リーム



チャー



夢のなかでもキラキラとした明りでツリーが雪の中で光っていて、ノーマンは夢をみているのかまだ森にいるのかわからないほどでした。 お星様が降って来て、まっしろの鳩も沢山とびまわっていて、どこかからお歌まで聞こえていました。
森のおともだちたちも木の陰からたくさん現れて、ノーマンは嬉しくなってわらって―――ぱかり、と目が覚めました。
「―――――――むー」
まだお外はまっくらです。がんばって、早起きしたのです。 ショォンはまだぐっすり眠っているようでしたから、ノーマンはのびをしないで、ぎゅうっと目を一度瞑ってからまた目を開けました。
「冬」になってから、朝起きる時間は遅いのです。まだお外がまっくらなのでノーマンは安心しました。
こっそりと周りを見回します。 ショォンは抱っこしてくれていますが、そろりそろりとすこしづつ動いて身体を離します。
まだ眠っているショオンの腕を半分持ち上げてから、そうっと膨らませた枕の上に置きます。
「ふぅ」
よくできましたよ、とノーマンがこっそり腕から抜け出してスリッパを履くと呟きました。
早起きだけではありません、まだまだノーマンにはしなくてはいけないことがたくさんあるのです。
こっそりと足音をたてないように用心して、ノーマンがゆっくりゆっくりベッドを周ります。そして、クロゼットの前にやってきました。
「ここからが大変ですよ」
息を殺してノーマンが囁きます。 きぃ、とほんのすこしだけ木の大きな扉が軋んで音をたてます。
「――――――しー…っ」
そう扉に向かって囁いています。
そして、ショォンのために作っていたドリームキャッチャーを入れておいたトレイをそうっとそうっと取り出しました。
きれいな色の宝石やガラスや孔雀の羽や魔法の飾りをいくつも組み合わせて透明な魔法の糸で繋いであるのです。 バランスを取りながら、ドリームキャッチャーは光りを弾いて自分たちでゆっくりと風にあわせて回転したり揺れたりします。 「モビール」というものを不思議辞書で引いて調べて、作ってみたのです。
ただ、何回も尖った針や目打ちで指を刺してしまって、おんおんと泣いて書斎のドアを叩いたのは、内緒です。
怪我をしたことはショォンに話しましたが、何をして怪我をしたのかはがんばって黙っていました。
『あのね、ド……、ドアーで挟んで穴が空いたんですの』
そうぼとぼとと涙を零していたのです。きっと、大魔法使いはお城で起こったことは全部知っているのですが、ノーマンはそのことを知りません。 ドリームキャッチャーはクリスタルや宝石や羽でできていますから、ノーマンが歩くたびに、本当に涼しそうなきれいな音があがります。
「――――――しー…っですよう」
こっそり呟いて、ノーマンがもっと抜き足差し足になります。
まずは、窓からです。沢山ある窓ですが、お日様がイチバン最初にあたる窓の側に昨日のうちからおイスを寄せておいたのです。 それに、ドリームキャッチャーを抱えたまま登ります。
一生懸命、物音を立てないようにしているノーマンの背後では、もうショォンは起きていて、様子をじっと探っているようですが、ノーマンが気づくわけもありませんでした。
小さな透明のフックを使って、まずはペリドットやアクアマリンやクリスタルと孔雀の羽といろいろな宝石が繋がったドリームキャッチャーを吊るします。
しゃら、と本当に素敵な音がしますから、長い飾りの下の方を掌に乗せて、ぐらぐらと不安定になりながら、それでも高い窓の天辺からまずはひとつを吊り下げました。
「――――――…っ、と、っと」
思わず足元がぐらついて、はたりとノーマンが唇をまっすぐに結びます。
「――――――せーふですねえ…!」
二つ目のドリームキャッチャーは、スモーククリスタルとルビーとを下げて銀色の鏡の欠片をクリスタルの周りに張り合わせた飾りも繋げて作ったお気に入りでした。キン、ととてもキレイなオルゴールのような音がします。
ふぅ、と息を詰めてノーマンが満足気にそれを眺めます。
続けて、三つ目、四つ目、全部で五つのドリームキャッチャーを窓辺に吊るします。
お日様が昇ったら、きっと目眩がするほどきれいなことでしょう。そのことを想像するだけで、ノーマンは期待で胸が苦しくなるほどでした。
息を殺してイスから降りて、今度はノーマンは意を決してベッドをくるりと振り向きました。
ふわふわのお布団の下で、まだショォンはぐっすり眠っているようです。
「おねぼうさんですねえ」
こっそりわらって呟きます。いつもショォンに言われていることです。
まだまだおねぼうさんでいてもらわなければいけないのですから、もってこいです。
そして、ノーマンが残った飾りを見下ろしました。 この三つは、特にお気に入りだったのです。ですから、枕元に魔法のオーナメントと一緒につるそうと決めたのです。
オーナメントやチャームには、ショォンが何回かくれた「ちょっとしたお呪い」の掛かった中に何万年も昔のお水が閉じ込められた紫色のクリスタルや、オパールや、ほかにもたくさんの宝石を使ったものです。
本当なら、王様の寝室を飾っても遜色ないものを、ノーマンは実は作ってしまっていたのですが、本人はそんなことは知りません。 『モビール』のように何本も分かれた透明な枝からいくつも長さの違う飾りが垂れて、それがそれぞれぶつかってかすかに音が鳴ります。 「あら、だめですよう」
しずかにしずかに、ともっとゆっくりになって進んで、そうっとベッドにトレイをおきました。

