお背中や肩やおなかをさわれたのは、お風呂のときだってなかったかもしれません。
「あら」
思い当って、そうつぶやいたなら、ショオンがちょうど肩越しに視線を投げてくれます。
「あのねえ、しぉ、」
お砂糖の蕩けそうな声でノーマンがうっとりとつぶやきました。
「しぉは、ほんとうにきれいなにんげんですねえ」
たまに、まだ自分がこぐまなような気分になるときもあるノーマンなのです。
うっとりと感心した口調そのままに、ノーマンがショオンのお背中に触れながら背骨の窪みにちゅ、とキスを落としました。
ふわりと微笑んだショオンに、ノーマンはじっと目を合わせます。
「なに言ってんの、ノーマン」
「だってほんとうですもの。きれいで優しくって強くって、ぼくはショオンがだいすきです」
とても素敵ないい香りがショオンの肌から立ち上っていて、くらりとします。いま、気が付きました。
そしてうっとりとお背中にほっぺたでするんと触れて、んんん、とノーマンが小さく唸りました。視線をやった先に、ショオンのおしりがあったのです。
お風呂の時やお着替えの時や、お洋服の上からでも、とってもすてきな形と線ですので、いまだってびっくりするくらいになんだか、お骨をみたときよりもずっとずっと齧りたくなってしまってノーマンは困ったのです。

「んんんー…」
くすくすと機嫌よくわらっているショオンの声を聴きながら、ノーマンが唸ります。
そうっと手を伸ばしてみます。ないしょで触ってみるつもりなのです。そうっと触れてみると、あまり自分のおしりと変りません。おかしいなあ、とノーマンは思います。もっとなんだか特別な感じがするはずですのに。
だからもう何度か、そろそろと触れます。そうしたなら、くすぐったかったのか、ひくんとショオンの身体が揺れました。
ノーマンは、自分がうっすらと唇を開いていることに気が付いていません。そろそろと顔を近づけます。
そして、とうとう、かぷりとおしりのお肉に歯を立てました。
「うわ、」
珍しく、ショオンが笑って声を上げました。
「こら、ノーマン!」
そういって 腰を撚るショオンをちらりと目の端にとらえながら、あぐあぐ、ともうなんどかノーマンが齧ります。こら、と言われたって、だってとっても良い気持ちがしたのです。
うっとりと目をつむってしまいます。
そうしたなら、あっというまに仰向けになったショオンに前髪を押し上げるようにしておでこを撫でられて、ノーマンが瞬きしました。
「しぉ…?」
なんだか口寂しい気がします。
頭から被っていたスローケットが少しずれて半分頭から落ちかけています。
ショオンの瞳がお星さまを取り込んで煌めくようですので、うっとりと見てしまいます。
唇を舌先で濡らしたなら、ショオンのお熱が下唇にあたってノーマンがまた瞬きしました。とっても熱いのです。
「そんなに食べたいなら、こっちにしなさい」
お熱が下唇を右から左に、なぞっていくようでノーマンがくらくらしてしまいます。だからお熱が離れていくまえに、大きく大口を開いて追いかけます。
あつあつになってしまったような唇や舌で追いかけてはぐりとお口に咥えます。
一層、お口の中があっつくなってノーマンが息を零します。息が苦しくなるほど、いっしょうけんめいお口を開いてできるだけ奥まで頬張ります。
くちくちと舐めては唇を使って吸い上げて息ができなくなりそうでも夢中になっていきます。ショオンのお熱がときどき、くうっと突いてくるのに合わせて頬をすぼめるようにいっしょうけんめい吸い上げて、顎が上向いてしまいます。
ショオンが熱い息を零しているのも伝わって、とろとろと舌の上に蜜が零れていきます。きっと自分の顎も濡れているのはなんとなくノーマンはわかりますが、ショオンの腰やあんよにそえている手を離したくはないのです。

「んん、っふ、」
たら、と長く顎を伝って蜜と混ざったままで垂れ落ちていくのにノーマンが声を震わせます。
お咽喉のほうまでではありませんが、お口の深くまでショオンのお熱がいっぱいで、くっと突き上げてきます。
「のむの?」
ショオンの指が優しく顎を拭ってくれるのに、ノーマンがこくこくと頷きます。そしていっそう舌を押し上げてなんどもお熱をなぞります。
ショオンの真似をしようといっしょうけんめいになって、お熱をなんども含みなおしてちゃんとできているかわからないほどに頭がふらふらとします。
男の子とのところだって熱くってきゅううっとしてしまってノーマンが甘いくぐもった声を洩らします。
ショオンのお熱がまたぐん、とお口のなかに収まらないほど強く動いて、ノーマンがショオンの腰に指を埋めます。
「――――っン、ん、」
零さないようにいっしょうけんめいなノーマンがまた吸い上げたとき、蜜が、ぐん、とお口に溢れました。
「ッ、っ」
咽喉を鳴らしてしまいます。ぞくん、と腰の奥からなにかが身体の中を走り抜けます。お口の中にいっぱいに溢れたのと同じときに、自分からは蜜が出ていってしまいます。
「んんっ、んう」
ぶるっと震えて、それでもお熱をお口から出すのは嫌でノーマンが何度か喉を鳴らして、それからようやく真っ赤な唇を手の甲でこしりと拭いました。
ぼうっと熱くって、自分のお口ではないようです。男の子のところは、ずきずきと熱くて濡れたままです。
ショオンのおへその上に、そのままノーマンがおでこを押し付けます。二人ともの肌がとっても熱くなっているのがわかります。
「―――――しぉ、」
酷く掠れて甘い小さな声でノーマンが言います。
「ノーマン、エッチだなぁ」
くすくすと上がった息のままでもわらったショオンの指先が、まだ蜜を零して濡れている男の子のところを触ったのに、ノーマンがびくんと身体を揺らしました。
「―――――ひぁ、ッ」
足のつま先から頭のてっぺんまで、ぞくんとします。
「だって、」
声がまだ震えたままで言い募ります。
「こっちは残しておいて」
ショオンの言葉に、おでこをくっつけたままでノーマンが視線をあげます。
「あの、」
くらくらとしたままでも、意味が分からないのできこうとしたなら、こんどはするんとうつぶせにクッションのなかに埋もれていました。
「あの、のこすって、しぉ、」
「うん、それは気にしないでいいから」
さらん、と返されてノーマンが瞬きします。肩口にスローケットがやんわりと落ちてきました。
「ていうか、いっぱいかき混ぜてあげるからさ。直ぐに、気にならなくなるよ。きっと熱くてそれどころじゃないね」
くすくすと笑って、ショオンが言いながらスローケット越しに肩を撫でてくれるのに、なんだかノーマンはどきどきとして、こくりと息を呑んだのです。