いろは



とろとろと優しく柔らかな唇とその中を辿りながら、ショーンが深い息を吐き出しました。
抱え込んでいたノーマンの脚がぴくぴくと小刻みに痙攣し、注ぎ込まれた熱に身体を焼かれてでもいるように吐息を震わせておりました。
背後から抱きしめて貫いてから、また正面に向き直らせて貫き直し。そのまま甘い声をあげるだけになったノーマンを更なる快楽に落とし込むこと数回、最早ショーンに縋りつく体力もなく、ただノーマンはきつく両目を瞑っておりました。
浅く荒く呼吸を繰り返すノーマンの涙に濡れた頬を唇で吸い上げて、ショーンがゆっくりとノーマンの体内から楔を引きずり出しました。
途端、とろとろと零れ出た体液に、またノーマンが身体を震わせて甘い呻き声を上げます。
顔を真っ赤に染めているノーマンの四肢を伸ばさせて、リラックスするようにその丸っこい額や目元や鼻先にショーンは口付けを落としていき、さらさらと汗に濡れた金茶色の髪を指先で梳いていきます。
小さな窓から見える外は、すでに闇に染まり。最中にぱちりと指を鳴らして点けたランプに灯った火だけが、柔らかな光りを小さな寝室に齎しています。
とろとろと身体の中から溢れていく体液に、ノーマンは小さく身体を震わせて身悶えます。
ふわりと微笑んだショーンは、ぺろりとノーマンの目元を舌で舐め上げて、さらさらと指で髪を掬い上げました。はらはらと落ちる金茶色が、まだ幼さを残しているけれども色付いた頬を掠めて枕に落ちていきます。
薄っすらと開いた唇を柔らかく啄ばんでから、ショーンがノーマンに訪ねます。
「なにか飲むか?」
ぼうっとしたままのノーマンの頬をさらりと撫でて、ショーンは小さく息を吐き出しました。そしてゆっくりとその丸っこい額にも唇を押し当ててから、身体を起こしてベッドの縁に座り込みます。
しぉ、と。掠れたか細い声に呼ばれて、ショーンはゆっくりと振り向いて、その掌でノーマンの目の上を撫でていきました。
「少し休んでろ」
ゆっくりと立ち上がれば、かさついた小さな声がさらに訴えました。
「ずきずきします、」
「痛みを退かしてやろうな」
身体を屈めてノーマンの目元に唇を押し当てれば、いらないです、と返されたことにショーンが小さく笑いました。
「なぜ?」
「へいき」
「平気そうじゃないくせに」
「崖から落ちたほうが痛いもの」
吐息で囁かれた言葉に、ショーンが喉奥で笑いました。
「気持ち悪いだろ、オマエ?」
くふ、と小さな溜息を零したノーマンの髪をさらりと撫でてから、ぱちりとショーンが指を鳴らしました。ノーマンの身体に染み込んでいた体液を全てかき集め、それに痛みもその中に混ぜて小さな球体にしてしまいました。
「痛みはなくなるけどな、疲労はそのままだ。少しじっとしてなさい」
「あの、」
「飲み物を用意する」
ぐら、と声を揺らしたノーマンの頬を撫でてから、その球体をきゅうっと掌に握りこみ、ショーンはそれを完全に取り込んでしまいました。別の次元にソレを移動させ、溜め込みます。
それから、もう一度ぱちりと指を鳴らしてノーマンの家にあったマグを手元に引き寄せ。ふい、と手を振って別の次元から苺を呼び寄せると、一つずつ指で潰しながらそのジュースをマグの中に溜めていきました。
ぱちん、と指を鳴らして牛乳の瓶を取り寄せ、マグの中に注ぎいれます。
ふ、と。横に長く身体を伸ばしていたノーマンが、すぅすぅと寝息を紡ぎだしたことに僅かに視線を細めて、そろ、とその頬を指で撫でました。
「飲み物、いらないのか?」
ころん、とショーンに向かって体を横向きに倒したノーマンに、魔法使いは小さく息を吐き出しました。 ゆら、とノーマンの目が開いたことに、マグを差し出します。
「飲め」
ほにゃ、と小さな子供の頃のままに柔らかな笑みを浮かべたノーマンの上半身を僅かに抱き寄せ、その唇にマグの縁を押し当てます。そして、昔、ノーマンがダイスキだった苺ミルクのジュースでそうっと唇を濡らします。
こくん、と飲んでいったノーマンが、呼吸の間に小さな声で漏らしました。
「あまい」
「飲みたいだけ飲みなさい」
支えた上半身に顔を寄せて、髪に口付けていきます。 こくんこくん、とマグを満たしていた液体を半分ほど飲んだノーマンが、ふう、と息を吐くことに、寄せていたマグを少しだけ離しました。
「もういいか?」
こく、と頷いたノーマンが、疲労が滲む声でそれでも丁寧に「ありがとうございます」と告げるのに、ショーンはふわりと微笑を浮かべました。
「寝てしまいなさい」

