―6―


荷物は先に送り出し。式当日、朝早くに迎えに来たシャンクスの車に乗って花嫁と指輪持ちは家を後にした。
柔らかな朝の光が、ふんわりと空気を甘くしていて。
祝いの言葉を送り終えたサンジは、小さくなっていくベントレーが見えなくなるまで見送り。それから玄関に凭れてその様子を見ていたゾロに視線を向けた。
どことなく満ち足りた顔―――他人の幸せを、心から喜んでいる。

「幸せそうだったね」
「幸せになるんでなけりゃ、結婚する意味なんぞ無ェだろうが」
「ん」
にこりと笑って、とん、とサンジに家の中に押し戻される。
「―――何か言いたそうな面だな?」
「んー?」
にこにこと笑っているサンジの髪をくしゃりと撫でる。淡い金が優しい光を弾く。
柔らかい声が、そうっと空気を揺らす。
「オマエのそういうトコロ、好きだな、って思っただけ」
にこにこと笑顔のまま、サンジはそれ以上に言葉を続ける様子は無い。
ゾロは肩を竦めてからキッチンに向かった。サンジも同じようについて来る。

人数分のプレートやマグを流しに運び、サンジが洗い物を始めた。
ゾロはテーブルに出ていたジャムやバターなどを冷蔵庫に仕舞う。
かちゃかちゃと、食器が触れ合う音が響く。

「―――寂しくなるね」
どこか苦笑するようなトーンでサンジが告げた。
「…オマエ。寂しがりだろ」
「う?」
ナンデバレタ?と青が告げてくるのに小さく笑う。
「テレビ点けっぱなしで寝たりとかするなよ」
「そこまではしないよ、多分」
「なんだよ、その多分、てのは」
「んー、本当に独りなら解らないけどさ」
タップを閉めてサンジが振り返る。
「ゾロが一緒だし」
にこ、と笑顔で告げられ、ますます苦笑する。
「なんだよソレ」
「寂しくはなるけど、本当に寂しくはならないってこと」

とん、と。額が肩に押し付けられた。
柔らかな金が、ふわりと揺れる。
「―――髪、伸びたな」
さら、と現れる項。白い、肌。
「そうなんだよね」
柔らかく笑って、サンジが離れる。
温もりが、肌に残る。
「いつの間にか、時間が過ぎてる。ちゃんと、生きてる。身体が知ってるんだ、例え意識してなくてもさ」
「―――サン」
くるり、とサンジが振り返る。
「生きてる、一緒に。それだけで幸せ、だよね」
にこ、と微笑んだサンジが、差し込む朝の日差しに煌いていた。

「リヴェッドちゃん、きっと世界一キレイな花嫁さんだね」
「―――あぁ」
「ベンさん、泣いたりするのかな、父親代わりだから」
「…まさか」
「シャンクスが泣いてたりして」
「アリエナイだろ、それはいくらなんでも」
「…ルシーアくんは、泣くかな」
「どうだろうな。あれは小さくてもオトコだから、案外泣かないかもな」

ふわ、とまた柔らかな微笑を浮かべ。
サンジが窓際に跪く―――朝陽に向かって両手を組んで。

神様、リヴェッドちゃんがこれから先もずっと幸せでありますよう、よろしくお導きください。

柔らかな声が、優しい願いを天に届ける。
柔らかな金に陽光が煌いて。

ゾロはじっとその様子を見守る。
足元に在った闇が、その瞬間薄れ。
暖かな日差しがそこにあることに、胸のどこかが痛みを覚え。
手を伸ばして捕まえたくなる、幸せそうな微笑みをただ間近で見詰めたくなる。
この身が犯した罪が消えることはない、一度血に塗れた手はその業を注ぎ落とすことはない。
だけれど。
裏路地に差し込んだ日溜りのように―――光りを、分け与えてくれるのだろうか、と。

立ち上がったサンジが、ふんわりと笑った。
腕が伸ばされ、頬に寄せられる口付け。
「――――ゾロ、迷子みたいな顔してる」
天上の青が覗き込んでくる。
くすん、と笑う声が響く。
さらりと頬を滑る指の感触。
「オマエも寂しい?」
柔らかな声―――甘やかすような。
「オレにできることなら言って。オマエの中の何かを、充たしてあげることはできないかもしれないけど……側にいるから」

何かが胸の中で、するりと解けていった。

「オマエが望む限り、側にいるから……オレのこと、もっと信頼してくれよな」

「……サンジ、」
目を瞑る。
言葉が、染み込む。優しい雨水のように。
「なに、ゾロ?」
「オマエ、―――これから昼寝に付き合え」
「…いいよ」
ふわ、と甘い声が応えた。
とくん、と心臓が小さく跳ねる―――不思議。

「適当な時間に目が覚めたら、考えよう」
「…なにを?」
「これから―――どうしようか、ってことを」
真っ直ぐに見詰めてくる青に笑いかけてみる。
それから言葉にする、少しだけ手を伸ばしてみる。
なぜか、何かに祈るような気持ちで。

What we’ll do together from now-on.
“二人でこれからどうしようか、ってことを。”
















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