何かしらノーマンがしていることに気付かないわけがないショーンですが、当のノーマンはまったくもってそんなことには気付いていません。
しゃらしゃらと涼やかな音が早朝のベッドルーム中に広がり、そこへ、しーしーと言い続けているノーマンの声が聞こえれば、ぐっすり熟睡していたって起きられるショーンです。
ですが、なにやらノーマンが酷く楽しそうにしていたので、あえて寝たフリをして誤魔化してみました。
そうしたなら、ショーンが起きていることに気付かないノーマンはいそいそとベッドの中に戻ってきて、すぐにまたくぅすぅと眠ってしまいました。 ショーンは、さてどうしたものか、と考えながら、眠ってしまったノーマンの身体を抱き抱えて、ノーマンがごそごそと作業をしていた窓辺に視線を投げ遣ります。
きらきら、と朝の光りを取り入れて弾くオーナメントが幾つも、そこにはぶら下がっていました。
ドリームキャッチャーを作る、と張り切っていたことを思い出し、あれがそうか、とショーンがこっそりと唸ります。
何度もノーマンが手を怪我して泣きながらドアを叩いてきたのは、あれを作っていたせいなのでしょう。
色とりどりの宝石がぶら下がったオーナメントは、ドリームキャッチャーというより豪奢なモビールです。
森の小熊(魔法でなっていたわけですが)、という経歴の持ち主の割にかなり派手目なものが好きなノーマンのデザインセンスがものすごく良くわかる煌びやかな作品です。
実際にこれで悪夢が取り除けて良い夢しか見られなくなるかどうかは疑問でしたが、少なくとも見詰めていて気分が害されるようなことは全くありません。 夏の窓辺に吊るすには賑やかすぎるかもしれませんが、今は冬なので、それはそれでいいのでしょう。
ショーンがくすくすと笑いながら腕の中のノーマンを抱き締めました。
きっとこれはノーマンからのクリスマスプレゼントに違いありません。 至極満足そうな笑みを浮かべたまま眠っているノーマンの額にキスをしてから、ショーンも再度目を瞑りました。 もう少し空気が温まるまで、ノーマンを抱えたままでいよう、と決めたのです。
何しろ古の祭の当日ですから、お休みは捥ぎ取ってあります。 仕事のある日だって、冬の間は起き出すのは昼間近ですから、今日はもっとゆっくりとしようかな、と考えていたのです。 それでショーンもうつらうつらと眠りに落ち、次に目が覚めたときはいつも起きる時間帯でした。
ぱちり、と目を開いたショーンは頭上にもあるモビールを見上げて、やっぱりくすくすと笑ってしまいました。
そして、腕の中で幸せいっぱいに眠っているノーマンの頬に口付けます。

「おはよう、お寝坊さん。目を覚まして」
ぽわん、と目を開けた瞬間、ノーマンがびっくりしている様子なので、ショーンがにっこりと笑いました。
「おや、吃驚、今日は目覚めが良いね?」
ぱちん、と視線が一瞬でフォーカスしたノーマンが、ふにゃあ、と笑顔を浮かべて言いました。
「くりっすま、おめでとうございます」
「メリークリスマス、ノーマン」
こつん、と額を押し合せて、ショーンが笑いました。
「ギフトをありがとう。驚いたよ」
きゅう、と首に齧り付きながら、
「きにいってくれましたか」
そう訊ねてくるのに、ショーンが小さく頷きました。
「驚いたよ。手先が器用だね?」
幸せそうにくすくすと笑うノーマンの唇も、あむ、と啄ばんで、ショーンが身体を起こしました。
「今日はクリスマスだから、大きいランチにしよう。そのためにはしなくちゃいけないことも沢山あるぞ」
「おだいどろこに、早くいきますか、」
「その前に顔洗って着替えないといけないけどな?」
わくわくしているノーマンに告げてから、起き出し。二人分の着替えを取り出してまずは着替えてしまいます。
それから、ノーマンがベッドルームをまだ片付けている間にショーンが先に顔を洗い。ノーマンが顔を洗い終わったところでショーンがノーマンの髪をブラッシングしてから、いつものように二人でキッチンへと向かいました。