マグをベッドサイドテーブルに置いて、少し困った風に首を傾げたノーマンをゆっくりと抱き上げて、ぱちりと指を鳴らしてキレイにさせたベッドの中へその細い身体を滑り込ませます。
ぱちん、ともう一度指を鳴らして、自分の身体もキレイにし。“汚れ”を一つの球体に纏め上げてから、それを握り締めてストックします。
それから、するりとノーマンの隣にその逞しい身体を滑り込ませました。大きなくまのベッドであったことが幸いして、二人で並んで横になっていても、すごく狭苦しいということはありません。
する、とノーマンの頭の下に手を滑り込ませて、ショーンがそうっとノーマンのまだ熱を持った身体を抱き寄せました。
とん、とん、とん、とノーマンの顔にそうっと唇を押し当てていきます。
額、瞼、目元、鼻先、唇、と少しずつずらしていき、最後はその横顔にキスをしました。
「さあもうおやすみ」
もじ、とノーマンがむずかりました。
「――――――ゃ、」
「平気だ、どこにもいかない。ここでずっとオマエを抱きしめているよ、だから寝てしまいなさい」
優しく歌うように、ショーンが告げます。
眠たげに瞬きながら、そのブルゥアイズが、ほんと、と訊いてくるのに気付いて、ショーンがさらさらとその髪を指先で梳きながら唇を押し当てました。
「ずっと側に居る、って約束する」
そうっと告げて、小さくショーンが笑いました。
「なんなら誓約書を書いてやろうか?」
「それ、」
なんですか、と小さな声で訊いたノーマンに、ショーンがぱちりと指を鳴らしました。途端、しゃらん、とどこからともなく小さなネックレスがその手の中に現れ。薄暗い闇の中で草緑色の宝石がぼんやりと光り輝きました。そして、ランプの光りを弾いて、ダイヤモンドより眩く光りを反射していきます。
「手を伸ばせるか?石の中を覗いてみろ」
ゆら、とデマントイドの輝石をノーマンの鼻先に垂らして、ショーンが告げます。
「石の向こう側に誓約書を彫り込んだ」
そろ、と手を伸ばしたノーマンの髪に唇を押し当てて、ショーンが小さく笑いました。
「約束の証明。悪くないだろう?」
「あの、」
すい、と見上げられたことに、ショーンが頭を浮かせてノーマンの顔を覗き込みます。
「んー?」
「きれいですてきだけど、むずかしいお約束はいらないです」
困った顔でショーンを見上げたノーマンに、若い魔法使いは喉奥で笑いました。
「難しくなんかないさ。オマエの側に居る、とだけ書いてある。コレは、」
ゆら、とネックレスを揺らしました。
「保証」 容であると安心するだろ?とショーンが笑って、さらりとノーマンの首にそれをかけさせました。
「だって、」
さらに困った顔をしたノーマンの額に、ショーンは唇を押し当てました。
「不満か?」
ふるふる、と首を横に振って、ノーマンがぽつりと呟きました。
「だって、ぼく、くまなのに」
強情な元くまに、ショーンは深い息を吐いて枕に頭を預けました。
「たとえオマエがくまであったとしても、そこになんの不足がある?」
たとえオマエがアヒルだろうと、ペンギンだろうと。それがオマエだっていうのなら、オレは約束をするさ、とショーンは静かに呆れて呟きました。
「ただまあ、オマエはもうくまじゃないけどな」

「でも、」
はふ、と息を吐いたノーマンの目の上を掌で覆ってショーンが告げます。
「一回休んでから、考えればいい」
「ふしぎです」
ごそごそ、と掌の下から頭を出してきたノーマンの顔を覗き込んで、ショーンが小さく笑いました。
「元気だな、オマエ?」
さらさら、と髪を撫でて、ぺたりと触れてきたノーマンの掌の感触を感受します。
「いまにも倒れそうなクセして。おとなしく寝ていなさい」
からかうように片眉を跳ね上げて、ショーンが告げます。
「寝ている間も、起きてからも側にいるから」
ぺたぺた、と触れてきているノーマンの掌が唇に当たったことに、はむ、とその厚みを帯びた肉に緩く歯を立てました。 じ、と見詰めてくるブルゥアイズをじっと見返します。
「みたことあるの、―――――おともだちだったですか……?」
ふ、とショーンが小さく微笑んで、首を傾げました。
「どうかな。友達でもあったし、兄弟のようでもあったし――――――ほとんどずっと、側にいたからな」
ぱちぱち、と瞬いたノーマンの髪をするりと撫でて、腕の中にその身体を抱きこみなおしました。
「まま…?」
そう呟いて、首を傾げ。しっくりとこないことに、むぅ、と唸っている様子に、ショーンは目を瞑りました。 継いで、
「―――――ぱぱ……」
そう呟かれ、むぅん、と唸られたことにちくりと胸が痛みます。
どんなにノーマンが恋しく思っても、もうノーマンのパパとママはこの世に存在しないのです。
いくらショーンが彼らと同じほどにノーマンの側に居て、それと同じだけ、いえそれ以上の愛情を持ってノーマンと接していたとしても。ショーンはノーマンのパパとママに成り代わってあげることはできないのです。たとえ強力な魔法を持っていたとしても。

