Vivace
ホテルの部屋に招きいれてくれた相手がアタリマエのように自分を“抱く”心積もりであるようだったから、いまここで異議申し立てをするのも馬鹿馬鹿しいし、目の前に広がったのがリネンでは無くて相手の顔であったりしたので、初回は良しとした。
それでも、興味が涌いた。
声と、顔がイイ相手。身体を重ねることに慣れきって手馴れたようでいて、どこかまっさらに不器用で笑いたくなるほど素直で。スレていない、ファックをまっとうに愉しんで、子犬めいてじゃれあうようなキスやハグをするかと思えば、頭のなかがまっしろになるくらい高いところにまでヒトを引き上げることだってできる、面白い、と思った。表情が艶めいている、抱いたら一層イイ顔をしてくれるのか、気にならないはずがなかった。
背中越しに身体をやんわりと押し開けば、どこか作られたような不満気な声が告げてきた言葉にウォレンが小さくわらった。
「Hey, hey, shhhhhh, darlin'」
しーっ、イイ子ちゃんだから静かに、そう言って。背骨にそって唇を落としてみる。
「ん、ぁ」
耳に通りの良い声に、胸元にやんわりと添えていた手を中心の尖りに向かって滑らせていけば、思いのほか素直に身体を竦ませていた。
口付けを背骨のヒトツヒトツに落としながら、ちゅ、と肌を吸い上げる。
閉じられた目元と、寄せられた眉が妙にちぐはぐにカワイイ印象と艶っぽいのとを混ぜ込んでいた。
「ん、っふ、」
歌うたい、らしいから。タトゥでも入っているだろうと勝手に想像していた背中は、傷ヒトツ無くて滑らかなままだった。
「まじ、なぁんも入ってないや」
ウォレンが呟いた。彼の背の右側には、天使と悪魔がいたから。
その、まっしろな、いまは僅かに色の乗った背中に、ヒトツ、2つ、キスして痕を残す。唇の下で背中が小さく震えるのに、ウォレンが笑みを刻んだ。
ちゅ、と背中の中心に唇で触れて、少し震える声が寄越した返事に、やんわりと、背中に歯を軽く埋めた。
入れたら、止まんなさそ、と。タトゥのことを言っているのだとわかる言葉が返された、けれどきっとこのオトコはタトゥだろうと、なんだろうと嗜好が極端なのかもしれないな、とウォレンは思った。0か100かしかないのだろう、と。それに器用そうにも思えない、なんだかひどくこの歌うたいは正直すぎる、と。よくいままで生き延びたモンだな、と思い、けれどまた思考を戻していた。これだけ素直なままってことは、保護者がいるネ、と。血が繋がっていようといまいと、年が近かろうが、離れていようが。
思考を流しながらそのまま、背中から腰まで唇を滑らせていく。
「ん、あんたに似合わねぇから、」
言葉の途中で、軽く歯を立てる。まっさらなままがいい、とそう思いながら。
「ぁ、い、」
ひくん、と跳ねた腰を押さえ込むようにし、うっすらと浮いた噛み痕を舌で濡らした。
「タトゥ。なし、がいいな」
熱を持って昂ぶる中心には触れずに、手を内腿に滑らせていく。
は、と組み敷いた相手が息を吐き、潤んだ青色が一瞬自分を見上げてくるのにウォレンがほんの少し首を傾げた。きゅ、と寄せられてしまった眉が、なんだか迷子のように見える。顔立ちのきれいなヤツだと思っていたけど、妙に実際はカワイイかもしれない、と思いながら。
「な、ぁ…オマエ、名前…ッ」
「んん?」
にこ、と笑みを乗せ。内腿を手指で押し撫でて。もうほんの僅か、開かせてから肌に唇で触れる。
身体を落として、唇を這わせれば。こく、と息を飲み込んでから、
「名前、何だよ……っ」
相手が問いかけるのに、ウォレンは微笑んでから、さら、とヒップをもう片方の掌で包むようにした。背骨の終りに、とん、と口付ける。ブロンドの間から、綺麗に潤んだ青が覗いていた。
ヘィ、プリティ、と囁く。泣いてるみたいに見える、と微笑んでみせてから、まだ名前は教えずにいた。
「でもさ、あんた、キツイの好きそう」
ウォレンの声が微かに笑いを滲ませる。
「アタマ空っぽになりそうなファック、」