その途中にあるダイニングのテーブルの上が青々としていて、ショーンが思わず足を止めました。
「…緑の…バスケット?」
きらきらと目を輝かせたまま、一生懸命口を閉じているノーマンをちらりと見遣ってから、ショーンがゆっくりとテーブルに近づいていきます。
小さな黒い妖精が笑いながらテーブルの上を走っていき、籠の間に組み込まれたクリスタルを揺らしていき、ちんちりん、と涼やかな音がすることにゆっくりと笑いました。
「これも、ノーマンが作ったんだ?」
「はい!」
蓋付きの小さめのバスケットを手に取り、こっくりと頷いたノーマンからそれに視線を落とします。
「開けていいのかな?」
「はやくはやく、どうぞ」
飛び跳ねそうな勢いのノーマンに笑って、そうっと籠をショーンが開けました。
中には大きな葉や木の実で出来た冠が入っていました。それも2個です。 ぱちくり、とショーンが目を瞬いて、それを取り出します。
「冠?」
「はい、エルフの王様のより素敵でしょう!」
きゅ、と抱きついてきたノーマンに、くすくすとショーンが笑いました。
「あの絵本のエルフの王様にはもしかしたら勝てるかな」
かぶってください、とノーマンが笑顔で見上げてきます。
「…え、今?」
ぱち、とショーンが目を瞬きます。 いまからごはんの支度をしよう、というところなのですから、ショーンが戸惑うのも当たり前のことといえます。
が、そんなことをノーマンは気にしたりしません。はい、とこくっと頷いて言いました。
「きっと、お似合いですよう…!」
ふにゃふにゃ、と柔らかい笑顔を向けられ、ショーンが一つを手に取り、それから、2個目のそれを翳しました。
「こっちも?」
「それはね、おそろいなんですの」
ひょい、と手が伸ばされ、両方の冠をノーマンが引き取っていきました。 それから、はい、という言葉と共に、ぽすん、とショーンの見事なブロンドの上に草や木の実で出来た冠が乗せられました。
それから、一歩下がったノーマンが、きらきらと光る目でショーンを見上げ。酷く納得した様子で何度も頷き。
「―――――すてき…!」
そういいながら、ぴょいんぴょいん、と飛び跳ねました。
「…エルフの王様?」
自分を指差しながらショーンが確認すれば、きゅう、と抱きついてきながらノーマンが言いました。
「はろうしんができなくてざんねんですねえ」
真っ白いたっぷり目のシャツに、黒いズボン、といった格好のいつものショーンですが、確かに緑色の冠を被せただけでエルフの王様に負けず劣らず美しい存在になっています。
ハロウィーンにならずとも、本来ならいつだってこういう格好ができてしまうショーンです。
なにせこの城には二人きりなのですから、誰に気兼ねする必要もありません。 いそいそ、と自分も小さめの冠を被ったノーマンを見詰めて、ショーンがくすりと笑いました。
「オレがエルフの王様なら、ノーマンは何になるのかな?」
にこお、とノーマンが満面の笑みを浮かべました。そして朗らかに言い切ります。
「森の王子さまですよう…!」
緑や赤などの鮮やかな冠の乗った金茶色の頭に軽く手を翳して落ちないようにしてやり、ショーンがくすくすと笑いました。
「オレの王子さま?」
くすくす、と幸せそうに笑うノーマンを抱き上げて、ショーンが笑いました。 ショーンがにっこりと笑みを浮かべました。
「素敵なプレゼントをありがとう」
「いつも、ありがとうございます、くりっすまのギフトなんです…!」
きらきらな双眸で見詰められ、ショーンが柔らかくノーマンの唇を啄ばみました。
「嬉しいもんだね」
柔らかく甘い声でショーンが囁けば、同じほどに蕩けた笑顔を浮かべたノーマンが、ちゅ、と優しくショーンの唇を吸い上げました。
「よかったぁ」
ふわふわな笑顔を浮かべたノーマンと額をこつりと押し合せてから、そっとその身体を床に下ろしてショーンが言いました。
