―7―
柔らかなレースのカーテンが揺れる。
僅かに開けられた窓からは、心地よい風が吹き込んでくる。
客室のベッドルームは、淡い光りに包まれて。
だからなのか、夜は未だ魘されるサンジが、今は酷く気持ち良さそうに眠っている。
同じベッドの上。
安心して。
どこか幼いような顔をして。
野良猫、日溜りの中。
傷が癒えて、しっかりとグルーミングをされて、栄養を付けて。気付けば、酷く毛並みのキレイな生き物になっていた。
ダメだと解っているのに。
そうしてはいけないと解っているのに。
安堵している自分が居る―――このキレイなものが、離れていかないことに。
寸でのところで手を出しそうな自分を戒めた。
まだ、早い。
まだ。
それでも。自分の中の何かが、このキレイなものに開かれてしまったのは解る。
自分の中に残っていたキレイなままのカケラが、惜しみなくサンジから放たれる光りに呼応しているのが解る。
柔らかで直ぐにも消え入りそうな、優しさの名残のようなもの。
失くした筈の、なにか。
硬く閉じていた筈の自分を開いていったサンジは、だから。
きっと、捕らわれることがないだろう、足元に蹲る闇に。
どんなに暗い路地にでも差し込んでくる陽光のように、きらきらと輝いていけるのだろう。
絶望は、一歩先にあるけれども―――きっと、サンジは。飛び越えて行ける。
独りになっても。
“望む限り、側にいる”―――さらりと齎された言葉。
簡単に告げられたものなのかもしれない。
覚悟して告げられたものなのかもしれない。
―――重い約束になり得る言葉。
そんなに簡単に、自分をオレみたいなものに明け渡してくれるな、と言いたくなる。
オマエに傷が付いてしまうから。
それでも、きっと止めないのだろう。
傷ついても、傷つかなかったような顔をして、笑ってしまえるのだろう。
こんなに良い存在を、縛り付けてはならない―――日向のコドモなのだから。
暗闇は、自分だけが知っていればいい―――巻き込みたくはない、決して。その最中に在っても、捕らわれないようにしなければならない。
守ってやりたいと思う―――無償で“自分”を惜しみなく、差し出してくれる人だから。
せめてまた自分で、外へ―――光りの中へ、羽ばたいていける時までは。
オマエを決して連れてはいかないから。
光りの中へ、オマエは返すから。
側にいて、照らしていて欲しい―――闇が、充ちるまで。
取り囲まれたら、もう手を伸ばすことは叶わなくなるから、それまでは……。
「―――バカ猫め」
泣きたいような気持ちで見詰める。
目の先の、良き存在。
「そんなつもりじゃなかったって言っても、もう遅いんだぞ…?」
煌く金糸のような髪を指先で梳く。さらさらと流れる。
「散々煽って、ヒトを本気にさせやがって」
睫が光りを弾いている。
「大人しくしていようとしていたオレを、目覚めさせやがって」
闇が充ちるまで足掻くことはしないで、死が迎えに来るのを大人しく待っていたのに。
「……くそ、計画の練り直しかよ」
泣き笑いのような声になる、勝手に。
「テメェのワガママはきかないからな、覚えとけよ」
最後に泣いても、連れていったりはしないから。
「―――オマエのことを、手に入れちまうぞ」
覚悟を決める。
「うっかりテメェがオスだってこと、忘れてたけどな―――泣いたって、許してやるもんか」
本気で愛するから、自分を偽ることなく。
「―――惚れさせてヤル、バカ猫め」
So please love me too。
→ 6、8