「ファック・ユー、オレは……ッ、慣れてねえよッ」
「へぇ?」
ちゅく、と中心に手指を絡みつかせる。
「ん、ぁ」
濡れて、熱く張った手触りにもっと先に進めたくなる。
びく、と揺らいだ腰をいいことに、そのまま手指を濡らして扱き上げていく。
「じゃあ、……いまからスキになるかもね?」
「ふ、ぁ…ッ」
ぐ、と脈打つ熱を掌に移しこみながら、くく、と喉奥で笑った。
「ねぇ、すげえいい声。歌うたうヤツってみんなアンタみたいなの?」
舌を伸ばして、ヒップの狭間に触れ。
「知らね、よ、」
くう、とリネンを片手が引き絞るようなのに、返してくる。
ふ、と吐息で笑って。熱をどんどん育てていく。
「ファックしてばっかりって?聞いてないんだ?もったいないの」
ぎゅ、と眼を閉じてしまった横顔にちらりと視線を投げ、ウォレンが呟いた。
「ん、っふ、」
顎を上向けた所為で、喉が綺麗に反らされていき。眼にする線が酷く整っていて、綺麗であることになんとなく満足する。
高めていた熱の、蜜の零れる先を押し開き、ほんの少し弾くようにし、洩らされる声に体温が僅かに上がる。
脱ぎ落とされたデニムがベッドの下にあるのを、腕をギリギリまで伸ばして拾い上げ。身体の少し離れる間にも、片手は熱を包み込むままにする。
ちら、と肩越しに視線が合わせられるのを感じ、ウォレンが首を傾けた。
「どうしたの?」
ファックするだろ、と眼で問いかけ。じわり、と熱を包み込んでいた手を握りこむ。
そして、ヒップの狭間にとろりと舌を這わせた。
「でも、オマエも……スキだろ、」
とろ、と僅かに微笑むように言い募られて、きゅ、と強めに肌を吸い上げる。
「ファック?」
うん、まぁね、と続ける。熱を休むことなく追い上げながら、言う。
「……イイ顔、してた」
「おれは、両方スキだけどね」
赤い舌が、唇を舐めていくのを視線で追いながらウォレンが言葉を継いでいた。
「カワイコちゃんファックするのも、されンのも」
ぐ、と足を一層開かせ、露になった奥に吐息で触れる。
「んぁ、」
リネンを引き結び、身体を震わせる相手の背中をさらりと撫でる。僅かに強張った背中を宥めて、わざと長い舌を見せつけるようにすれば、とろりと和らいだ青が見詰めてきていた。
「ゴムはあとからするけど、濡らしちまう」
に、と微笑み。
「あんた、歌ってくれそうじゃん」
奥に舌を這わせる。
じわり、と押し当て濡らすようにし。ハ、と笑うようだった声が、すぐに嬌声に変わっていくのを拾い上げる。
「な、ぁ。名前…、」
甘えた声が問いを模るのに、てろりと襞に塗れた熱を添わせる。
「んン、」
あまい声に誘われるままに、濡らしていき。手がきつくリネンを引き絞る様を捕らえながら、もっと甘い声を引き出させたくなる。
片手で押し開き、綻び、入り口が震え始めるまで高め。熱は弾ける寸前まで幾度も押し上げていく。
「んぁ、ハ、」
あつい息がリネンに零され、抑えようとしているのが解る声がそれでも次第にトーンを上げていくのに口許が笑みを作る。
「ん、いーい声」
おれ、それ好きだな、と囁き。濡らし綻んだ奥に舌先を僅かに潜り込ませる。
「ん、んぅ、」
濡れた音を立てて引き出し。添えていた指もそうっとあわせて押し込む。抑えられた、それでも甘い声が耳に届く。
「ぁ、あ、」
この先の、快楽を知っていると解る声。
促されるように、く、と僅かに奥まで熱い窄まりの中を進める。目眩のしそうな熱さに締め付けられていくのに、喉奥で笑う。
「は、ぁ、ア…ッ」
指をさらに奥まで、ぐう、と押し込み。ひくりと強張ったヒップにじわりと歯を立ててから背中に胸を合わせるように身体を引き上げた。
「んぁ、あ、」
肩が僅かに下がる、そこに口付けた。指を、熱い奥にもう一本、潜ませる。
「ウォレン、」
快楽に揺れる相手に、そうっと言葉を落とす。そして、肩甲骨の上に痕をヒトツ残した。自分のだったなら、堕天使の在るあたり。