「何か軽く摘んだら、クリスマスに相応しいブランチにしよう。そしたらその後にツリーを見に行こうな」
「はい!」
伸び上がってまた柔らかく口付けてきたノーマンの後頭部をくしゃりと握ってから、二人で仲良くキッチンへと向かいました。
クリスマスに特に思い入れのないショーンですが、ノーマンを喜ばせるためには大概何でもしてしまうので、実はクリスマスランチも古い文献に載っていそうなメニューを考えています。
二人がキッチンに到達した頃には、ショーンの魔法によって粗方下拵えは済んでいました。 あとは軽く朝ごはんになるものを摘んでから、一緒に取り掛かるだけです。
この日の為に焼いたナッツ入りのフルーツケーキを切り分けながら、ショーンがノーマンに言いました。
「ところでノーマン、この冠をしたまま今日は一日を過ごすのかな?」  
「はい!だってくりっすまですもの……!」


* * *


ローストチキンやマッシュドポテト、ローストビーフにヨークシャープディング、湯がいた温野菜やパンなどを広いダイニングテーブルに乗せてのブランチは、食欲旺盛なノーマンにぱくぱくと食べられていきました。
残ったものはパンに挟んでサンドウィッチなどにしておきます。 ざ、とテーブルの上を片付けた後で、ほにゃほにゃと笑いながらノーマンが言いました。
「でざーとはなんですの、」
「え、オマエ、まだ入るの」
くすくすと笑いながらショーンがノーマンの頬を突付きました。
「ここに溜め込んでたりとかしていないよな?」
「しませんよう。プリンとかいいですねえ」
ふにゃん、と笑ったノーマンに、ショーンが肩を竦めました。
「まあデザートはちょっと待て。それより、」
言葉を切って、ショーンがぱちん、と指を鳴らしました。
「こっちはどうかな」
言うが早いか、大きなテーブルの上に恐竜の卵のような塊が現れます。
擦りガラスのようなもので出来た大きな白い大きな塊です。 途端に、目をキラキラにさせてノーマンが興奮して言いました。
「―――塩釜ですよ……!」
「は?」
「しょぉお、七面鳥ですの??」
ひゃああ、と歓声を上げたノーマンを、まじまじとショーンが見下ろします。
「すごいすごい、塩釜ですか、すごいですねえ……!塩釜!!」
「…なんだオマエ、塩釜料理が食べたかったのか?」
ヘンな知識を持っているな、とショーンが少し呆れて片眉を跳ね上げます。
「あのね、ラジオでね、やっていたんですの。お料理番組」
してみたかったんですよぅ、と感嘆の溜息を吐いたノーマンをまじまじを見詰めてから、ショーンが頭をがりがりと掻きました。
もちろん、ショーンは塩釜で焼いた七面鳥を用意していたわけではありません。
クリスマス・ランチにローストチキンは出しましたので、まさかターキーをリクエストされるだなんて思ってもいませんでした。
「割りましょう……!」
大いに張り切って袖を捲り上げたノーマンに、ショーンが小さくそっと溜息を吐きました。
ノーマンの思考力は、ショーンの考えを軽く飛び越えて羽ばたく習性があります。 強大な若い魔法使いの想像の枠をあっという間に突き抜けるこの小さなコイビトが、ショーンは不思議でなりません。
これだからノーマンと一緒に居るのは楽しいんだ、とショーンは納得していますが、しかしだからといって、本物の塩釜のように今目の前にあるこれを思い切り木槌で砕かれては堪りません。
どこからか木槌をいそいそと持ってきたノーマンが、
「なんでぼくが塩釜が好きって知っていたんですか?」
そう言ってくるのに、ショーンが小さく苦笑を洩らしました。
「そんなに塩釜料理が食べたいなら、晩御飯はそれにしてもいいんだがな」
そういいながらパシンと指を鳴らして、大きな木槌を細い小さなワンドに変えてしまいます。きらきらと煌く星が先端にくっついた魔法の杖です。 きょとん、と目を大きくしていたノーマンが、
「あら?」
そう言って片手で口を押さえたのに頷きます。
「塩釜じゃないから、そうっと叩いてごらん」
