オ
ル
ゴー
ル
ごちそうさまでした、とノーマンがいいました。
大きなダイニングテーブルには、ケーキと美味しいサラダとサンドイッチとハムと温かいお野菜と小さく切ったスペアリブとマッシュポテトと、ほかにもたくさん、ノーマンが思いつくままに食べたいかなと思ったものやランチの残りが変身したものなどが乗っていました。塩釜の七面鳥はまたこんどのご馳走のときに作ってもらう約束をしました。
それに温かいリンゴのサイダーも飲めましたし、ノーマンはご機嫌でした。
ご本のなかのくりっすまのお祭りにも負けないくらい、楽しい一日だったと大満足です。
お散歩の帰りに、おてがらぺっとの素敵なお名前も思いついて、ほんとうにいうことなしです。
真ん中の子がイーニィ、右側の子がミーニィ、左側の子がマイニィです。
「どれにしようかな」の数え歌から取った名前です。
最後のモーがお尻尾なんて、自分でもとても良く出来たお名前だとノーマンは大自慢なのですが、それに関してはショォンはにこりと笑うだけです。
『だって、キスするときにイーニィミーニィマイニーモー、で決めてどのこかにもできるし、とてもいいと思うんです』
『モーにもキスをするのか?』
『あたればね?』
そう言って、ぎゅっとショォンに抱きついて、お夕食の支度をしたのです。 お夕食の前に、寒い雪のなかを長い間歩いてきたのですから凍えてしまってはいけないので、乾いた布で子犬の身体をふいてあげて、それからブラシをかけました。
暖炉の前でしたから、ノーマンはほっぺたが熱くなるほどでした。けれど、ブラシの間中、仔犬はくんくんと嬉しそうにおハナを鳴らしていましたから、ノーマンは丁寧にブラシをかけてベルベットのリボンを結びなおしてあげました。
『あったかですねえ』
そう言って、すべすべの真っ黒の毛皮を撫でて頬摺りします。そして。は、と思いつきました。
『しょぉおおお!』
お夕食の支度をしているショォンはお台所です。なに、とそれでもお声が聞こえました。
『お風呂にいれないといけませんかしら!』
『体拭いてやったならそれでいいよ。体温高いから』
『そう?一緒にあわあわぶくぶくのお風呂に入りたいですよ』
『それはさすがに可愛そうだろ?ヒトじゃないんだし』
すこし笑っているようです。
『じゃあ、もうすこし温かくなったらね』
うむ、とノーマンが納得します。もう少し温かくなって、みんなで水浴びをしても楽しそうです。
『水浴びを、みんなでしましょうね、しょぉおん…!』
こんどはその思いつきにうきうきとしてきます。
『夏になったら湖に泳ぎに行こう。それなら構わないよ』
そして、イーニィとミーニィとマイニィのオデコを指先で丁寧に撫でてやります。
『いっしょに、お城のお風呂にも入りましょうね』
こっそりと言ったのですが、ショォンには聞こえていたようです。
『だから、風呂はダメだって言ったろ!』
『だって、冷たいお風呂、夏になったら入るもの』
すこしだけ叱られてしまって、ノーマンが言い募りました。
『オマエは夏でも温かい風呂!』 『う、』
きゅうっと仔犬を胸元に抱き上げます。 ショオンのお手製の器械がジャガイモを潰している音がします。
きっと、マッシュポテトを作ってくれているのです。
『あ!』
すこしのあいだ、しょぼくれていたのはどこへやら、そしてそのままノーマンが走ってお台所まで向かいます。
『しょぉお!』
『んん?』
まっさおのぱりっとしたエプロンをしたショォンがノーマンの方を向いてくれます。
『イーニィたちにごはんをあげなきゃ!』
おいしいお肉!と保冷室にそのまま走っていこうとします。
『ああ、こら。ノーマン、待ちなさい』
ドアまで走ったところで呼び止められて、ノーマンが振り向きました。
『なんですか』
『先にこれに目を通しなさい』
クロスで手を拭いて、ショオンが綴じられた紙束を渡してくれます。仔犬の育て方:三つ首編、と題されたソレは大魔法使いのお手製の魔道書のようなものでした。
『こいぬの、そだ、てかた。みつくびヘン?』
『そう。イーニィミーニィマイニーモーの育て方だ』
『ごはん!』
さっさそく、ノーマンが頁を捲っていきます。
『なんのお肉ですか、にんぎょ?』
非常に怪しい知識がノーマンの頭には詰まっているようです。
『人魚ぉ?』
『はい。にんぎょですの?』
はあ?という顔のショォンに、ノーマンがこくりと頷きました。
