* 参拾九 *
吉原:『朱華楼』雪花太夫の本部屋
いつもは余裕を持たせ、余韻を味わわせようとする遣手とは違い、さっさとサンジが場を仕切って片付けられた部屋には、エースにこれまたあっさりと布団を敷かれていた。
「いやいや、馴染み始めなんてそんなもんだよ」
うん、とエースが笑ってサンジに頷く。
「オマエさんも好きな人とアレになったら、そりゃあ同じ状態になるってナ」
頭をわしゃわしゃとかき回したエースをぎっと睨み上げ。サンジは気を取り直して、手水場から戻ってきたコーザを閨に通してから、乾き始めたプラチナブロンドの流し髪が眩しい花魁に、す、と頭を下げた。
「明け方には参りますえ、努々お忘れなきよう」
「あい」
困った風に笑った雪花の様子に、ああこりゃダメだ、と諦め。にこにこと笑いつつも目を煌かせているコーザを見遣って更にダメだと溜め息を吐いた―――――却って旦那さまの心をどうやら煽るだけの結果に終わってしまったらしい。
サンジはそのまま何も見なかったことにして頭を下げた。
「それでは」
サンジがいつになくきびきびと部屋を出て行ったのに、雪花は困った風に首を傾けた。
それでもいつもの手順でコーザを着替えさせ。帯を解いて長襦袢一枚の姿になり、そっとコーザを見上げればもう胸が高鳴ってしまってどうしようもなくなるのだった。
す、と手を掴まれ、男の顔を見上げれば、柔らかな声が甘やかすように告げてくる。
「おいで、愛しませてくれよ」
愛しているんだ、と声で、眼差しで告げてくる男の誘いを拒む理由があるわけもなく。ふわふわと込み上げるままに笑みを零して、そうっとコーザの首に両腕を掛ける。
「嬉しい、」
囁きに落とした声は、直ぐに口付けに溶かされ。横たえられて触れられれば、もうそれだけで吐息は荒くぶれて嬌声を混ぜ込ませる。
「ふ、ぁ…っ」
総てを愛する男の手に委ねきり、煽られるままに追い上げられれば、あっさりと蜜を零してしまう。
受け入れることを学んだ入口は、男の手管に翻弄されるままに溶かされ。口腔で高められながら奥を探られてしまえば、いとも簡単にまた深い快楽に流されてしまう。
「ん、んん…っ、」
過ぎる快楽に身を捩って漸く口腔から熱が離され。深く喘ぎながら涙に潤んだ双眸で男を見上げれば、にっこりと笑って身体を重ねてきたコーザに乱れた金糸を口付けられる。
「月と同じようだ、組み敷くのは忍びないネ」
すい、と腕を取られて体位を上下で入れ替えられ。セトはびっくりして男を見下ろす。
「こぉ、ざ、さま…?」
にっこりと笑った男に、するりと脚を割られて。跨ぐように促され、かぁっとセトが真っ赤に顔を染めた。
充分に潤滑油を塗り込められ解された場所に、ぐ、と男の熱が当たり。何をするべきなのかを知って、唇を噛み締める。
突付くように熱を押し当てられて、羞恥に泣き出しそうになりながらも、男を見下ろす。
「そんな、堪忍してぇ…っ」
けれど。だぁめ、と笑うように告げられて、雪花は、ほとん、と涙を落とす。
それでも、さら、と頬を指先でさらりと拭われ。せと、と甘い声で呼びかけられてしまえば、心を決める他はなかった。
誰より愛しい相手に乞われているのであれば、応えてあげたくはあるのだ。
くらくらとする頭をクリアにするために一つ深い息を吐き。気持ちを落ち着けてから、上体を擡げて、きらきらと目を輝かしている男を見下ろす。
腰帯はとっくにどこかへと失せ。肌蹴られるままに着乱れた深紅の長襦袢の裾をずるりと引き上げ、そっと腰の位置をずらす。
「ふ…っ、く、」
行灯の淡い光りの中で、初めて自分を貫く男の熱を目にし。かあっと一気に身体が熱くなって、衝動が促すままにそれを手に取った。
面白そうに見上げてくるコーザの目線に、きゅ、と困ったように眉根を寄せ。けれど、思い切って潤滑油を手に取り、温めるように手の中で伸ばした。それを両手で丁寧に、身を擡げた男の熱に塗り込める。
齎された快楽に吐息を洩らした男を見遣り。手を懐紙できれいに拭ってから、そうっと腰の位置をずらす。
さら、と熱い手が脚を辿り、指先が軽く入口をなぞったのにびくりと腰を揺らし。く、と尻を広げられる感覚に、熱い息を震える唇から零す。