こく、と頷いて返してきたノーマンのくりんと跳ねた髪の毛を指先で梳き上げて、ショーンが囁きました。
「魔法の言葉は、Open Sesamiだ」
「まほうなんですか?」
「やってみれば解るよ」
にっこりと笑ったショーンが、指で塩釜もどきを指差しました。
「さあどうぞ」
ノーマンがくりくり、とワンドを回しました。
そして、ぴし、と馬に鞭を当てるように見事にスナップを利かせて塩釜モドキの天辺を叩いて、威厳たっぷりにノーマンが言いました。
「おーぷんせさみ!」

そうすると、ワンドの先端にあった星がぺかん、と光って、擦りガラスのような白の間をはじけた光りが通り抜けていきます。
きらきらきらきら、とダイヤモンドダストが表層に現れたように、塩釜もどきが煌きました。
「――――――ひゃぁ…」
目を大きく見開き、テーブルにしがみ付く勢いでノーマンが夢中でその光景を眺めます。
そうするうちに、光りが塩釜もどきの隅々まで行き渡っていってから、きゅうう、音がしそうに一瞬強まっていきました。
思わずノーマンが目を細める明るさです。
それでも夢中になってテーブルの上を見詰めているノーマンの目の前で、塩釜もどきが急にぱかりと半分に割れました。
そして中からは、眠たそうな瞳が見上げてきていました。
「あああああ…っ!!」
とろん、と柔らかく蕩けた6つの瞳が、奇声を上げたノーマンを見上げます。
「おてがらぺっとです………ッ」
興奮をして大きな声を出したノーマンに、おてがらペットと呼ばれたソレが目を瞬きながらショーンを一瞬見上げました。
あの…えっと、なにがどうなってるんですか、とでも言っていそうなアイコンタクトです。
しかしそんなことに気付かずに、ノーマンが大声で言いました。
「しょぉ、おてがらですよ、おてがら…っ、すてきすてき、おてがらぺっとですか!!!」
くりん、と振り向いたノーマンが、また塩釜もどき、というよりは卵の殻の中で蹲ったままだったそれに視線を戻しました。
「かわいいですねえ……」
うっとりとしながら、ノーマンが手を真ん中に居た〝おてがらぺっと”の頭に触れました。それから、更にうっとりと蕩けたトーンで言葉を継ぎました。
「あたまが三つもありますよ……!」
小声で囁いたノーマンの声に、自分の内側で魔の王であるルーが吹き出したのが解りました。
そのままげらげらと内側でルーが笑い転げます。 右、左、真ん中、と交互に額を撫でながら、感嘆しつつノーマンが言いました。
「かわいいのに、とってもお徳なんですのねえ……!」
ほう、と溜息まで吐いています。
「おてがらのあたまが三つですものねえ、すごいですよ」
大いに感心している様子のノーマンに、げらげらげら、と内側でルーが笑い転げます。
「ん、と。ノーマン?」
「はい……っ」
ショーンが内側のルーを無視してノーマンに訊きます。
「これ、なんだか解る?」
〝おてがらぺっと”を指差してショーンが訊けば、きゅぴーん、と頬を興奮でピンクに染めたノーマンが、自信満々に言って退けました。
「おてがらぺっとです……!」
ぶっふーーー!と内側でまたルーが噴き出しました。ひぃひぃと息苦しそうに床を叩いてお腹を抱えています。
ひゃん、と小さな声を上げた三つ首に、あぁ…!とノーマンが奇声を上げました。
「このこたち、お口の中も真っ赤です、かわいいですねえ……!」
ふにふに、と三つ首の子犬の口許を撫でてノーマンが言うのに、ショーンはこりこり、と眉間の間を掻いてから言いました。
「一応種族としては犬だけどな。お手からペットかあ……一理あるかもしれないな」
え、ちょっとアンタまで何いうの、という具合に三つ頭で見遣ってきたケルベロスを見遣って、ショーンが肩を竦めました。
「並みの番犬よりは役立つだろうしな」
「おてがらです、」
ほうら言った通りでしょう、と言わんばかりのトーンでノーマンが言い、ケルベロス、別名〝地獄の番犬”を問答無用で抱き上げました。 ひゃん、と落ち着かない様子でケルベロスが声を上げました。