閉じられていた瞼が、ふわ、と開いた。それが、フィルムのスローモーションのように一コマ一コマ、はっきりと軌跡さえ見える。
蕩けたブルゥがあわせられた。
「ウォ、レン…ッ、」
確かめるようなトーンに、ウォレンが笑い。けれどもすぐに色づいた耳朶を口に含み、くちゅりと咀嚼する。
潜ませたままの指は、熱い内を探り続け。一際、びくりと背中の強張るポイントを見つけ出す。
「ん、ぁ、…ぁあ、」
縋るように甘い声が耳に入り込み。
「もっと歌って、」
同じように甘い声が唆す。
背中に額を押し当て、そのままゆくりと身体を下ろしていく。
弾くように、内を押し上げ。く、と腰が軽く揺らぎ。
「ぁ、ア、」
声も揺れながら押し出されていっていた。
「ん、ぁは、ゥオ、レ…ッ」
高めさせ続けていた熱が、びくりびくりと手の内で濡れはじけかけるのを押し止めながら、見つけ出した場所をぐぅ、と内から刺激する。
「なぁ、もっと呼んで」
「ゥオ、レ…ンっ、なぁ…ッ」
荒い息の合間から、呼ばれる。リネンをきつく引き絞る手の、酷く官能的なのを楽しみながら、問いかけた。
「イきたい?」
「ン、イきた…ぃ、」
ゆる、と先端を割り開く。こく、と頷いた様子に、微笑んで、返した。
「だぁめ」
「クソ、ゥオレ…ッ、」
悔しそうなトーンが酷くウレシイ。
熱を塞き止め、けれど内を何度も抉る、指先で。内側を全体で。
「あ、ァ、ウォレ、んっ、」
「Ah, That's sooo sweet(んー、すっげカワイイ)」
「ゥオレンッ、も、もたな…ッ」
涙声にまで高まった声が届くまで、追い上げ。ソレを十分に愉しむ。
そして、堰きとめていた熱を、解放を促すように濡れた手指で絞り上げる。
「ア、ァ、ん、んんっ、」
熱の上がりきった息を忙しなく洩らす口許も、色づいた頬も、額に濡れて重くなったブロンドが張り付いた様子も、予想以上に眼に訴える。
なにより、吐精する最中の、恍惚とした表情が。
飢えが競りあがるのを感じる。酷く純粋な。愉しんでいる自分も自覚する。
まだ解放から意識が戻りきっていない相手をかるく片腕に抱きながら、ゴムを取り出しかけ、ふぃ、と気が変わる。
くく、と笑って。ウォレンがデニムをベッドからフロアにまた落とした。
デニムが落とされた音に、ひく、と跳ねた身体を掌で撫でて宥める。指を引き抜き、そして腰を高く引き上げさせた。
「は、ァ、んんん…ッ」
「ヘィ、すぐまたイっちまう?」
綻び、熱い入り口を指で撫でる。
「わか、ね」
ふる、と首を横に振った相手が言い終える前に、入り口に熱を押し当てた。僅かに、押し込み。
「うぁ、…ぁァ、」
「あんた、おれより久しぶりだろ?ゴムじゃタイヘン」
ぐ、と竦んだ体を宥めるように背中に唇を落として囁いた。
「けど、さ?なかじゃ濡らさないから、―――――まだ」
に、と笑みを刻み。
「ぁ、ん、ウォ、レ…ッ」
戸惑った声に、
「うん、オレ。いまからあんたのなか、入りてぇの」
ゆる、と僅かに竦んだ前を揉みしだき。僅かずつ、身体を進め。
「ぅ、ア、き…ッツ、」
耳元で声を落し。
「ぁ、ア、んんんんん、」
戸惑いに濡れた、それでも甘い嬌声に、ウォレンが、ぐ、と腰を押し当てた。
「んぁ、ウォ、レ、っ」
「ヘィ、もう、すこし…」
鳶色の睫に、涙が乗っている様を間近で見詰め。撓る身体を抱き締める腕に力を込めた。
「ん、すげ、ぃい、あんたの中」
「ん、ン、」
声が僅かに甘くなる。熱が、内の一点を掠めるように推し進める。
「や、ば…ぃい、って」
「あ、は、ウォ、レ、…ッ」
きゅ、と眼を強く閉じて、ほんの少し笑みを乗せた相手に偽ることなく告げて。名を呼ばれて、ウン、と答える。
「うん、おれ。あんたのなかにいンよ」
わかる?とそうっと告げ。ぎゅ、と抱き締める。
「あ、ち、…」
ハ、と。蕩けた声に笑う。
「あちぃの、あんたの方だよ」
絶え間なく、蜜を零し始めた前を高めながら最後まで身体を繋ぎきる。
薄く開かれたままの唇が、美味しそうで。ゆっくりと覗いたブルーアイズは蕩けきっていた。