そのままゆっくりと腰を下ろしていき、ぬるりとした感触が触れたのに、きゅう、と眉根を寄せた。
できるだけ緊張しないように、何度も息を深く吐き出しながら、ゆっくりと腰をさらに落としていく。
ぎりぎり、と開かれていくような感覚に眉根を更に寄せて、けれど目を閉じることはなく。じっと自分を見詰めてきている男の目に合わせたまま、ぐ、と手で支えたそれに腰を落としきる。
「―――――っ、」
ぐら、と頭が揺れて。満たされた体積に、身体を震わせて深く喘ぐ。
手を置いていた腹筋を今度は両手で辿り。さら、と腰を撫でられて、ぴくん、と肩を揺らした。
「Ah,」
身体がどうしようもなく熱くて、頭がぼうっとする。
「せと、」
甘えるような声に、とろ、とした視線を合わせれば。セトの両手を腰で支えた男に、ぐる、と中を掻き混ぜるようにされ、きゅう、ときつく中を締め付けた。
低く呻いた声が耳に届き、それが酷く嬉しいのに小さく笑って。肩にずれ落ちていた長襦袢を引き上げてから、長い淡い金色の髪を掻き上げた。
くぅ、と目を細めた男に、うっとりと笑いかけて。軽く促すように腰を揺らした男に合わせて、そうっと腰を引き上げる。
「あ、ァ…、」
ぞわぞわと腰骨に溜まる熱に促されるままに、ゆるゆると腰を蠢かせる。
煽るように熱い手に、怯むことのなかった中心部を揉み扱かれて、込み上げるままに嬌声を上げた。
「溶けて、しまう、」
喘ぎ声の合間に言葉を洩らす。
溶けちまえよ、と歌うように告げられ、くう、と泣き笑いを浮かべた。
溶け入って一緒になれてしまえばどんなにいいだろう、と白く発光する頭の中で願うように思う。
濡れた音が響くのも気にならずに、男が突き上げてくるリズムに合わせて腰を揺らした。
「は、あ、ああ、」
きゅ、と熱を扱かれ、嬌声が悲鳴に変わる。
「も、だめ、」
先端を弄られ、胸の飾りに触れられ。身体の奥深くから湧き起こった震えに、きつく目を瞑った。
「あああ…っ、」
甲高い声を上げて一瞬の熱に全身を焼かれ。背中を反らして達っしてしまえば、後から追いかけるように一際強く押し上げられ。奥深くに熱を零され、さらに熱病に冒されたかのようにぶるっと身体を震わせた。
「あああああ、」
ぐ、と身体を擡げた男の強い腕に抱き寄せられ。くたりと身体の力を抜いて男の身体に凭れ掛かる。
荒い息のまま押し当てるだけの口付けを浴びて、震える指先で男の乱れた髪を梳いた。
「こぉざさま、」
掠れる声で名を呼び、頭の中で散った光が落ち着いていくのを待つ。
さらさら、と片手で髪を梳かれて、うっとりと笑った。
「I love you with all my heart. How can I tell you that I’m loving you with much more…?」
あなたを心の総てで愛しています。どうすればそれ以上に愛していると伝えられるのでしょうか、とうわ言のように囁いて。自分から唇を合わせる。
長襦袢がするりと腕から抜かれていき。深く舌を絡められて、回した両腕に力を込める。そうっと体重を倒され、背中が布団に着き。中の角度が変わったことに、低く唸って小さく震えた。
くぷ、と音を立てて抜かれて、一瞬で頭の内側が焼けるような羞恥を感じる。
「は、ァ」
喘いで、顔中にキスが落とされ。セト、と甘い声で呼ばれる。
「キレイだよ」
とろんとした目で見上げて、小さく微笑む。
さら、と唇を撫でていった指が、軽く唇の内側に潜り込んできた。少しばかり開いて、ぺろ、と舌で舐め上げる。
微笑んだコーザがもう片方の手で、さら、と脇腹を撫で上げてきた。
「ん、っふ、」
喘いで、軽く歯を立てる。
くっと笑った男が、す、と背中に手をずらし、うつ伏せになるように促してくる。そしてそのまま背中をさらりと熱い掌に辿られた。
「ふ、ぁ…っ、」
さぁっと風が凪いだように快楽が漣のように通り過ぎていき、大きく口を開いて喘ぐ。
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