『めずらしいお肉なんでしょう??イーニィたちはかわいい得な子達ですから、ごはんもめずらしいんでしょう?』
『いや、人魚はいくらなんでもこの近くにはいないし…ってそうじゃなくて。読みなさい』
あら、と口許に手をやったノーマンの頭をこつんとしてショォンが言います。
ぱら、と頁を捲ったノーマンがしばらくいっしょうけんめい文字を追って、今度は目を煌かせてショォンをすぐに見上げました。
『しょぉ…!!』
に、と大魔法使いが笑ってノーマンを間近で見下ろします。
うちゅ、とその口許にキスをして、ノーマンが片腕でショォンの首にかじりつきました。
『すてき…!お星様を食べるんですか?お城にまだまだたくさんありますねえ…!』
ぼくがいっぱい砕いてゴハンをつくってあげます、とおお張り切りです。
『この間たっぷりノーマンがとったからね』
『はい…!』
キラキラとお星様が零れ落ちそうな笑顔で、ノーマンが飛び跳ねるように食料庫に向かって。
お星様を詰めてある瓶を梯子に乗って、ちゃんと持ち出して、木槌でたくさん砕いたのです。
その間に、お夕食は出来上がっていました。
ガラスで出来たボウルに砕いたお星様を、魔道書に書いてあるとおりの分量に計って入れます。 からからとキレイな音が響いて、仔犬がノーマンの足元で飛び跳ねます。
キンイロの欠片でいっぱいになったボウルを下ろしてやれば、仔犬が大喜びでボウルに頭を三つ押し入れてカリカリと欠片を食べて行きます。
そのたびに、チカチカと光りの粉が散って、面白い眺めでした。 だから、これからはごはんのときには暗くしてみてもいいかもしれない、と思いついてノーマンはまたにこにことしながらまっすぐに立っている『モー』をさらさらと撫でました。
そして、気が済むまで仔犬のごはんの様子を眺めてから、自分たちのお夕食を頂いたのです。
夕ごはんの後のお片づけもきちんと終わって、木のお椀に入ったリンゴのサイダーを飲み終えたノーマンはふぅ、と息をつきました。
「あのね、」
ショォンはリビングにある暖炉の前のソファにゆったりと座っていました。 膝にはとても大きくて頁もたくさんあるお料理の本が乗っていて、ソファの側の小卓には食後酒の入った水晶のグラスがありました。
「あの、しょぉん?」
すい、と大魔法使いが視線を上げます。その眼差しはとても優しいものでした。
「ぼくもおそろいしていいですか」
ノーマンが食後酒を指差します。
「いいよ。ちゃんと支度をしておいた」
「ご本でね、あったの」
「うん?」
ショォンが本をテーブルに置きます。
「からめるそーすで、ほっとわいん…!あのね、つくっていいですか」
クローブとシナモンとナツメグもね、もう用意してあるんです、と続けます。
「いいよ。火傷しないようにね?」
「はあい!」
しゅたりとイスから飛び降りるとそのまま急いでお台所に戻ります。
小鍋にカラメルソースを作っている間に、音楽が聞こえてきました。広間にある銅版のレコードが回っているようです。大きなお城の石の壁を伝って音色が響いてきます。
「あ、オルゴールですねえ」
ふふ、と嬉しくなって、それでもお砂糖が焦げないように気をつけてカラメルソースを作ると、そうっと赤ワインを注いでスパイスも入れます。 火をうんと弱くしてオレンジの皮やレモンジュースも入れます。
ふつふつ、と表面がしてきて、ノーマンが自慢気ににっこりとしました。
これで美味しくできあがりました。だから、あつあつのままで割れない水晶のボウルにホットワインを注ぎいれます。
持ち手の付いた水晶のカップとおそろいです。 ですからあつあつをカップに注ぎいれて、そうっとそうっと暖炉の部屋に戻ります。
甘いいい香りがして、ホットワインは大成功です。カラメルソースで作ったからいつものより香ばしい味もします。
「おいしくできました…」
はやくショォンにも飲ませてあげたくてうきうきします。
「しょぉ…!」
「おかえり」
できました、味見してください、とソファまで近付きます。
「じゃあ一口だけ」
ショォンはあまり甘いものを呑んだりしないのです。だから、ノーマンは工夫をしてみたのでした。
「いつもと違うんですよう」
ふにゃりとお砂糖のように甘い笑みをノーマンが浮かべます。 ショォンがかップに口をつけていくのをじぃっと見守ります。
ゆっくりと一口飲んで、ショォンが見上げてくるのにノーマンがどきどきとしながらお返事を待ち。