「ヘィ、ダァリン」
だから、そうっと呼びかけていた。キモチ、イイ、と囁き声で告げていた相手に。
「あした、おきれなくていいんだ…っけ?」
笑い声を乗せて、耳元に声を落としこむ。
「ちが、」
ウン、もちろん違うんだよね、わかってるけどさ。
ふる、と首を横に振るのを見詰めながら、うっすらと口許に笑みを乗せたまま、ぐ、とリズムを刻んだ。
「ぅ、あ、」
ゆっくりと、内側を埋めなおしていく。
「It means Yes?(それ、いい、ってこと?)」
びくびく、と跳ねるように揺らいだ身体を抱き締め直し、肩口に唇で触れる。
「あした、ステ、ジ、…んんぅ」
「まで、シテていいの?すっげ、」
「Fuck, No…ah,(バッ、ちが…あ、)」
ぐう、と腰を両手で掴まえなおし、ぐ、とまたキツク押し上げる。
「ウォ、レ、ま、てっ…って」
「うん、ここ……だっけ?」
に、と笑いながら。戸惑った声を上げた人が一番感じると解った場所を抉るように突き上げる。
「や、まて、ま…ァあ、」
「ッぁ、ハ」
熱い壁に絞り込まれ、ウォレンが一瞬眼を閉じ。昂ぶった熱を音を立てて触れていっていた手に、きつく縋られ、ぱち、とウォレンが眼を開いた。
そして、眼に飛び込んできた光景に、一層笑みを刻んだ。
香り立つような、色香に塗れて。喉を反らせて快楽に浸っている相手の姿に。
「なぁ、無理」
ゆる、と手指を濡らす熱を動かした。内をゆっくりと押し開いていきながら。
「な、ンぁ、」
「もう、タリねェモン、アンタに、すげ餓えてる」
「ウォ、レ…っ、んんんんっ、」
限界を訴える甘い声に、は、と熱い息を洩らし。
「何度でも、さ。イって?」
抱き締めた身体が強張るほどに、一点を押し上げ。
「あ、ァ、ウォレン…ッ」
甘い声と、割り開かせた先から迸る熱さに、ごく、と喉を鳴らした。
「は、ぁ、あぁ、あ…ッ」
耳にエコーする嬌声と、引き絞るうちから自身を引き出し。引き起こされた波に全てをゆだねきっている相手の、肩を引き寄せると正面から見詰め、一瞬胸を合わせるようにし。リネンに背中をつけさせた身体、その胸元に熱い飛沫を零し。
「んぅ、……っふ、ぁ」
真っ赤に火照る唇が嬌声を紡ぐのを、口付け舌で絡みとり。どこかむずがるようなあまい声を喉奥に押し込め、ゆるゆると差し出された舌を味わい、片手を静かに身体にそっておろしていけば、ふ、と。首に両腕がかけれられたとことに薄く笑い、ウォレンは唇を僅かに浮かせた。
そして、その間にもゆっくりと相手の片足を引き上げさせる。
「ゥオレ…?」
こく、と小さく息を呑み、そろ、とブルゥアイズが現われる。
「今度は、あんたの顔みてしたい」
ゆる、と唇を摺りあわせる。
「で、そのあとは、あんたの中を濡らして、」
押し合わせた下肢が、腕に抱いた人がまた昂ぶり始めたことを十分に伝えてくるのにウォレンがちいさくわらった。そして、ほんのりと色をのせた目元に唇で触れる。
「で、さ?ちょっと泣いてもらって。いままでで一番イイっていわせる」
どうよ、と笑いうっすらと微笑むようだった相手が、こくん、と息を呑むのを場違いなほど柔らかなキモチで見詰める。
「明日、座って歌う」
「ん、あんたサイコウ」
ふにゃ、と柔らかく微笑まれ。鼻先をあわせるようにして目元でわらってから。昂ぶりに手を添えた。
「声、ガサガサで、伸びなかったら、オマエのせいだ」
「オレがその場にいたらね」
あぁ、そうだよな、とふいと現実が甦った。
すげえいいファックしたって、このバ限り。ま、わかってたけどね。
ぱち、とブルゥアイズが瞬いた。眼を見開くようにし、そして。
「ナンデ?」
そう言ってきた。
なんで?はおれの方だっての、とウォレンが眉根を寄せた。
「質問の意味がわかんねぇし、ちょい黙って」
口付けて会話を切り上げようとしたなら、疑問符だらけの眼とぶつかった。
「なにそれ」
こんどはウォレンの方がわからなかった。なんだってあんたそんなガキみたいな顔するんだ?
