く
りっ
す
ま
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「しょぉん、これですー。たくさんありますよう…!」
にこお、と満面の笑顔で紙束を手渡してきたノーマンに、ショーンは一瞬引き攣った笑みを浮かべました。
スケッチブックから引きちぎったと思われる画用紙の一枚目からクレヨンで盛大に書き募ったくりっすま”計画書は、ざっと見ただけでも20枚ほどありそうでした。
「あのね、ツリーの絵と用意したいものと、ほかにもたくさんあるんです」
ショーンが仕事で書斎に篭っている間、この3日間、ノーマンも懸命に作業机に向かって計画を練り上げていました。
「なるほど」
ぱら、と数枚捲りながらショーンが呟き。前衛的なデッサンの出来具合に、くらっと眩暈が過ぎるのがわかりました。
「ジンジャーマンクッキーはたくさん作りますよ」
にこにこと続けたノーマンの頭をほてほてと撫で下ろし。この計画はこのままではちょっと色 々と問題があるな、とショーンは結論付けました。
ノーマンの前衛的な作風を実は意外に好きなショーンではありましたが、いくら廃れた異教の神の祭とはいえ神≠ノ纏わる祭ではあるのです。
魔法使いとしては、そうした信心を無碍にすることはできません―――たとえ信じていない神にまつわるものであっても貶めたりしてはいけない、というのが魔法使いたるものの心得です。(利用する場合は別ですが。)
なので、ちょっとノーマンが打ち出した計画を全面には出せません クリスマスには厳かさも必要なのです。
「ツリーの飾りは、赤と銀色か、青と金色か、ブロンズと茶色がいいんです」
ほわあ、と柔らかな笑みを浮かべたノーマンのセリフに耳を傾けながら、ファンシーカラーで描かれたレモンイエローのオーナメントや朱色の花などを見詰めます。 ノーマンの言っている色の組み合わせなら結構素敵だと思いますが、実際に絵に描かれているカラーはまた随分と別物です。
「……ノーマン?」
「はぁい?」
「クレヨンでなくて絵の具で描いてみれば、もう少し欲しい色に近づいたんじゃないかと思うよ」
「あら。これはね?飾りじゃないんです」
「…飾りじゃないんだ」
「はい」
「じゃあ何かな」
にっこりと笑顔を浮かべたノーマンに、ショーンが聞きます。
「あのね、ドリームキャッチャーにするんです」
「ド…」
「良い夢だけ、見られますように、ってしょぉんに作ってあげるんです」
窓ガラスにこの前衛的かつモダンなオーナメントが飾られるのでしょうか。想像するだけで恐ろしくなります。
城の窓という窓がすべてコレを飾られた窓は、想像するだけでもかなりのダメージをショーンに与えています。
「夢はね、ノーマン」
ひょい、とノーマンの身体を抱き上げながらショーンが言います。
「魔法使いにとっては重要なものなんだよ」
伸び上がって口付けてきたノーマンの顔を覗き込みます。
「知ってます、だから良い夢だけあつめてください」
ふわふわにこにこの笑顔を浮かべるノーマンを見下ろして、ショーンが小さく息を吐き。 そういうわけにもいかないけどな、と告げる代わりに額を押し当てました。 するりと柔らかく腕を回して、ノーマンが言いました。
「ツリーの絵はね、もうすこしで出てきます」
こそ、と告げられた言葉に頷き、一先ず近くのソファに向かいます。 すとん、とソファにノーマンごと座り込んで、ゆっくりと捲って計画書を見ていきます。
なんというか、大きな木らしきものがあるのは理解できますが、残りはぐにゃっとしていたり、マルチカラーだったりしてかなりインパクトが強いものです。
そしてそこに真っ白い鳩の絵も出てきました。
ブルーに金が混じった絵に、真っ白に金の化粧を施した抽象画の鳩が、何十羽もその青空を飛んでいっています。 ひっそりとショーンは唸りました。
そして、フェイクの鳩をいくつもノーマンが作れるように材料を集めることを思いつきました。
「あとね」
それを頭の中で一旦保留をしてから、言い募ってきつつ口付けてきたノーマンの目を見下ろしました。
「うん?」
「リボンもツリーに結んで、おともだちに持ってもらって、ツリーの周りをお歌を歌って回るんです」