ショーンの中の魔王ルーは目に涙を溜めてまだ床を転げまわって笑っています。
ノーマンに〝犬”をあげようかな、と思いついたショーンに〝こんなのもいるぜ”とイメージを見せたのは、実はこの魔王本人です。 良い意味で期待を裏切り捲くってくれるこのカップルが、魔の王であるルーは大のお気に入りだったので、ノーマンのボディガードにこれ以上最強のカードはないな、と一瞬で計算したショーンの為に自分の眷属であるケルベロスを大型種の成犬ほどの大きさの〝仔犬”に変えてあげたのでした。
少しは怖がるか、と僅かな期待を寄せて殻の中からケルベロスが出てくるのを待っていたルーでしたが、今度もノーマンの無自覚なパンチはクラスター爆弾並です。
お得でかわいいおてがらさんです、と満面至極で三つ首にそれぞれ唇を押し当てるノーマンのセンスには適いません。
そしてその言葉に、まあ頭が3つある賢い番犬なら確かに〝お得”だよな、となんだか納得しているショーンの思考にも笑いが止まりません。
きゅうう、と仔犬らしい不安げな声を上げた眷属に、いい子で従え、とメッセージを送ってやり、笑いながらルゥはショーンの内側に意識を落としていきました。

〝仔犬”を抱き締めたまま、ノーマンが見上げていいました。
「しぉ、とってもすてきなおてがらぺっとをありがとうございます」
ぺこ、とお辞儀をされ、ショーンが笑いました。
「塩釜ターキーのほうがいいのかと思って焦ったよ」
これは、もちろん本音ではありません。
「おてがらぺっとがいちばんですよう」
むぎゅう、と腕にケルベロスを抱いたまま抱きついてきたノーマンの身体をぎゅうっと抱き寄せて、ショーンが訊きます。
「それはなによりだ―――――で、名前はどうするんだ?」
魔との契約に〝名”は重要な因子です。
魔法使いであるショーンは、魔の王ルゥの眷属であるケルベロスと先に契約を結んでいますが、まだ名前の部分はブランクのままで、このままではケルベロスが安定してこの世界に残れません。
そんなことは知らないけれども、名付け親になる気満々のノーマンが、酷く真剣な顔になりました。
「たくさん考えないとですね、」
そうぽそりと甘い声で呟きます。
「ぼくが、ごしゅじんですものね、」
「そうだよ。ノーマンが面倒見てあげないとね」
「おてがらぺっとが、ぼくのですねえ……」
くすくすと笑いながら、ショーンも三つ首の頭を軽く撫でてやります―――――契約をするのはショーンですが、名付け親はノーマンです。 そのことで、大きすぎる魔法のバランスを取ることをショーンは目論んでいます――――ノーマンの望みを叶えつつ。
感極まってケルベロスに頬を摺り寄せるノーマンの頭にキスをして、ショーンが言いました。
「素敵な名前を考えてあげるといい。日付が変わるまえに名前をつけてあげなさい」
「たくさん考えます……まかせてください!」
張り切って言い切り、そして三つ首のそれぞれの頭に口付けて、ノーマンが囁くようにいいました。
「あんしんしてくださいね」
きゅう、とそれぞれが鼻を鳴らしますが、それを、『えー、マジですか、オレたち地獄の番犬ですよ』ではなく、安堵の声と受け取ったノーマンが、くりくり、と鼻先を擽って、べるべっとみたいですねえ、とうっとりする様子を見詰めて、ショーンがにこにこと笑いました。
ノーマンが本当に欲しかったものをクリスマスに贈れたこと、そしてノーマンがケルベロスと仲良くしていけそうなことにショーンも大満足です。
腕の中の熱源(地獄の番犬ですから体温は高いのです)を抱き締めてご機嫌なノーマンの頭にキスをして、ショーンが言いました。
「それじゃ暖炉の方に移動して遊ぶといい。こいつらのベッドとかもちゃんと用意してあるからな」
「しぉもいっしょですか、」
きゅう、と抱きつきながら訊いてきたノーマンにショーンが笑って頷きました。
「もちろん。ひとしきり遊んだらお茶にするから、それまではゆっくりしような」