「来れば、フェス?」
「うん?」
ていうか、送れ?と言い足していた相手に、首を傾げる。
「全部、シたら。オレ、動けねえよ?」
「うん、そう思うけど」
そうとう、久しぶりっぽかったし、アンタ、と内心で付け足す。
「じゃ、いいじゃん。ついでにオト、聞いてけば」
ふにゃ、と微笑んだ相手の笑みが無条件に幸福そうだったので、いいよ、と答えた。
ぺろ、と舌が伸ばされて、唇を舐めていかれるのにまた瞬きし、ふ、とウォレンは笑みを乗せる。
「わかった、じゃあ明日あんたを送ってく」
「ん」
な、ウォレン、と柔らかく呼んでくる声に意識を戻した。ん、と生返事をして、引き上げさせた膝にキスを落とす。
「オマエさ、カワイイカオしてんのに、すげえイイのな?」
視線を戻せば、柔らかな笑みが眼にはいってき。胸元に散らされたままだったものを指で掬い上げ、舌先に含ませていた。
「見た目通りじゃつまらないじゃん」
そう答えれば。スる?と。腰を軽く揺らした相手が訊いてくるのをウォレンが見下ろした。
「オレがシてもイイし、」
「けど、それだとおれが送ってく理由なくなる」
「オレの歌には興味ないんだっけ」
ざあんねん、と苦笑するように言った「歌うたい」にウォレンが眉を引き上げた。
「―――――つか。そもそも知らない」
「ん。まあそういうこともあるよな」
うん、と頷いた。
Never Mind、と笑った相手を見詰め、あぁ、とウォレンが呟いた。ほかのことはいっぱい知ってるけどさ、と。
「なぁ、まだシたいって気ある、」
「不思議と、」
こくん、と首を傾げて、言葉が返された。
「いまのでなんか、満たされた」
あぁ、そう、と返事する。
「ウン、なんかオマエとこうしてるだけで、なんかもういいや」
ふにゃ、と柔らかな笑みを浮かべた相手を見詰め、なるほど、と納得する。どうやら演技でも何でもないらしい、と。
「ウォレン、おまえってばヘンなヤツ」
そう言って笑った相手に、肩を竦めて。
「そ?」
と返して。両手で、一瞬、相手の頭をぎゅ、と抱き込んだ。
ふ、と息が洩らされる。柔らかく身体を添わされて。
「じゃ、バスだけ使わせて」
ぐ、と横になったまま身体を伸ばした。
「どうぞお好きに」
「さすがにコレじゃおれかえれねえし」
「あ、マジで帰るんだ?まあいいケド」
「つーか、」
はぁ、と溜息を吐く。そして、ごち、と金色アタマを軽く握った拳で小突いた。
なんだよ、と眼が笑っているのは無視する。
「勝手に一人でのんびりしやがって、アホか」
「んん?」
いぃ、と牙を剥いてから、ウォレンが身体を起こした。
「あー、いいよ別に。おれもよくわかってねぇから」
「あ。刺青がある」
背中を指で辿られ、あぁ、そうか、と気がついた。
「そっか、見てなかったっけ」
言いながら、フロアに落としたデニムを拾い上げ。指の辿っていった感触のあとに、唇で触れられた。
そして、するり、と腕が腰に回され。温かな体温が背中に重なった。自分の体温に溶け込みそうなソレに、眼を伏せる。
「―――――キモチいいね」
「あのさ」
耳元で声がした。肩口に顎を乗せている所為で、声がすこしくぐもっていた。
「よくわかんないんだけどさ――――――行くなよ」
届いた言葉の意味が幾通りにも形作られ、ウォレンが僅かに首を傾けた。
「たしかによくわかんねぇ」
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