そして、ベッドをなるべく揺らさないように乗りあがって、枕元に四つんばいで進みます。 しずかに、しずかに、そうっと、そうっと、と呪文のように小声で呟き続けています。
ショォンの被っているお布団が小刻みに揺れているのは、もちろんノーマンの目には入りません。
それに、普段は眠っている間に髪が乱れる、といってショオンはお布団を顔に被ったりはしないのですが、今日は被っていることにも、一瞬首を傾げましたが、ヘンだとはのんびりとしたノーマンは思わなかったのです。
そして、ぎゅ、と爪先立ちを枕元でします。ぐうっと足先がマットレスに沈んで、慌ててノーマンが身体を固くしました。
しゃらしゃりーん、とドリームキャッチャーが動きに鳴りますが、それをぎゅうっと片腕に抱き締めてノーマンは息を殺します。
そして、ショォンを見下ろしますが、まだ眠っているようで、ふううう、と息を吐きました。
「しずか、しずかですよう」
まずは、ひとつを吊るします。 これだけキレイなのですから、どれだけ楽しい夢が見られるのか、考えただけでシアワセな気持ちになります。 それを三つも、色々な色で吊るすのですから、ショオンの魔法に必要な『夢』はいつだって―――
「とりほうだいですねえ」
ラジオで覚えた言葉を小声で口にします。 ドリームキャッチャーを作りながら、よくラジオを聴いていましたから。
「ふふふ」
こっそり、右手で口もとを押さえて笑いを殺します。
そして、張り切って最後まで飾り付けをしました。

きゅ、とすこしはなれて枕もとを観て、天井を見て、ノーマンは大満足です。
ショォンにおきてもらってすぐにでも見せたいような気もしますが、まだまだノーマンにはお仕事が残っていたのです。
くりっすまのギフトに、ショォンに森の王様とおそろいのように素敵な冠をあげなくてはいけないのです。
ですから、とても用心してベッドを降りて、ドア側まで進み。素敵な毛皮を仕舞ってある大きなクロゼットのほうへ行きます。 もうひとつの棚のなかには、青い葉っぱで飾り付けをした箱のなかに、森の奥で編んだ冠が入っているのです。
ノーマンの分も一緒にいあれてあります。
それをもって、今度はスキップして歌って行きたいのを必死になってガマンして。だって、冠が今朝壊れてしまってはノーマンはきっとくりっすまのお祭りができないほど落ち込んでしまうでしょう。
寝室の入り口の側で振り返れば、まだ明方まえの明りに、それでも宝石がキラリキラリと色を跳ね返していくのがとてもうつくしくて、うっとりとします。
「さあ、お台所です!」
廊下をゆっくりゆっくり抜き足差し足で進みます。
青々とした葉っぱで飾った籠には冠が二つ入っていました。一つはショオン用です。もう一つは、自分用でした。
お台所までいって、そうっとショオンのおイスの前にバスケットを飾ります。 ひいらぎの実もつけて、ちょっとしたテーブル飾りのように見えなくもありません。
「――――――きれいですねえ」
うっとり、とノーマンが呟きました。 まだ、窓のお外は暗いと思っていましたが、うっすらと赤紫色の筋が雲の中から見えました。
「――――――あら」
予想以上に、時間が掛かってしまったかもしれません。
ですから、ノーマンは小さい声でお歌を歌いながらベッドルームに戻ります。
そうっと大きなドアを開ければ、ショォンのキラキラとしたキンイロの髪が目に飛び込んできました。 ショォンはどうやらお布団をもうかぶっていないようです。
走っていってベッドに飛び込みたいところを、ぐ、とガマンして、音をたてないように忍び足でがんばります。
そして、ゆっくりゆっくり、大層時間をかけて羽根でふかふかのお布団を持ち上げると、こっそりともぐりこみます。
そうしたなら、ショォンの腕にぐいっと引っ張られてぺたりとくっついてしまいます。
「――――――そうっと、そうっと…」
呪文のように唱えていたノーマンが目をまん丸にします。
けれど、嬉しいですし、ヒミツのぎふとも並べているし、頭の上には夢のようにキレイな飾りが周って、ほんとうに素晴らしい音色をたてるのに嬉しくてどうしていいかわからなくなります。
ですから、最初にショォンが起きたときにどんなお顔をするか、絶対みようと思って、眠くならないようにがんばろうと決めたのです。
けれど、ショォンに抱っこされてぺとりとくっついて、温かくていい香りもするし、ほわりと頭の真ん中が緩みそうになります。
「ね、たら、…ね、めでも。」
ぶつぶつと呟きますが、もうノーマンの瞼はくっつきそうになります。なにを口走っているのかもあやふやです。
そして、すとん、と眠ってしまったのです。
朝ごはんのときに、ショォンに感想をきかなくては、と意気込んでいたのですが、それは夢のなかで、でした。