嬉しそうにノーマンが言葉を継ぎました。
「ランタンも吊るして、ぴかぴかですねえ」
「ランタンは、吊るさないで地面においておいたほうがいいと思うよ。あまり熱いと木がかわいそうだろう?」
「じゃあ、はろうしんのときみたいな灯りをつけてください」
ぱら、と捲った次の紙には、細かい模様が書き込まれた蝋燭が現れました―――これを全部、ショーンが用意するのでしょうか。
とろん、と甘ったるい笑みを浮かべたノーマンに、くすりとショーンが笑いました。
「そうだね。数はちょっと減らすけど、それならいいよ」
「それはね、ぼくが作りますよう」
蝋燭を指差したノーマンに、ショーンが一瞬目を瞬き。
「指を怪我しないようにね」
そう言って、とん、と額に唇を押し当てました。
ふふ、と自信たっぷりに笑ったノーマンを、ぎゅうっと一度強く抱き締め。 この前衛的な絵じゃ尺がわかんねえな、とショーンが脳内で呟きました。
なんとなく、ノーマンの頭の中では巨大なツリーになっていそうでした。
「あのねえ」
うっとりとした口調でノーマンが言います。
「おおおおおおきなモミの木は森にありますかしら」
むかーしむかしから生えてるようなのです、と言い足したノーマンに、まったくあんな本がどこから出てきたのだろう、といぶかしみつつショーンが頷きました。
「――――すてき」
「人の集落がこの地域にあったのはかなり昔のことだからね。古い木も、そうでない木も沢山あるよ」
そうっと呟いたノーマンの頬を擽ってショーンが言いました。
「森で住んでいた頃には気にならなかった?」
「だって、上を見て歩いてたらあぶないですもの」
それに、もっと森のなかは暗くて大変でした。そう言って返してきたノーマンに、なるほど、とショーンが頷きました。
「でもね、おじいさんの木はぎしぎし言ってましたよ」
枯れちゃったけど、と寂しそうに呟いたノーマンにふわりとショーンが微笑みました。
「それじゃあ、クリスマスに最適な木を探しにいこうか。暖かい格好をして、カブとランタンを連れて行こう」
「しょお!」
目を輝かせたノーマンに、くすくすとショーンが笑います。
「素敵な毛皮着て行っていいですか」
「もちろん。暖かければ暖かいほどいいよ」
さらさら、と耳元を擽ってショーンが言います。
「あの、まっくろでふかふかのがいいです、だいすき」
なるほど、くまの着ぐるみのことです。ふかふかのファーで出来ていて、フードにはくま耳もついているショーン作の一品です。
「それなら転んでも冷たくないね」
「走っても平気ですねえ」
手も脚も完全にガードしていて、高い襟元とたっぷりしたフードに隠れて鼻先と目のところがちょっと覗いているくらいにほとんどくまの毛皮のままです。
意気込んだノーマンが、けれどふっと気付いた風に言いました。
「あ、でもね。手を繋いでいきたいんです」
「そうだね。興奮して走っていったら大変だもんね?」
「くりっすまの準備ですもの、がんばりますよう」
やる気満々なノーマンに、ショーンがぷっと笑い。それから、するん、と膝からノーマンをおろしました。
「それじゃあ着替えにいっておいで。オレも支度をするし」
ちゅう、と可愛らしい音を立てて伸び上がったノーマンはキスをし。 それからぱたぱた、と足早に部屋に着替えにいくのを見送ってから、ショーンは手元の紙束を見下ろしました。
これを全部このまま生かしてクリスマスのお祝いにするのはちょっとどころかかなり気分が引けるところですが、芸術家気質なノーマンだけあって、実用にも耐えうるアイデアがいくつもそこにはありました。 もちろんショーンが手を加える必要がありますが、ノーマンが望むようなクリスマスのお祝いにしてあげることはできそうな気配です。
くすくす、と体の内側の奥のほうで悪魔のルーが笑うのにショーンは片眉を跳ね上げながら、自分も冬の森に探索にいくのに必要な服に着替えにいきました。
そして大急ぎで黒いくまの着ぐるみに着替えたノーマンと、途中で飲むホットワインや歩きながら口に出来るお星様キャンディを支度して、冬の雪深い森へとランタンを吊るしたカブを引き連れて入っていったのです。