「オレにはこっちのほうがいいかな」
そう言って、ショォンが食後酒を指すのに、しょんぼりとします。
「そうですか」
カップをもらって、こくりとノーマンが残りを呑みます。 だって、ノーマンはショォンにクリスマスギフトを二つ、用意していたのですがショォンはそれ以上に素敵なギフトをくれたのです。
ツリーや、赤いケープや、仔犬。 しかも、仔犬は普通の3倍もお得だったのです。
どんなにがんばっても、ショォンの方がたくさんギフトを贈ってくれているのですから少しでもショオンの喜ぶものをあげたかったのです。
ふわりとカラメルの甘さがひろがって、ホットワインはとても美味しくできていました。
仔犬は、暖炉の前のベッドで丸くなっています。 すこししょんぼりとしたまま、ノーマンは自分のお椅子には戻らずにショォンのお膝に乗っかりました。
身体を斜めにして、そのままぺとりとショォンのお胸に身体を全部預けます。 そして、熱いワインを零さないように、こくりと呑みます。 やんわりと回された腕に安心して、もっと体の力を抜けば、頭にキスを貰いました。
「しょぉ、」
すこしだけ残っていたホットワインをまたこくりと呑みます。
「んー?」
贈り物を新しく作ろうと思っても、材料の宝石や魔法の飾りはもう全部、素敵だと思うものは使っていましたし、いまから工作を始めてもおやすみの時間に間に合いません。
だったら、いま作ったホットワインをやっぱり飲んでもらうしかないのです。
よし、と心で決めてノーマンが伸び上がりました。 だから、そのままショォンにキスをします。ホットワインを飲んでもらうのです。
「んんん、」
でも、ノーマンのお顔の方が下にあるので、なかなかショオンのお口に移せません。 ちゅ、ちゅ、と柔らかく唇を啄ばまれてうっとりとしてしまいます。
「んんッ」
息をしようとした弾みで、自分で呑んでしまいます。 目をぱちくりとしていたノーマンに、大魔法使いは眉を片方引き上げてわらっています。 けれど、そこは不屈の精神をもつ元こぐまですから、また一口ホットワインを飲んで挑戦します。
こんどは、もっとショオンの身体をよじ登るようにしてお肩に腕を掛けて身体の高さを同じほどにしてみます。 もう、見上げていなくて同じくらいです。
「ふふ」
嬉しくなって、くすくすと笑いを殺したまま今度こそきちんとキスをします。
きちんと合わさった唇越しに甘いワインを移している間に、ショオンが手からカップを取り上げていったのがわかります。
きっと、ノーマンが零したらとても大変なことになりますから、予防です。
とろ、と甘くて温かいワインが流れていって、ショオンが今度はきちんと呑んでくれたのがわかります。
うれしくなって、ショォンの唇を齧りました。 食後酒のうぃすきーの辛いようなお味が無くなってうれしいのです。
だからもうすこしショオンの唇を舌でたどってふにゃりと蕩けた笑みに目元を揺らしていれば、するりとショオンのキスが深くなります。
「ん、っふ」
引き上げていた体を、お背中からそうっと撫でてもらってもっとノーマンが身体をくっつけます。
「しょぉ、」
はふ、と息を吐き出してノーマンが言いました。
「ん、」
「あのね、すてきなくりっすまでした、」
きゅ、とショオンの大きな手がお尻を掴むのにお声がぐらりとします。
ショォンのキラキラとキレイな目がゆっくりと開いていきます。
「それはよかった」
「ん、あのね…」
ちゅ、とまたすこしだけノーマンが唇を押し当てます。 ショオンの手がお背中を撫でてくれるのが気持ちよくて、うっとりとノーマンが瞬きしました。
「くりっすまのギフト、」
「うん?」
はむ、と顎を齧られて、くすくすとノーマンがわらって身体を揺らしました。
「いちばんすてきなの、もらいました」
そのまま、顎を舐められてしまって、ひゃ、とくすぐったくてますますノーマンが笑います。 そして、きゅうっとショオンの首に両手を巻きつけます。
「だからね、」
ごそ、とショオンの指がおズボンの後ろ側から入ってくるのもくぐすったくて、ノーマンが声を掠れさせました。
「ぼくがね、しょぉんを、くらくらにしてあげます」
かつりと咽喉元を齧られて、ぎゅ、とノーマンが縋ります。
「んぁう」
「へえ?」
「それはオレとっては一番のプレゼントだね?」
にぃい、とショオンがするのに、こくん、とノーマンが頷きました。
「めり、くりっすま、ですもの」