不意に、ノーマンが呟きました。
「……しぉん――――?」
おやおや、あんなに腕の中で啼いて縋っていたのに、とショーンは思いますが、ふわりと笑みを口端に刻んだだけで、ノーマンの思考のトレースを邪魔しません。
口の中で、しょぉん、しぉ、と呟くノーマンをじっと見詰めたままでおります。
不意に、ぱあ、とノーマンが顔を上げました。
そのアクアマリン・ブルゥの双眸が真っ直ぐにショーンを見上げてきます。
ふわ、とショーンが微笑みました。イエス?と囁くようにして返事を返します。
ぱしん、とノーマンの目の中に光りが走り。やおら身体を擡げたノーマンが、飛び込むようにショーンの首に両腕を回して抱きつきました。
「しぉおおおおおん!」
ぎゅう、と抱きしめ返して、ショーンが笑いました。
「そうだよ、ノーマン。オマエの“ショーン”だ」
さらさら、と金茶色の髪に掌を滑らせて、愛しい相手を抱き寄せます。
「おっきくなったねぇ、」
そう感心して言ったノーマンに、くすん、とショーンが笑い。とん、と柔らかくその髪に口付けました。

「あの、」
不意になにかに思い至ったようにノーマンが身体をもぞもぞとさせました。
「ええと、」
視線がちらちらと泳ぎます。
「ン?」
ノーマンの背中をさらりと撫で下ろしながら、ショーンが首を傾げました。
「どうした?」
「さっきみたいな、こと、また……?」
するんですか、と訊いてきたノーマンに、ショーンが小さく苦笑を零しました。
「オマエが嫌ならしないよ」
「え、と……」
わからないです、と困った風に顔を顰めたノーマンの髪を撫でます。
「くるしいし、」
そう小さな声で続けられて、ショーンは静かに微笑んで頷きました。
「別にすぐに判断しなくてもいい。オマエが答えを出せる時まで、オレはなにもしないでいるしな」
「でもー」
少し唇を尖らせて見下ろしてくるノーマンの頬を、さらりとショーンが撫で上げました。
「うン?」
「しぉのことだいすきだもの」
ほんの少しだけ拗ねたノーマンの様子に、くす、とショーンが微笑みました。
「だから、どうしたの」
ますます唇を尖らせたノーマンの頤から喉元に指を滑らせつつ、ショーンが僅かに首を傾げました。
「ノーマン?」
「ゃじゃないも……」
ぽつ、と呟かれた言葉に、ショーンがにっこりと笑いました。
「オレはね、ノーマン。オマエを愛しているんだ」
さら、と真っ赤になった頬を片手で包み込みます。
「アレはね、それを体言する行為」
さら、と親指でノーマンの開かれたままの唇を辿ります。
「アイシテルって、オマエの全部に刻み込むための行為。だから、オマエが嫌ならできない」
こくん、と首を傾げ、
「そうなの?」
と訪ねてきたノーマンに微笑みました。
「しぉ、」
まじめな顔を作ったノーマンの顔を両手で挟みこんで、ショーンが微笑みました。
「でも。オマエがどっちか決めかねてるっていうのなら。ココロが決まるまでいっぱい挑戦してみようか?」
とりあえず10回もこなせば、イイか悪いか解るだろ、とノーマンの身体を引き寄せて呟きます。
「じゅっかい?」
指で数えだしたノーマンの身体を抱き込んで、ころりと体位を入れ替え。ノーマンを身体の下に巻き込んでショーンが微笑みました。
「そう。今日で1回」
「きゅうかい?!でもとろとろに溶けて消えちゃいます」
そう呟いたノーマンの愛らしさに、くくっとショーンが笑いました。
「どんなに溶けても、無くならないよ」
とん、と柔らかく唇にキスをして、ノーマンに告げます。
「もう二度とオマエを失くしたりしない」
ぱち、と瞬いたノーマンにそうっと体重を預けて、ショーンがその頭をぎゅっと抱きしめました。
「しぉ、」
嬉しそうなノーマンの声に、さらさらとその髪の毛を掻き混ぜました。
「オレの元におかえり、ノーマン」
ショーンの甘い囁きに、ノーマンは嬉しさのあまりに両腕に加えて両脚で縋り付きました。
ショーンもくすくすと笑って、優しくノーマンを抱きしめました。そして、とん、とその額にゆっくりと唇を押し当てて囁きました。
「オマエにずっと会いたかったよ」